04-08
翌日。リフィルは朝ご飯を食べて、アレシアとお散歩をすることにした。一緒についてきてくれるのは、リリスだ。お弁当を作ってくれて、ちょっとしたピクニックの気分。
「おしごと、だいじょうぶ?」
「大丈夫よ。エルクが頑張ってくれているしね」
そういうことらしい。それはそれでエルクが大変そうだけど、本人たちが問題ないのなら気にしないでおく。
それじゃあ気にせずお散歩だ! リフィルは頭にレオンをのせて、アレシアと一緒にのんびり隠れ里を歩いていく。
家と家の間隔は広くて、あちこちが畑になっているけど……。働いている人はやっぱり少ない。それに何よりも。
「こども、いない?」
「いないのよね……」
「んー……。隠れ里、消えちゃう?」
「いつか消えるでしょうね。それでいいのよ」
「……?」
リリスの言葉に、リフィルは意味が分からなくて首を傾げてしまった。だって、消えてしまっていいなんて、そんなのもったいない!
「この村が隠れ里としてここに引っ越してきて、まだ十年も経っていないのよ。ここの家も畑も、全部魔女様が用意してくれたの。私たちが、安全に過ごせるようにって」
「魔女さん」
「そう、魔女様。娘が聖女として王都に連れて行かれて……。五年ぐらいかしら。魔女様が来て、強く勧められたの。このままだと迫害を受けることになるから、避難しろって」
「はくがい?」
「えっと……。いじめられること、かしらね。最初は分からなくてみんな行かなかったけど、ある日、とんでもない噂が流れてきたのよ」
聖女が偽聖女だったという噂。王子に婚約破棄を突きつけられて、国外追放になった、と。
「それを知った村長が、すぐに移住を決意したわ。他の村や町に親戚がいる者はそっちに行って……。幼い子供がいる人は、人の少ない村に移り住んで。私たち子供のいない大人は、村長と共に魔女様が用意してくれた隠れ里に移住したの」
理由はとても単純。偽聖女だと言われた人がリリスたちの村の出身だと多くの人が知っていたから。だから、元の村は捨てたらしい。真実はどうあれ、それを信じた愚かな民衆が村を攻撃しないとも限らないから。
「大変だったんですね」
アレシアがそう言うと、リリスは苦笑いして首を振った。
「そうでもないのよ。ほとんど全てのことを魔女様がやってくれたもの。魔女は悪しき存在だってずっと言われて育ってきたけど……。きっとこれも、偏見なのね」
「うん。魔女さんは、いいひと」
「はい。わたしも尊敬しています」
「ふふ……」
魔女は悪い人。極悪人。そんな話はリフィルもたくさん聞いてきたし、そう言われているということはお世話になった魔女さんにも聞いていた。
それに。実際に、ほとんどの魔女が結構な悪人だということも。
「魔女さんは、いいひと。でも、魔女は、こわいひと」
「えっと……?」
「んー……」
どうしよう。なんて言えばいいのか分からない。リフィルがむむむと唸っていたら、アレシアがすぐに助け船を出してくれた。
「わたしも聞いたことがあります。善人の魔女の方が数は少ないって。ほとんどの魔女は、自分の研究のために平気で人を犠牲にするって」
「ああ……。そうなのね……」
「うん。だから、きをつけて、ね?」
「ありがとう。そうするわ」
そうしてお話をしながら村を歩いていく。たまに出会う人からは、みんなに優しく声をかけてもらった。どこから来たのか、とか、旅をしているのか、とか……。あと、甘い果物をもらったりもした! みんないい人!
「もぐもぐもぐもぐ」
「私、リフィルちゃんが甘いお菓子で攫われたりしないか不安だわ」
「あ、あはは……。レオンがいるので、大丈夫ですよ……。多分……」
果物をくれる人に悪い人はいない。間違いない! レオンも頭の上で果物を食べて満足そう……。
「レオン。かじゅうが、たれてる。かおに、かかる。かか……、ぬあー」
「あらま」
「あはははは!」
リリスにもアレシアにも笑われてしまった。リフィルはこんなに困っているのに。少しぐらい助けてくれてもいいと思う。
でも、みんな果物をくれるけど、どうしてみんな持っているんだろう。おやつかな?
「村長から連絡があったのだと思うわ。かわいい旅人が来ているってね」
「かわいい……。うん。シアは、かわいい」
「リフィちゃんもかわいいよ?」
「なでなで」
「なでなで」
アレシアと撫で合いっこしてみる。二人で頭をなでなで。レオンはさっと移動して歩き始めた。レオンは空気を読めるいい子です。
「二人は仲良しね」
「シアは、たいせつな、おともだち」
「です!」
「あらあら」
楽しいことも辛いこともある旅だけど、アレシアと一緒だと平気だ。もしも一人で旅をしていたら、どこかで折れてしまっていたかもしれない。
だから。アレシアも。そしてレオンも。リフィルは大好きだ!
「そう……。きっと、二人の出会いは運命だったのでしょうね」
「ぐうぜん」
「え? いえ、でも……」
「ぐうぜん」
だって。運命だったのなら、アレシアの家族が死んでしまったのは必然だったということになる。そんなものは運命だと思いたくない。
そうどうにか説明すると、どうしてかリリスに頭を撫でられてしまった。アレシアはなんだか不思議な顔をしてる。ちょっと泣きそうな顔。
「なに?」
「リフィちゃん……。ううん……。わたしはリフィちゃんと会えて良かったと思ってる」
「それは、わたしも、おもってる」
アレシアは泣きそうな顔で笑っていた。今日のアレシアはちょっと変かもしれない。
壁|w・)もふもふが頭の上で果物を食べて、その果汁が顔にかかる、というのを書きたかった!




