04-06
エルクの家に帰ってきたリフィルたちを待っていたのは。
「おかえりなさい」
リリスの笑顔と、とっても大きなお肉だった!
「おー!」
「ふふふ。どうだい? なかなかの大物だろう?」
「おおもの! おおもの!」
「すごいね!」
「にゃおん!」
豚、みたいな動物だ。サイズこそはあまり大きくないけれど、それをなんと丸焼きにしてしまっている。丸焼きなのでどうしても中まで火は通りにくいのだけど、魔道具で食べられるようにはなってるらしい。悪い虫をやっつける魔道具、みたいなものなんだとか。
もっとも、そんな魔道具の仕組みなんてリフィルには興味がないわけで。それよりも今は、ほかほか湯気の立っているお肉に興味津々だ。
そんなリフィルの様子をみんなも見ていたので、エルクは笑いながら椅子を引いた。
「ほら、早速いただこう」
「うん!」
うきうきと、表情が分かりにくいリフィルにしては珍しく、わくわくしているのが見て分かる。お肉はたくさん食べてきたけど、やっぱり大きいお肉はそれだけでわくわくしてしまう。
みんなが椅子に座ると、エルクが大きな包丁でお肉を切り分けてくれた。お腹を開くと、香草をつめて焼いたのかふわっと良い香りが漂ってくる。食欲をそそられる、とっても良い香り。
「おー……」
何かつけて焼いたのか、お肉はちょっと黒っぽくなっている。でも焦げているわけじゃなくて、そういう調味料をつけているみたい。
早速お肉をぱくりと食べてみた。
「やわらかい……!」
「すごい!」
驚くほどに柔らかい。味もしっかりとついていて、これはとっても美味しいお肉だ。素晴らしい!
「もぐもぐもぐもぐ」
一心不乱に食べるリフィルを、エルクたちは微笑ましそうに見つめていた。
「どうだい? 美味しいお肉だろう?」
「とってもおいしい」
「美味しいです!」
「ふふふ……。実はこのお肉には、秘密があるんだよ」
秘密。それはとっても気になる内容だ。それを知ることができれば、旅先でもこんなお肉が食べられるかもしれないから。
期待の眼差しをエルクへと向ける。エルクは何故か頬を引きつらせた。
「あー、えっと……」
「エルク。そんな言い方をするから。ごめんね、リフィルちゃん。旅先でできるようなことじゃないのよ」
「むう……」
それはとても残念だ。勝手に期待してしまったのはリフィルだけれど、エルクももうちょっと言い方があっただろうと思ってしまう。
でも。それはそれとして、興味はやっぱりある。全部の旅が終わったら、こんなお肉を作りたいから。あの子と一緒に、アレシアも一緒に、みんなで。
こほん、とエルクが咳払いをして、秘密とやらを教えてくれた。
「実はこの動物は、村で育てているんだ。捕れた、というのはちょっと隠したかったから言っただけだね」
「ん……」
それは、とても難しいことだと思う。だって、結界がなかったら、動物を育てることなんて難しくなってしまうから。
今まで巡ってきた村でも乳を手に入れるために動物を育てている村があったけど、それもたくさんの人が交代に見張りをしていたりして、とても手間がかかっていた。この村の規模だと難しいと思ってしまう。
エルクは、いたずらっぽく微笑んで言った。
「実はね。かつての聖女の結界が、つい最近まで残っていたんだ」
「……っ」
わずかに目を瞠るリフィル。だって、あの結界はもうとっくに消えてしまったと思っていたから。
「多分、ここの村の結界が最後まで残っていたんじゃないかな。だから安全に育てることができていたんだよ。外敵の脅威もなく、のびのびと育った動物。それがこのお肉だね」
「…………」
どうしてだろう。そういうものなのかと思うのと同時に、やっぱり聖女の結界と聞くとちょっと不愉快だ。
こんなお肉なんて……リフィルには、必要ない!
「もぐもぐもぐもぐ」
でもお肉には罪はないので食べます。美味しいので。
「心なしか食べるスピードが上がった気がする……」
「そんなに気に入ったんだ……」
「何か嫌なことを振り切ろうとしているように見えるような?」
そんなことはない。美味しいお肉が悪いのだ。
そうして食べ進めていくけど、会話には参加しない。聖女の話を聞いてしまうと、どうしてもちょっと嫌な気持ちになってしまうから。今のリフィルはむかむかなのだ。
そんなリフィルを気に掛けてくれているのか、アレシアが頭を撫でてくる。それがとっても心地良い。
「聞いていいですか?」
アレシアがエルクたちに言って、エルクたちが頷いた。
「どうして、その話を? リフィルちゃんが聖女を嫌っているのは分かっていますよね?」
「ああ……。少しでも、聖女のことを知ってほしいと思ってしまうんだ……。余計なことをしてしまっている、というのは分かっているんだけど……」
「この村は……聖女のことが好きなんですね」
なるほど、とちょっとだけ思ってしまった。みんな聖女が好きだから、聖女が嫌いなリフィルにも聖女を好きになってもらいたい。そういうこと、なんだと思う。
リフィルからすれば余計なお世話というやつだ!
エルクは、少しだけ困ったような笑顔になった。
「そうだね……。それも間違いではないんだけど……。実際は、もう少し踏み込んだ関係になるかな」
「踏み込んだ関係、ですか?」
「そう。この隠れ里が生まれた理由でもあるよ。この事実を知ると、変なやつらが来るようになったことがあったからね。だから、ここに移り住んだんだ」
「あの時は大変だったわねえ。楽しかったけれど。あの子が頑張ってると思うと、私たちも頑張らないとと思えたしね」
「その……。その理由って……?」
エルクたちは、どこか誇らしげな様子で言った。
「この隠れ里の村人は、聖女の生まれ故郷の村人だよ」
・・・・・
壁|w・)おにく! おにく! おーにーくー!




