04-05
お昼ご飯を食べ終えてから。頭にレオンをのせたリフィルは、アレシアと一緒に村を散策することにした。隠れ里。確かにただの村と大差ないけど、それでもやっぱり興味があるから。
のんびりと村を巡っていく。村の規模としては、かなり小さい方だと思う。
村や町と一言で言っても、その中でも当然規模はそれぞれ違う。今まで旅して見てきた村の中だと、小さい村なら住人が三十人ほどしかない村もあれば、百人以上いる村もあった。
この村は二十人ほどらしい。かなり小規模の村だと思う。家の数も少なくて、家と家の距離が離れていることも多い。でも、村の人たちはとっても仲良し。ちょっと不思議。
村を見て回るに当たって、エルクから注意されたのは、村をぐるっと囲っている柵からは出ないように、ということだった。その中なら比較的安全らしい。
逆に言えば。柵の中なら、自由! 遊んでもいい!
「みずあそび、したい」
「うん! しよう!」
村には川もあるのだとか。リフィルたちがお魚を釣った……釣った? あの川の上流。川の水はとっても綺麗で、川遊びをしてもいいよ、とのこと。村の端っこだけど、危険な動物もあまり入ってこないらしい。
あまり、ということは多少は入ってくるということだけど……。レオンがいるから大丈夫。
ということで。たどり着いた小川はお魚を釣ったあの川と似たような立地になっていたけど、浅くて狭い川だった。一番深いところでリフィルが立っても、肩から上が出てしまうぐらい。
それじゃあ早速。
「ていや」
「え」
服を全部脱いで、丁寧に畳んで川原に置いておく。もちろんローブも。つまり、今のリフィルは、すっぽんぽんだ!
「リフィルちゃん!? さすがに、ちょっと……。隠そう!?」
「どうして?」
「えっと……。そういうものらしいから!」
実はアレシアもよく分かってない。でも大人はみんな隠してる。だから隠した方がいいんだろうな、という程度の認識。つまりどこを隠せばいいのかは分からない。
この場にはお子様しかいないので。どこをどうして隠すのかはどっちも知らないのだ!
「くにゃあ」
知っていそうなレオンは我関せずの立場。リフィルが置いた服の上で丸くなってお昼寝体勢。大丈夫、何かあったらすぐに起きるから。
「らく、だよ?」
「…………。だよね!」
アレシアも理由がよく分からない決まりより目の前の楽しそうを優先した。服を丁寧に畳んで川原に置いて、リフィルと一緒に川に入っていった。
幸い、すっぽんぽんな二人をのぞき見るような人はいないけれど……。大人が一人でもいたら、きっと注意したことだろうと思う。そんな大人は近くにいないけれど。
「つめたい」
「つめたいねー!」
楽しそうなリフィルとアレシアの声だけが周囲に響いていた。とっても楽しい!
冷たい水の掛け合いとか、どれだけ長く潜れるかとか、そんな普段はできない遊びを楽しんでいたら、二人を呼ぶ声が聞こえてきた。
「おーい。リフィルちゃん、アレシアちゃん、いるかーい?」
エルクの声。はて、なんの用だろう。
「そろそろ晩ご飯だよー」
その声にはっと我に返って周囲を見てみたら、周囲はすっかり赤くなっていた。もうそろそろ夜だ。とっても長い時間、二人は川で遊んでいたみたい。
レオンも声に反応してくにゃあとあくびをして伸びをしてる。かわいい。
「あはは……。遊びすぎちゃったね」
「うん」
二人で川から出て、体を震わせる。遊んでいた時はあまり気にならなかったけど、ちょっと寒い。冷たい川に入りっぱなしはさすがにだめだったかもしれない。
「川にいるのか、い……」
エルクが川に来て、そしてすっぽんぽんな二人を見て硬直してしまった。
「…………。どうして裸なのかな……?」
「らくだから?」
「楽だからです」
「いや、あの……。まあ、子供だし、いいのかな……?」
何とも言えない顔をしながらエルクはため息をついた。
「タオルはいるかい?」
「大丈夫です! ちょっと待ってくださいね」
ささっとアレシアが魔法を使う。温かい風が二人を覆って、すぐに体はぽかぽか、水は乾いてしまった。とっても便利な魔法だ。体を冷やさなくて済むから安心。
「驚いた……。魔法が使えるのか」
「あ……。その、えっと……。はい……」
アレシアは少しだけ顔を青ざめさせて頷いた。
リフィルもすっかり忘れていたけど、魔女というのはあまり好ましく思われない。一般の人からすると、不可解な現象を簡単に引き起こす存在だから。魔女は歓迎されない存在なのだ。
もっとも、二人はよく分かっていないだけで、魔法使いというのはわりといたりもする。でも、それはほとんどが大きな街にいるし、大規模な魔法は使えない。魔法使いを超越してしまった魔女が恐れられているのだけど……。村では、ちょっとした魔法を使えるというだけで迫害の対象になり得る。
そんな迫害の可能性を思い出して、アレシアは緊張してしまう。そしてそれに気付いたリフィルが、そっと前に出てアレシアを後ろにかばった。
アレシアは妹分なので、リフィルお姉ちゃんが守らないといけないのだ!
「いや、すごいね……。水とか出せたりするかな? 井戸から汲む必要がなくなって、リリスを楽させてあげられるんだけど」
「え? それぐらいなら、できます、けど……」
「そっか! じゃあ明日とか、頼んでもいいかな?」
「はあ……。分かりました」
なんだか、予想と違う反応。もちろん悪いことではなくて、とっても良いことだけど……。アレシアは不思議そうにしてる。
でも。リフィルは安心だ。だって、もうしばらくこの村で過ごせそうだと思ったから。
「よし。それじゃあ早く服を着て、晩ご飯にしよう。今日はいい獲物を狩れたからね。美味しいお肉があるよ」
「おにく!」
それは! とっても大事なことだ!
「シア。はやく。はやく」
「リフィちゃんも服を着ないと……。もう着てる!?」
お肉が待っている。つまり! リフィルは限界をこえられる!
「限界をこえて服を急いで着る意味が分からないよ!」
何故か怒られてしまった。解せぬ。
意味が分からないといった様子で首を傾げるリフィルを、アレシアとエルクがちょっとだけ引いたような顔で見つめていた。なぜ。
壁|w・)ちっちゃい子が水遊びをするだけのお話。




