01-05
魔女さんは夜に戻ってきて、晩ご飯を一緒に食べてくれた。あと今日も一緒に寝てくれた。ぬくぬくで、なんだか幸せな気持ち。そして翌朝にはまた出かけて行ってしまった。やっぱり忙しいみたい。
翌朝もフォースが道案内をしてくれて、それにぺたぺたついていく。
そうして歩き続けて、お昼頃。
「わあ……」
ついに目的地らしき場所にたどり着いた。
森の中にぽつんと建つログハウス。二階建てに見えるお家で、屋根付きのウッドデッキもある。ウッドデッキにはテーブルと揺り椅子が設置されていた。
中はどんな部屋なんだろう? ちょっとのぞいてみたいけど、他人のお家に勝手に入ることは悪いことだ。それぐらいの知識はある。
リフィルがどうしようかと悩んでいたら、フォースがカアと鳴いて呼んでくれた。フォースはテーブルの上に立っている。テーブルにはリフィルが気に入っているふわふわのパンが積まれていた。
魔法か何かなのか、ほかほかと湯気が立っていて、まるで焼きたてみたい。とても、とっても美味しそう。
そのパンを認識すると、きゅう、とかわいらしい音がリフィルのお腹から鳴ってしまった。
魔女さんはとても、とってもひどい人だ。こんなに美味しそうなパンを放置していくなんて。とても食べたくなるじゃないか。
「カア?」
フォースが、パンが積まれたお皿をこっちに押してきた。もしかして……。
「たべて、いいの?」
「カア!」
当然だとばかりに頷くフォース。なんと、食べていいらしい。
「カア! カアカア!」
さらには揺り椅子に座るように促されてしまった。勝手に家具を使うのはどうなんだろうと思ったけど……。フォースが言うならきっと大丈夫。遠慮なく座ろう。
そうして揺り椅子に座ってみると……。これは、なんだか不思議な椅子だ。ゆらゆらと揺れて、心地良い。疲れている時に座ったら寝ちゃうかも。
揺り椅子に座りながら、パンに手を伸ばしてぱくりと一口。本当に焼きたてみたいなパンで、ほくほくふわふわ。とても、美味しい。
揺り椅子に揺られながら、パンをもぐもぐ食べる。こんなことをしていていいのかと不安になるぐらい、なんだか幸せ。
「んふー」
ふんにゃり笑いながら、リフィルは美味しいパンを楽しんだ。
夕方頃になって、魔女さんは戻ってきた。
「よかった、ちゃんとたどり着いていたのね」
魔女さんはそう言って、リフィルとパンを見る。ちなみにパンは今も湯気を立てている。いつでも焼きたて。すごい。さすがにちょっと不気味だけど。
「うん。ちゃんと食べてるわね。気を遣って食べないかもと不安になっていたのよ」
「おいしかった」
「ふふ。そっか。よかった」
そう言って、魔女さんがリフィルの頭を撫でてくる。とても心地良い撫で方だ。なでりなでり。ほんのり幸せ。
そしてそのまま、ぽすんとリフィルの頭の上に何かを載せられた。
「ん……?」
頭に手を伸ばしてみる。ふわふわもふもふ。リフィルの髪じゃない。動物の、ふわふわ。そっと持ち上げて目の前に持ってくると……。猫だ。黒いしましまの入った白猫。かわいい。
「ねこ」
「ね……!? あ、そっか、トラとか知らないのか……。ホワイトタイガーよ」
「ほわいとたいがー」
それがこの子の名前らしい。なんだかとってもかっこいい。
「ほわいとたいがー、かわいい」
喉元を指先でこちょこちょしてみる。ホワイトタイガーはちょっと憮然としていたけど、気持ち良さそうに目を細めた。
「えっと……。ちなみに、ホワイトタイガーっていう名前じゃなくて、そういう種類と思ってほしいかな……?」
「ん……」
名前じゃなかった。勘違いで、ちょっと恥ずかしい。
魔女さんはリフィルを撫でて、次にホワイトタイガーを撫でて……。なんだろう。ちょっとお腹がぽかぽかしてきた。なんだかホワイトタイガーと繋がったような、不思議な感覚が……。
「これでよし」
「……?」
「リフィルとこの子の魔力を繋げたから。この子は、リフィルの使い魔よ」
「つかいま」
魔女さんとフォースの関係。いまいちよく分からないけど……。この子は、リフィルと一緒にいる、みたいな感じかな?
でも、リフィルはこの先、旅をすることになる。連れて行くのはかわいそう。
「この子はリフィルと一緒に行くことを望んでいるからね」
「そうなの?」
「そうなの」
ホワイトタイガーを見る。にゃあ、と鳴いてリフィルを見つめてきた。
結界を作る旅。一人でしないといけないと思っていたけど……。この子が一緒に来てくれる、らしい。
「いっしょ?」
「にゃ!」
元気よく前足を上げるホワイトタイガー。小さいにゃんこみたいで、とってもかわいい。もふもふだ。思わずそのもふもふのお腹に顔を埋めたら、くすぐったそうに身をよじり始めた。もうちょっと。
「ふふ……。リフィル。その子に名前をつけてあげてね」
「おなまえ」
「そう。その子は、リフィルの使い魔だから。あなたが決めるの」
名前。名前。急にそんなことを言われても、ちょっと困る。名前をつけるなんて、やったことがないから。
むむむ、と少し唸って、ふと頭に浮かんだ名前があった。
「レオン」
それが、この子の名前。決めた。この子は、レオンだ。
「よろしく、レオン」
「にゃあ」
ホワイトタイガー、レオンは嬉しそうに返事をしてくれた。
あれ? でも……。
「もうちょっと、かわいいなまえが、いい?」
レオンは小さい猫みたいな姿だ。とってもかわいいもふもふ子猫。レオンというのは、ちょっとイメージが違う気がしてくる。
そう思っていると、魔女さんは笑って首を振った。
「それで大丈夫よ。その子、大きくもなれるから」
「おおきく?」
「そう。いざという時にあなたを守る守護獣だから」
しゅごじゅう。なんだかとてもすごそう。レオンを見ると、どうだとばかりに胸を張った。とりあえずかわいいので抱きしめておく。あと吸っておく。とてもいい匂い。
「ふふ……。気に入ってくれたみたいで安心したわ。仲良くしてあげてね?」
「ん」
言われなくてもそのつもりだ。最初は旅に連れて行くのはどうかと思っていたけど、なんだか他人の気がしない不思議な感覚。これが、使い魔ということなのかも。この子なら連れて行っても問題ない、と思ってしまうから。
「それじゃあ、お家に入りましょうか。旅に必要なものを用意してあげる」
「いいの?」
「結界を張り直してもらうんだもの。これぐらいはさせてちょうだい」
魔女さんがお家のドアを開けて手招きしてくれた。どんなお家なのか、ちょっと楽しみ。
壁|w・)旅のお供、もふもふ枠の白虎ちゃんです。




