03-13
次に案内されたのは、薬草のお店。アレシアの希望のお店だ。
街外れにある建物で、ちょっと古そう。建物にヒビが入っていたりして、ちょっと不安になってしまう。本当にこのお店で大丈夫なのかな。
「建物はこんなだけど……。間違い無く、この町で一番の品揃えだから」
ミントが言うには、このお店のポーションの評判がよくて、冒険者の人たちがみんなここに来るのだとか。そんな冒険者から薬草を買い取るから、自然と集まってくるらしい。
リフィルには薬草があまり分からないけど、アレシアは詳しいみたいで、まだお店に入ってないのに目をきらきらとさせてる。楽しそう。
早速お店に入ってみる。
お店の中は薄暗い。窓にはカーテンがあって、あまり光を入れないようにしているみたい。そんなお店の棚には、たくさんの草が並んでいた。他にもお薬っぽい液体とか。
「わあ……」
アレシアは早速近くの薬草を見始めてる。薬草は乾燥させていたりそのままだったりと、いろいろ。どんな違いがあるのか、詳しくないリフィルには分からない。
「アレシア、くわしい?」
「師匠から教わっていたのが薬草中心だったから……。一般の人よりは詳しいと思う」
「おー」
師匠。アレシアの村にいた、魔女さん。魔女であることをやめちゃった人らしいけど、きっとすごい人だったんだと思う。だって、アレシアがこんなに尊敬しているから。
もうちょっと、リフィルもちゃんと話しておけばよかったと思う。もう、それは叶わないけれど。
「…………」
ああ。やっぱり、この町の結界を張り終えたら、また旅に戻らないと。あんなことが少しでも減らせるように。リフィルの中で、あの村の一件は大きいものになったから。
「ちょっと待っててね」
アレシアはそう言うと、売り物の薬草を集めていく。薬草の状態を見て、必要な量を的確に選んでいくその姿はちょっとかっこいいかも。
いつの間にかお店の奥から出てきたおばあさん、多分店主さんが、そのアレシアの様子を興味深そうに眺めていた。アレシアはとってもすごいのだ!
そうして、選び終えてカウンターへ。アレシアはとっても上機嫌。いい薬草があったのかもしれない。
「いい目利きだ。お前、ポーションは作れるのか?」
「はい、もちろんです。師匠に叩き込まれました」
ポーション。薬草の効能を抽出して、混ぜ合わせ、特殊な効能を引き出したすごいお薬。リフィルもアイテム袋に入っていたりする。魔女さんがこっそり入れてくれていたもの。最近はアレシアが作ってくれたりもするから、実はちょっと増えてたりする。
アレシアが取り出したポーションをじっくりと観察して、店主さんは満足そうに頷いた。
「いいね。余ったポーションがあれば持ってこい。買い取ってやるよ」
「ありがとうございます!」
アレシアのお金を稼ぐ手段、だ。リフィルのお肉よりも安定してるかも。
早速いくつかのポーションを買い取ってもらったアレシアと一緒に、お店を出た。アレシアの顔はほくほくしてる。
「アレシア、うれしそう」
「えへへ……。自分が作ったものが認めてもらえるって、嬉しいよ」
「そう」
リフィルには分からない感覚だ。だってリフィルは自分で作っているものがないから。結界は、与えられた魔法を使っているだけだし。
「でもすごいよ、アレシアちゃん。あの店主さん、他人のポーションを褒めることなんてほとんどないから」
ミントがそう言うと、アレシアはそうなんですねとちょっと驚いて、やっぱり嬉しそうにはにかんだ。アレシアが嬉しそうで、お姉ちゃんとしてリフィルも嬉しい。ふんす。
その後もミントの案内で町を見て回った後、お昼過ぎに服飾店にやってきた。ミントとはここで別れて、一度レスターのお家に戻る予定。そこでまたレスターの研究に付き合うことになる。
「じゃあ、気をつけてね?」
「うん」
そうして、レスターのお家に戻って、起床していたレスターとお昼ご飯を食べて、魔法を見せてあげる。夕方に戻って晩ご飯を食べて、就寝。
朝の観光以外は特別に何かあるわけじゃないけれど。なんだかとってものんびりできる時間で、楽しい。ミントと一緒に眠るのもぬくぬくで幸せ気分だ。
ずっと、こんな生活が続けばいいのに。そんなことを思ってしまいそうになるぐらいには、楽しい日々だった。
日々だったのだけれど。
「な、な、な……!」
「おー……」
「ふしゃー……!」
この町に来てから四日目の夕方前に、それは来た。
突然空から落ちてきたのは、筋骨隆々の巨人。紫色の肌に、異形を示す角や翼がある。どう見ても人間じゃない。
そんな巨人が空から落ちてきて、リフィルたちを、いや、リフィルを興味深そうに見つめてきていた。
「お前が新たな聖女か」
とても低い、恐怖心をかき立てられるような声、だと思う。レスターは尻餅をついて震えているし、アレシアもリフィルの後ろに隠れてぷるぷる震えてる。
大丈夫、こわくないこわくない。いいこ、いいこ。なでなで。
「り、リフィルちゃん……こわくないの……?」
「こわい……?」
「え……」
恐怖、という感情があるのは知っているけど、少なくともこの巨人が怖いとは思えなかった。あの子がいなくなった時のことを考えたら、別に何も思わない。
「ふむ……。なかなか、興味深いな。俺を前にしても恐怖を抱かないか」
「だれ?」
「俺は、そうだな……。お前たちが魔王と呼ぶ者だ」
まおう。
「魔王だって!?」
「そ、そんな……!」
レスターとアレシアが目を見開いて驚いてるけど……。
「まおう……?」
そもそもまおうってなんだろう?
「ええ……」
恐怖心はどこへいったのか、アレシアが呆れたような視線を向けてくる。巨人もあんぐりと口を開けて呆けていて、そして不意に笑い出した。豪快に。
「ふはははは! 魔王を知らぬか! お前はどんな生き方をしていたのだ!」
「しあわせ」
「くく……。そうかそうか。あるいは奇跡の代償に関わるものか?」
まあいい、と言いながら、巨人は親切にも教えてくれた。
魔王というのは、この国の北にある不毛の大地、そこに住む魔物たちの王様らしい。意志ある魔物を支配しているのだとか。なんだかすごい。
そして、それはつまり。リフィルが復讐するべき相手! なのかもしれないけれど。
「むら、おそった?」
「村? なんのことだ」
ああ、やっぱり。リフィルの頭の上で、レオンもなんだか疲れたみたいに力を抜いたのが分かった。
壁|w・)魔王様、襲来。




