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捨てられ少女の壁作り ~聖女に捨てられ魔物があふれた国で、もふもふと一緒に結界を作ります~  作者: 龍翠
第三話 魔道具職人

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03-17


 リフィルたちが旅立ってから、季節が一巡りした頃。レスターはついに試作品を完成させた。


「よし……よし!」


 試作品の魔道具はカンテラのような形になっている。カンテラの内部に魔道具の核となる魔石が取り付けられていて、魔力を流すと魔石に刻まれた魔法が発動する、という仕組みだ。

 その際に光も発するので、一応カンテラとしての役割も果たすことができる。高価な魔石を使っているのでカンテラとして使うにはもったいないが。

 試しに魔力を流し込んでみれば、魔石が光り、結界が周囲を覆った。結界の大きさは、馬車一台を覆えるか覆えないかぐらいのサイズだ。荷馬車程度なら問題ないが、貴族が使うような大型の馬車は覆いきれないだろう。


「大きさは……今後の課題だな。問題は強度についてだが……」


 こればかりは実験が難しい。リフィルの結界を参考にしているので魔物にのみ有効とはなっているだろうが、強度がどれほどかは全く分からない。調べる手段がない。


「彼らを雇うか……」


 そうつぶやいて向かった先は、ギルド。何でも屋とも言える冒険者が集まる施設だ。そこで、結界の魔道具の性能試験の依頼を出した。

 出した、のだが。


「おいおい、レスターさん、まだこんな魔道具を作ってるのかよ」

「結界とか……。聖女様の結界があるんだぞ?」

「呆れて何も言えねえ……」


 理解は、得られなかった。

 リフィルがこの町に来てくれたことは本当に運が良かった。良かったのだが、同時に危機感も抱かれなくなってしまった。

 かつての聖女の結界は、もうすでに消失してしまっている。けれどこの町には、リフィルの結界がすでにある。

 しかもリフィルは少し広めに結界を張っていたようで、近場で狩りをするぐらいなら結界から出ないで済んでしまうのだ。

 だから、この町のほとんどの人は、聖女の結界が消えていることに気が付かない。かつてこの町を訪れた小さな少女に守られているなど、誰も気付いていない。


「文句は……言うべきでは、ない。当然だとも」


 誰も死んでいない。それがどれだけの奇跡なのか。知る者は少なくとも、この町が確かに守られている。それだけで、十分だ。

 なぜなら。結界を張っているリフィルが称賛なんてものを望んでいないのだから。レスターと出会っていなければ、普通の旅人と同じように町を訪れ、しばらく過ごし、結界を張り終えたらそのまま黙って去って行ったことは間違い無い。

 それを考えれば、もっと関わっておけば良かったと思ってしまう。せめて彼女たちの献身を知っている者として、もっと報いれば良かった、と。


「いや……」


 あの子たちはレスターの魔道具作りに協力してくれた。ならばきっと、魔道具を完成させることが、あの子たちの献身に報いる方法だ。

 レスターの魔道具が完成すれば、あの子の結界が途中であっても、魔物による犠牲者は減らせるはずだから。


「仕方ない……。自分で行くか」


 もしもの時が不安だが、今回の試作品には絶対の自信がある。だから、大丈夫のはず。そう自分に言い聞かせ、レスターは性能試験のために町から出た。

 もっとも。試験を終えてその効果が確認されたところで、誰にも評価なんてしてもらえなかったのだが。




 けれど。ある日を境に、その評価は一変した。


「聖女の結界!? そんなもん、とっくになくなってるよ!」


 そう叫んだのは、遠くの町から行商していたという商人だ。行商など今では命がけの危険な行為なのだが、これ以外の生き方を知らないのでずっと続けているらしい。


「そんなばかな! いつから!?」

「一年前からもうかなり弱まっていたんだよ。知ってるやつらは、新しい結界が張られている町や村、隣の国に行ってるぞ」

「新しい結界だって? そんなものがあるなら、俺たちもすぐに……」

「はあ? この町は張られている町だろうが」


 そこでようやく、この町は新しい結界に守られていることを知った。今まで被害が出なかった理由も。行商人は、めでたいやつらだと呆れていたが。


「だが覚悟しろよ。俺みたいに行商をなんとか続けているやつはまだいるが、どんどん数は減っていってる。外からの物は入ってこなくなると思えよ」

「ああ……。そ、そうだ! あの人の魔道具なら!」

「魔道具?」


 そうして。レスターの魔道具は日の目を見ることになった。行商人が魔道具の効果に驚き、作られている試作品を大量に購入。出会う行商人に伝えてくれることになった。

 そうして、さらに季節が一巡りする頃には。


「お、お兄ちゃん……。とんでもないことになったね……」

「俺は研究を続けるだけだ」

「この研究バカは……!」


 レスターたちは、いつの間にかとんでもない金銭を得てしまった。

 冒険者を始め町の人々からも理解を得られ、今では多くの人が魔道具の研究に協力してくれるようになっている。


「ミントにも苦労をかけたからな。豪遊してみるといい」

「遠慮します……」

「そうか?」


 妹の協力と理解がなければ、きっとこの魔道具は完成しなかった。だからこれで得られた金銭はミントの自由にしていいと思っているのに。


「ねえ、お兄ちゃん」

「どうした」

「あの子たち、元気かなあ?」

「…………」


 リフィルがこの町を訪れてから、すでに二年。未だに魔物の被害のある地域は残っている、とは聞いている。きっとあの子たちの旅は、今もまだ続いているのだろう。

 せめて。レスターの魔道具があの子たちにも届いていればと思う。少しぐらいは、旅の助けになってくれるはずだから。


「また会いたいね」

「ああ……。改めて礼を言いたいな」

「ね」


 またこの町を訪ねてきてくれるかは分からない。せめて旅の無事を祈ろう。レスターとミントは静かに祈りを捧げた。




「リフィちゃん、このカンテラ、便利だねえ」

「うん。とても、べんり。とどけてくれた、魔女さん、かんしゃ」

「みゃあ」


 その魔道具は、多くの人を救っていて。

 旅をする少女たちにもしっかりと行き渡っていた。


壁|w・)最後はわりと未来の部分。

次話は閑話で、聖女さんのお話。


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― 新着の感想 ―
なんてことだ、レスターがまるでいい奴みたいじゃないか! …いや、よく考えたらミントさんよりはマシだったかも知れない
きちんと伝わった! 製作者が知るかどうかはわからないけど、よかった!
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