01-07
「お待たせ。そろそろ寝ましょう……。なにやってるの?」
「もふもふ」
「ふにゃあ……」
レオンをテーブルの上に仰向けに転がして、お腹をわしゃわしゃ撫で回す。気持ちいいのか、レオンもふにゃふにゃだ。リフィルは撫でるのが上手なのかも。えっへん。
「何やってるのやら……。ほらほら、寝るわよ」
魔女さんがさっと手を振ると、テーブルなどが全て部屋の隅に移動して、代わりに大きなベッドがぽんと出てきた。ちなみにレオンはテーブルと一緒に離れてしまったから目を丸くしてる。とりあえず抱いておこう。
「水浴びは……今日は魔法で済ませましょう」
また魔女さんが手を振ると、ほわっとした光がリフィルを包んだ。ぽかぽか温かい不思議な光。気付けばなんだか綺麗になった……気がする。気が、する。
「清めの魔法よ。魔法も教えてあげられたらいいんだけど……。出発、五年ほど待てない?」
五年.それはとても長すぎる。リフィルが首を振ると、だよね、と魔女さんは力無く笑った。
「それじゃあ、寝ましょう。レオンの寝床はここね」
魔女さんがまた手を振る。するとテーブルの上にふわふわな布が敷き詰められたカゴが出てきた。
でも……。一緒に寝たらだめなのかな?
「今はだめ。私が一緒に寝てあげるから」
それは……。それも楽しそう。こくりとリフィルは頷いた。
レオンがさっとカゴの中に入る。丸くなってふわっと大きなあくびをするレオンがとてもかわいい。もふもふしたいけど……。さすがに我慢だ。
魔女さんと同じベッドに入って、目を閉じる。そうすると、魔女さんがリフィルのことを抱きしめてきた。
「魔女さん、あったかい」
「そう? リフィルもあったかいわよ」
「ぬくぬく」
「ぬくぬくね」
魔女さんが頭を撫でてくれる。それがなんだかとっても気持ち良くて……。
リフィルはあっという間に眠りに落ちてしまった。
そうして、三日が過ぎた。
「これでよし」
リフィルは魔女さんが作った外套を羽織っていた。真っ白な外套で、所々に不思議な紋様や宝石がくっついてる。魔女さんが言うには、各種魔法のものだとか。
外套にはフードもついていて、雨がふっても安心だ。フードは余裕のある大きさで、レオンを頭に載せたまま被ることもできる。
丈夫さもかなりのもので、フードを被ってない時は下ろしたフードにレオンを入れておいても大丈夫。とっても便利。
「判断基準がレオンになってない?」
「……?」
「いや、いいんだけど」
レオンはとってもかわいい。常に一緒にいたいのは、リフィルのわがままだから問題ない、はずだ。多分。
「外套にかけている魔法は、汚れよけ、破損防止、自動修復、水よけ、結界。リフィルが作ってる結界ほど強力ではないけど、身を守る術にはなるはずよ」
外套の結界。本当に必要なのかな。だってずっと作り続けてるのに。
「リフィルの結界は強力な分、魔物相手に特化してる。人相手、というのがあるから」
「ひと」
「そう、人。怖いのは魔物だけじゃないの。人間も、だから。リフィルはかわいいからね。攫われないように気をつけてね」
人攫い。知識としてはあるけど、自分が攫われる、というのはよく分からない感覚だ。だってリフィルに魅力なんてないから。
「はあ……。レオン、任せたわよ」
首を傾げるリフィルに魔女さんは呆れたようなため息をついて、レオンに言った。
「にゃあ!」
任せろ、とばかりにレオンが前足を上げる。魔女さんはまだ不安そう。
「まあ……信じましょう。これがアイテム袋ね」
魔女さんが渡してくれたのは、拳大ぐらいの巾着袋、のようなもの。紐で縛るシンプルなものに見える。でも手を突っ込んでみたら、どこまでも入ってしまう。ちょっと怖い。
「心配しなくても、腕以外の人体は入らないから」
「ん……」
「取り出したいものを念じながら手を入れれば、自然と取り出せるから。入る量は……想像もできないわね。全力で作ったから」
「おお……」
それは、とてもすごいもの。貰っちゃっていいのかな?
ちょっとだけ不安になっていたら、魔女さんは笑いながら撫でてくれた。
「いいのよ。持っていってね。あなたの旅の無事を祈ってるわ」
「がんばる」
「ええ、がんばって。町や村には私の使い魔がどこかにいるから、もし何かあったら探しなさい」
それはとっても心強い。リフィルが頷くのと同時に、レオンがにゃあ、と一鳴きした。
「んと……。すとーかー……?」
「あんたが言うな」
「にゃうっ!」
魔女さんがレオンにデコピン。レオンは痛そうに額をおさえてころころしてる。そんな様子もとってもかわいいと思う。レオンはかわいい!
「それじゃあ……。いってらっしゃい、リフィル。私はここで待ってるから」
「……!」
待ってる。そう、待ってる。つまり、リフィルはここに帰ってきていい、ということ。リフィルの、帰る家。魔女さんはずっと長く生きてるみたいだから、いなくなる心配もない。
帰る家。それがなんだかとても嬉しくて。
「いってきます」
ほんわかした気持ちで、リフィルは魔女さんに手を振って旅立った。
・・・・・
森の中へと消えていく一人と一匹を見送って。魔女は大きなため息をついた。
心配だ。心配だけど、レオンもいるからきっと大丈夫だ。あの子は……絶対にリフィルを守るから。
レオンの体は、魔女の師匠が倒して保存していた体を使ったものだ。伝説の魔獣、白虎。白虎は師匠へ自分の体を好きに使えと言ったらしい。そのまま師匠から譲り受け、今回使わせてもらった形になる。
では魂はと言えば……。それは、今までリフィルの体を使っていた魂だ。
あの魂は全てを諦めて、ずっと眠っていた片割れに全てを押しつけてしまったようだが……。どうやら心配だったようで、つかず離れずの場所でリフィルを追い続けていた。
それを見つけて、説得して、白虎の体を譲って……。それが、今のレオンだ。
リフィルは三日間の間にいろいろ教えてくれた。あの子が戻ってきた時のためにがんばるんだと。それを聞いていたレオンの顔が、虎のくせに盛大に引きつっていたのが印象的だった。
まあ、つまり。あの子が帰りを待っている相手は、すでに戻ってきているというわけで。せめて旅の間に、レオンが打ち明けられたらいいのだけど。
「まあ……。私は見守ってあげることにしましょう」
もしもあの子が危ない目にあったら、いつでも助けられるように。ただ今は、少女の旅の無事を祈った。安全で楽しい旅になりますように。優しい人に出会えますように、と。
壁|w・)というわけで。白虎レオンの中にいるのは転生者さんの魂です。
さすがに罪悪感が勝ったのでつかず離れずで見守ろうとしていたら、魔女に補足されました。
全てを押しつけてしまった代わりに、全力でリフィルを守ります。もふもふ。
次回は閑話。




