05-05
「まさかこんな子供がここまで来るなんて思わなかったわ」
部屋に入ってきたのは女性の兵士さん。兵士さんはリフィルたちを見ると、目を丸くして驚いていた。まんまるおめめ。
剣をしまってくれた兵士さんに、旅をしていてここまで来たことを説明。とりあえずはそれで納得してくれたみたい。安心。
「へいしさん、いきのこり?」
「ええ、そうね。姫様が隣国の菓子が欲しいと言ってね……。城になかったから、私が買いに行ったのよ。その間に……」
「まもの、きた?」
「そう」
幸運、だったのかも? そのおかげでこの人は生き残れたのだから。
でも、兵士さんはとても悔しそうにしていた。
「私は……本来は姫様の護衛だったの。ちょっとわがままだったけれど、無理難題を言うような子じゃなかったわ。明るくて、がんばりやで……。お菓子も、お菓子好きのメイドがいつか食べてみたいって言っていたから、こっそり買っておいてサプライズにするつもりだったのよ」
「いい人だったんですね」
「ええ。せめて……私は、あの人を守って死にたかった……!」
ぎゅっと剣の柄を握る兵士さん。その気持ちは、ちょっとだけ分かってしまう。リフィルも、あの子と一緒にいたかったから。
「その……。ドレス、ごめんなさい……」
アレシアがそう言うと、兵士さんははっとして笑顔で首を振った。
「気にしないで。姫様も、持ち物がこのまま朽ちてしまうより、誰かの役に立った方がきっと喜ぶはずだから。宝石とかも持っていって構わないわ。ドレスも……着せてあげる」
ほらほら立って、と兵士さんに促されて、リフィルとアレシアは立ち上がった。とっても優しい兵士さんだ。どれが似合うかな、なんて言いながら選び始めてる。
「姫様はいろんな国の服をお持ちだったから……。いろいろあるわよ」
「おー」
「気に入った衣服があれば、それも持っていってね」
「いいの?」
「いいのよ。きっと、その方が喜ぶから」
リフィルにはよく分からない感覚だけれど、そういうものらしい。きっと姫様という人は、とってもいい人だったんだと思う。
そんな人も魔物に食べられてしまったのだと思う。良い人も、悪い人も、みんなみんな食べられて……。会ったことがないから実感はわかないけど、悲しいことだと思う。
兵士さんに手伝ってもらって、ドレスを着てみる。アレシアは赤いドレスで、リフィルは青いドレスだ。背中がぱっくり開いたドレスで、なんだかとってもすーすーする。
「へん」
「そう? リフィちゃん、かわいい!」
「んぅ……。シアも、かわいい」
「えへへー」
「にゃあにゃあ!」
二人で見つめ合って、アレシアがなんだか照れ臭そうにはにかんだ。それがとってもかわいいと思う。リフィルもかわいいらしいけど……。よくわからない!
レオンはにゃあにゃあ鳴きながら器用に後ろ足で立って、前足でぺふぺふ拍手してくれてる。似合ってる、と言ってくれてるのかも。そんなレオンもやっぱりかわいい。
「うんうん。二人とも、とってもかわいい!」
兵士さんがにこやかに褒めてくれる。褒めてくれるのはいいけど……。また新しい服を取り出そうとしてる。
なんだか、嫌な予感がする。具体的には、かなり前に訪れた魔道具職人さんがいる町の、お針子さんの勢いに似てる。そんな気がする。
つまりは! めんどくさいやつだ!
「シア。まかせた」
そっと逃げようとしたら、腕をがっしりと掴まれてしまった。
「にがさないよ、リフィちゃん」
「にゃ」
なんと足はレオンにホールドされてしまってる。前足で抱きつくような形でがっしりと。かわいい! ふりほどけない! 困る!
「さあ、次にいきましょう」
兵士さんが出してきた服は、また違うタイプの服だ。今回のはドレスじゃなくて……。ローブ。魔女さんが着ているようなローブだ。
「ほらほら」
兵士さんに急かされて、お着替え。ドレスは着るのも脱ぐのも大変だけど、ローブはとても簡単だった。ポンチョのようなローブなので。頭から着て、頭を出す。ただそれだけのローブだ。
「リフィちゃん、魔女っぽい!」
「シアも、まじょ」
「えへへー」
みんな魔女っぽい。ただ、このローブは手も出せないから、ちょっと動きづらいと思ってしまう。不便。ちょっと、不便。
でも兵士さんもレオンも喜んでいた。レオンは訳知り顔でうんうんと頷いてる。なんだこの猫。
「どうしてこんな服があるんですか?」
アレシアが聞くと、兵士さんが苦笑いして教えてくれた。
「姫様は魔法に憧れていたのよ。魔女にもちょっとだけ憧れていたみたいでね……。あまり人には言えなかったから、この服もほとんど着れなかったわね」
「そう……」
魔女が、リフィルの知る魔女さんみたいな人ばかりだったら、きっと違っていたんだと思う。魔女さんのような人が少数なのは分かってるけど。
「ほら、次!」
「まだあるの?」
「次で最後にするから!」
そんな兵士さんに呆れながらも、着替える。これもまたちょっと着方が分からなかったけど、兵士さんが手伝ってくれた。
なんだか不思議な服だ。明らかに今までの服とは違うもの。
「これは極東の民族衣装で、和服、というものよ。不思議な形状だけど、かわいいでしょ?」
「かわいい?」
「リフィちゃん、かわいい!」
アレシアはそれしか言ってない気がする。でもアレシアもかわいいと思う。
そしてレオンは。
「にゃああああん!」
右前足を掲げていた。ガッツポーズ、みたいな感じ。我が人生に悔いなし、みたいな言葉が聞こえてくるような気がする。きっと気のせい。
でも……。レオンが好きなら、たまになら着てもいいかも。
結局、着させてもらった服は全部もらうことになってしまった。売るのももったいないので、大事にさせてもらおうと思う。
壁|w・)きせかえ!




