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捨てられ少女の壁作り ~聖女に捨てられ魔物があふれた国で、もふもふと一緒に結界を作ります~  作者: 龍翠
第五話 捨てられ少女はぺたぺた歩く

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05-08


 リフィルが一瞬だけ固まって、やがてゆっくりと動き始めた。顔に張り付いていたレオンを引きはがして、頭にのせる。レオンは一切動かなかった。

 そうしてから、リフィルは両手を握ったり開いたりして、少しだけ不思議な表情を見せる。自嘲するような、そんな顔だ。

 そうして、リフィルはまっすぐに聖女と王子を睨み付けた。


「どうも」

「あ、ああ……」


 明らかに様子が変わったリフィルに、聖女と王子は困惑している。無理もないことだろう。どことなくぼんやりとした様子だったリフィルが、今やはっきりと意志のこもった目で二人を睨んでいるのだから。


「なんだっけか……。あー……」


 リフィルはそうつぶやいて、そして言った。


「うん。とりあえずは、だ。聖女さん、俺はお前が嫌いだ。大嫌いだ。今すぐここで殺してやりたいぐらいに、心底嫌ってる」

「え……」

「そこの王子は犠牲になり続けるとかなんとか言ってたけど……。知らないよそんなこと。ただ一つ確かなのは、聖女さんが結界の維持を放棄した。ただそれだけだ。その結果として、俺の村は滅んだ。そうだろ?」

「それは……」


 聖女は何かを言おうと口を何度か開閉して、しかし何も言えずに頷いた。だが王子の方はすぐに先ほどと同じことを叫んだ。


「ま、待て! だからリーリアの方が国に裏切られて……」

「うん。で? 国に裏切られたから、俺の村は滅びても良かった、てことか? なあ、聖女さん。あんた、生きてるよな? なんなら今は隣国で幸せだろ?」


 へらへらと、リフィルが笑う。普段のリフィルでは絶対に見せない表情で。


「俺たちは村が滅びて、こうしてあんたが放棄した結界の代わりのものを、ずっと張ってるわけだ。知ってるか? 最初は一人っきりでやろうとしたんだよ。結界を、放棄した、聖女さんの、代わりに、な?」

「……っ」


 リフィルが言いたいことはとても単純だ。お前のせいで自分が不幸になった。ただそれだけ。ただそれだけだが、聖女には重かったようで、口を引き結んでいる。


「なあ、聖女さん。隠れ里、行ったよな?」


 リフィルがそう言うと、聖女の肩がびくりと震えた。


「結界の魔力を追いかけて、こうして俺たちに追いついたんだろ? てことは、あの隠れ里も見たはずだ。再会できた? 両親とさ」

「は、はい……。お父さんとお母さんと、会えました……」

「よかったな。俺はもう会えないけど」

「……っ」


 聖女が両手を握りしめる。何かに耐えるように。


「聖女さんの村人はさ、ほとんどみんな生きてるらしいな。ご両親も、いい人だった。俺たちにも良くしてくれたよ。リフィルが聖女を大嫌いだって言っても、さ」


 本当にいい人だった、と思い出すようにつぶやくリフィル。そうして優しく微笑んで。


「なあ。生きてるじゃないか。両親。俺の両親はさ、もういないんだよ。どこにもいないんだ。薄くなった結界を通って、魔物が俺の村を襲って、俺以外、全部食っちまったよ」


 だから、とリフィルが続ける。


「俺はあんたが憎い。今すぐ殺してやりたい。その喉元を噛みちぎってやりたい。ああ、そうだよ……。なんで俺、我慢してるんだろうな。ああ、殺したい。魔物の代わりに俺が……!」


 それはただただ純粋な殺意だった。聖女も、そして王子ですら息を呑んでリフィルを見つめている。リフィルの隣ではアレシアも、どうすればいいのか分からないようでおろおろとしているだけだった。

 ただ、もしリフィルが何か動こうとすれば止めるつもりではいるみたいで、戸惑っていてもずっとリフィルを見つめている。いつでも止められるように近くで。

 それがなんとなく分かるから、リフィルは無理矢理気持ちを落ち着かせた。


「もちろん、聖女さんが全面的に悪いわけじゃないってのは分かってる。だから、もう俺たちに関わらないでくれ。聖女さんの気持ちは、まあいいことだとは思うけどさ。俺は、俺たちは、聖女さんのことが大嫌いなんだ。俺たちの村がなくなった原因であることは変わらないんだから」


 行こう、とリフィルがアレシアを促す。アレシアは小さく安堵のため息をもらして頷いた。

 そうして、リフィルたちが城へと戻ろうとしたところで。


「なぜ……リーリアが悪とされなければならない!」


 王子が叫んだ。


「で、殿下! 私は! 私はもういいですから!」

「止めないでくれ! こんなことを言われて、君が傷ついているのに……! 黙っていられるか!」


 はあ、とリフィルがため息をついて、また振り返る。その目には侮蔑の色がありありと浮かんでいた。


「なんだよ……」

「リーリアを裏切ったのは国だ! だが、追い出したのはこの国の民、君たちだろう! 王都の民はリーリアに石まで投げたそうじゃないか!」

「ふうん。で?」

「リーリアだけを責めるのは……」

「いやだって……」


 リフィルがゆっくりと周囲を見回す。誰もいない王都を。荒れ果ててしまった王都を。


「その人たちも……皆殺しにされたのに、何を言えばいいんだよ」

「だから……!」

「それとも、あれか? 俺の村の人たちも同罪だった、と? 止めなかったお前らも悪いだろう、と?」


 はっ、とバカにしたようにリフィルが笑う。ただただ呆れ果てていた。


「王都のやつらは聖女さんと直接接しただろうに、とは思うけどさ。他の村にまで求められても困る。確かに俺の村の人たちも、本当の聖女が見つかって良かった、なんて言ってたけど」

「そうだろう!」

「じゃあ、どうしろって言うんだ? 王都に近い場所ならともかく、遠くの村なんて情報は行商人頼りだ。それ以上は分からないし、そもそも俺たちの村に伝わったのは婚約破棄のずっと後だし」


 確かに、情報の鵜呑みは悪いことだ。それは納得するところではある。けれど、情報源なんてものは遠方の村には分からないし存在しない。


「無知は罪だ、なんて言葉もあるけど……。それを言えるのは、無知を無知だと知れる環境にいるやつだけだ。まあ……。何もできなかった俺が言えることじゃないけど」


 最後は、どこか自嘲気味の言葉だった。聖女を嫌っている。憎んでいる。そしてそれ以上に、自分のことも嫌っている。それが分かる声色だった。


「ああ……」


 聖女が、小さくつぶやいた。


「結界が使えるようになった時は、もう……」

「…………。まあ、うん。みんな、食い殺された後だったよ」

「……っ」


 王子が目を見開く。考えてもみなかったのだろう。王子はきっと、リフィルが最初から結界を使えると思っていたのだろうから。


「もういいだろ? もう来るなよ。俺たちは俺たちでやるから」


 そうして歩き去って行くリフィルたち。今度はもう、聖女と王子も止めようとはしなかった。


   ・・・・・


壁|w・)こんな感じになりました。


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― 新着の感想 ―
感情のままのように見えてしっかりと理性で一線を引いているのに、上から目線で論破しようとしても無理な話 市井を知らない王子と言う意味では変わらない もう一人は甘言やら干渉もなくただ一人の傲慢で国中に不…
まあ仕方ない。聖女はこれ以上関わらないように私が回収しておきますのでその辺にしましょう^^
まずいな…リフィちゃんが大喜びしてしまう
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