04-11
その後は特に大きな問題は起きなかった。商人さんはしばらく滞在するらしく、旅立ちはリフィルたちの方が先になった。
朝に起きて、みんなで村を散策して、お昼ご飯を食べて。夕方になるとへんてこな青年から聖女の話を聞く。そんな生活をちょっとだけ続けて、旅立ちの朝。
「んむ……」
リフィルはベッドの中で目を覚ました。もぞもぞと体を動かして、自分を抱きしめてる人を見る。リリスだ。反対側ではアレシアがエルクの腕の中にいた。
この二人はいつも自分たちを抱きしめてくる。何かの代わりなのかもしれないけど……。特に何かを言うつもりはない。リフィルもあったかいのは好きだから。
「あら……。おはよう、リフィルちゃん」
「うん」
リリスの笑顔に、リフィルも笑顔で頷く……。そうしたいのだけど、相変わらずリフィルの表情筋は仕事をしてくれない。リリスもそれは知っているので、笑顔で頭を撫でてくれる。それがとても、気持ちいい。
「けっかい、ばっちり」
昨夜、ついに村を覆う結界が完成した。これでこの村が魔物に襲われる心配はない。安心安全。
でも、リリスは悲しそうに眉尻を下げてしまった。
「そう……。じゃあ、旅に出るのね」
「うん。また、あるく」
「ここで暮らしたりは……」
「しない」
ちょっと不思議だ。どうしてみんな、リフィルの旅を止めるんだろう。いろんな人が心配して、一緒に暮らさないかと言ってくれる。気持ちは嬉しいけど、不思議だなと思う。
だって、結界があった方がみんな安心なのに。どうして引き留めようとするんだろう。それがリフィルには分からない。
「せめて朝ご飯は……食べてね?」
「うん」
こくりと頷くと、リリスは嬉しそうに微笑んだ。
「そう決まれば! 準備よ!」
そう言って勢いよく立ち上がって。
「エルク! 起きなさい! ご飯の用意よ!」
「うわあ!?」
そして当然のようにエルクが叩き起こされた。
「ど、どうしたんだい急に……」
「リフィルちゃんが旅に出るから! 朝ご飯と、お弁当! 作るわよ!」
「え? ああ、そうか……。もう、か……。分かった。やろう」
そうしてエルクとリリスが寝室を出ていく。あっという間の出来事で、リフィルはそれを呆然と見送ってしまった。
「うみゅ……。どうしたの、リフィちゃん……」
「わかんない」
とりあえず朝ご飯はもらえるみたい。今はそれでいい、かな?
「てつだう」
「うん……」
まだちょっとふわふわなアレシアを連れて、リフィルも寝室を後にした。
「ふみゃー……」
なお、レオンは寝たまま。寝ぼすけさんだ。
朝ご飯は商人さんから仕入れたという柔らかな白いパンにジャム。保存の魔法が使われていて、白いパンもある程度は日持ちするらしい。すごい。
「アイテム袋に入れたら、かんたんなのに」
「わたしたちのアイテム袋がおかしいんだよ?」
そういえばそんなことも言われた気がする。やっぱり魔女さんはすごい!
柔らかいパンにジャムの組み合わせはとてもいいと思う。甘酸っぱいジャムで、とっても美味しかった。
そして、お弁当。リフィルのアイテム袋は劣化しないからと、お昼ご飯と晩ご飯のお弁当を作ってくれた。美味しいお肉も入ってる! とても楽しみ!
「おべんとう!」
「喜んでもらえて嬉しいわ」
大切にアイテム袋に入れる。お昼ご飯と晩ご飯がとても楽しみ!
さらに、リフィルたちが出発すると知ると、村の人たちからたくさん食べ物をもらった。近くの川で捕れたお魚とか、牧場で育てているお肉とか……。いっぱい!
しばらく食べ物には困らないと思う。とても、嬉しい。
そうして、旅の準備を進めていたら。
「なんだ、行くのか」
あのへんてこな人が声をかけてきた。
「うん。たびを、つづける」
「そうか」
そんな話をしていたら、どうしてかリリスさんとエルクさんが間に入ってきた。リフィルをかばうように立つ二人。
リフィルは首を傾げてしまう。確かに嫌な気配のする人だけど、まだ何もしてないのに。
「失礼ですが、この子はもう旅に出るので」
エルクがそう言うと、へんてこさんは肩をすくめただけだった。
「分かっている。ああ、そうだ。旅の目的を聞いてなかったな。聞いてもいいか?」
「けっか……」
「住みよい場所を探しているだけです!」
リフィルの言葉を遮ったのは、リリスさん。本当に、何なんだろう?
へんてこさんはちょっとだけ冷たい目をリフィルに向けて、けれどそれ以上は何も言わずに立ち去ってしまった。本当に、へんてこな人だった。
「ほら、リフィルちゃん」
「そろそろ行きなさい」
「うん……」
二人は、リフィルとアレシアを受け入れてくれてる。でも、今は、今だけは、村に残ってほしくないみたい。多分、へんてこさんだ。あの人が原因だと思う。理由は分からないけど。
気にはなるけど、気にしないでおく。こういうことを気にしていたら、旅なんてできないから。
「またきても、いい?」
「もちろん。いつでも来てほしい」
「待っているからね。アレシアちゃんと、レオンも」
「はい!」
「にゃあ!」
ここはとても居心地が良かったから、旅が終わったらまた来たい。そう考えながら、リフィルたちは隠れ里を後にした。
「おべんとう! おにく! いっぱい!」
「いっぱいだね!」
「にゃーう!」
もらったお弁当にはお肉がいっぱいで、とっても美味しかった!
壁|w・)へんてこさんは関係のない人です。
関係のない人ですけど、次の閑話につながりm……関係のない人です!




