04-04
リリスとの顔合わせが終わったら、お昼ご飯。エルクがあらかじめ女の子二人を連れてくると伝えておいてくれたらしく、ちゃんとリフィルたちのご飯もあった。
ご飯は村で育てている作物を使った黒いパンと、村の人が狩ってきた動物のお肉。あとは、ちょっと薄味だけどスープもある。黒いパンは固いから、スープで柔らかくして食べるらしい。
早速食べてみる。黒いパンをスープに浸して、柔らかくなってからぱくりと一口。
「んー……」
正直に言うと……。ちょっと、微妙。パンもスープも薄味で、あまり美味しくない。お肉の方は濃いめの味付けで美味しいから、お肉を食べながらパンも食べてちょっとごまかす。
やはりお肉。お肉は正義。お肉が美味しい。
「ははは……。お肉だけでも口に合って良かったよ」
エルクが苦笑いしてそう言った。リフィルははっきりと感想を言っていないけど、態度から察せられてしまったみたい。ちょっと申し訳ない気持ち。
「もう少し色々手に入ればいいのだけど……。ごめんなさいね」
リリスもちょっと申し訳なさそう。その色々は手に入らないのかな。
「ここを知っている行商人は来てくれるけど、それでも一般の村よりはるかに少ないんだ。だから、香辛料の類いもあまり手に入らない」
「かくれざと、たいへん」
「はは。まあ自分たちで選んだ道だけどね」
「ん……?」
自分で選んだ。それはつまり、隠れ里は本当に最近、この人が生きている間にできたということ?
不思議に思って首を傾げたけれど、エルクは説明するつもりはないらしい。それ以上は何も言わずにパンを食べ続けてる。
「リフィルちゃんたちは結界を張る旅をしているのよね?」
そう聞いてきたのはリリスだ。リフィルは何も言わずに黙って頷いた。口の中はお肉とパンでいっぱいなので。もごもご。
「ふふ……。呑み込んでからでいいからね?」
「もご」
ごくんと呑み込む。お肉美味しい。
「うん。けっかい、はる。このむらも、はる」
「そっか。それは聖女の結界と同じものなのかしら」
「ちがう、はず? いちどはれば、きえない、らしい」
「消えない……? 維持とか、しなくてもいいの?」
「だいじょぶ」
「なんだって……?」
反応したのはエルクだ。そういえばエルクにも、結界を張る旅をしているとは言っていてもどんな結界かは言ってなかったと思う。
「わたしのけっかいは、いちどはれば、きえない、らしい。ちゃんと、まものもはいれない」
「そんな……。そんな結界があったなんて……! もっと早く来てくれていれば……!」
「んぅ?」
どうしてか、エルクが震えてる。ちょっと怒っているらしいというのは分かるけど、どうして怒っているかが分からない。
リフィルが困っていると、ずっと黙っていたアレシアが言った。
「リフィちゃんは結界を得る時に、住んでいた村が滅んでいます」
「え……」
「もっと早く滅んでいればよかった、とか言いたいんですか?」
「い、いや……。でも、魔法とそれは関係ないんじゃ……」
「新しい結界の魔法は……悲劇という代償がいるらしい、ですよ?」
「…………」
エルクが黙り込んでしまった。アレシアが、ごめんねとリフィルに謝ってくる。リフィルとしてはとっても困ってしまう。だって。なんだか、すごく勘違いされてる気がするから。
リフィルはあの頃はぼんやりとあの子の生活を眺めていただけ。だから、村が滅んで悲しいという感情はそこまで大きくない。悲劇があったとするなら、それはあの子だから。
ああ、でも、あの子と離れ離れになってしまって寂しいのは事実だ。それを思い出すと、悲しい気持ちになってしまうから。
ちょっとだけしょんぼりとしていたら、エルクが慌てたように言った。
「いや、すまない。そんなつもりじゃなかったんだ。謝罪するよ」
「んー……。きにして、ない。だいじょぶ」
「そっか……」
そうなのだ。あの子が聞いていたらちゃんと謝ってほしいけど。
「にゃう」
足下でお肉にがっついていたレオンは、なんだか不思議な感情のまま鳴いた。
「えっと……。そ、それじゃあ、しばらくはこの村に滞在するのよね?」
「うん」
「そう! それじゃあ、この家を自分のお家だと思ってゆっくりしてね。お肉ならいっぱいあるからね」
リリスが言うには、近くにたくさん動物が集まってくるらしくて、狩猟もそれだけ成果があるらしい。理由は分からないけど、肉には困らないのだとか。
それはとってもいいことだと思う。だって、お肉。そう、お肉。お肉がいっぱいということだから! たくさんお肉が食べられるなんて、なんて幸せなんだろう!
「おにく、いっぱい。うれしいね、レオン」
「にゃう……」
どうしてだろう。レオンにとっても呆れられた気がする。不思議。
「結界なんて聖女みたいね。リフィルちゃんが新しい聖女になるのかしら」
そんなリリスの言葉に、リフィルは思わず顔をしかめてしまった。だって、聖女になんてなりたくないから。
「あら……。もしかして、聖女のことが嫌い、とか……?」
「大嫌い」
そうはっきりと明言すると、エルクもリリスも狼狽えてしまった。何も言えない二人へと、リフィルは言う。
「けっかい、きえた。まものがたくさん。むらが、ほろんで……」
リフィルは自分の村に強い執着はない。けれど、あの子がとっても悲しい気持ちになったのは、村が滅んだからだ。そしてそのきっかけは、聖女がいなくなってしまったから。
だから。リフィルは聖女が大嫌いだ。あいつが原因だから。
「聖女がいなくなったから、よね?」
リリスが聞いて、リフィルはこくりと頷いた。
「でも、その……。聖女にも理由があったかも……」
「しらない」
知らないし、興味がないし、どうでもいい。例えどんな理由があったとしても、聖女がいなくなった事実は変わらない。
子供っぽいと言われるかもしれない。もうちょっと考えてみろなんて言われるかもしれない。でも、そんなことは無理な話だ。
子供っぽいもなにも、リフィルはまだ子供で、そして子供のまま成長を止められてしまっているのだから。
「わたしは、聖女が、大嫌い」
それきりリフィルは口を開かなかった。少なくともこの人たちは、聖女に好意的に見えるから。きっと、リフィルの気持ちを聞くと嫌な気持ちになってしまうと思うから。
エルクとリリスはそんなリフィルを見つめながら、複雑そうに眉尻を下げていた。
壁|w・)晩ご飯もぐもぐ。
レオン「我関せずもぐもぐもぐ」




