03-12
「おや、いらっしゃい」
そう言ってくれたのは、カウンターに立っている初老の女の人。そんな店員さんはリフィルとアレシアを見て、なぜか目を輝かせた。ちょっと怖い。
「これはこれは……。かわいいお客さんだねえ! パン買いに来たのかい? 味見はどうかな? どれも美味しいよ?」
「あう……」
ささっとアレシアがリフィルの後ろに隠れてしまう。こういう時はリフィルが前に立たないと。だってリフィルはお姉ちゃんなので!
「はちみつ、食べたい」
「蜂蜜のパンだね! もちろんあるよ!」
店員さんがカウンターから出てきて、ささっとパンを取ってくれる。店員さんが選んだパンは、一番目立つ棚に陳列されていたパン。蜂蜜たっぷりのパンだって。
「これがうちの一番人気だよ。ちなみに蜂蜜は食べたことあるのかい?」
「んーん」
「そりゃもったいない! 蜂蜜を食べたら世界が変わるよ!」
世界が変わる! それはなんだかとってもすごそう。
「世界が変わるは言い過ぎかもしれないけど……。本当にすっごく甘くて美味しいから。ちなみに甘いものって食べたことはある?」
「んと……。チョコレート」
「え……。すっごい高級品じゃない……。どこで食べたの?」
「森の中?」
「範囲が広すぎる……!」
そう言われても、リフィルにはどこで食べたと説明するのが難しい。魔女さんにもらったものだけど、魔女さんは森の中のログハウスで一人暮らしだから、村の名前とかもない。
かといって魔女さんのお家と言っても、それはアレシアのお家のことになってしまいそう。
だから……。うん。やっぱり森の中だ。
「ほらほら。お待たせ」
そんな話をしている間に、店員さんが戻ってきた。店員さんが持っている小さいお皿には、なんだか不思議な色の液体……液体? が入ってる。琥珀色って言うのかな? そんな色。
店員さんがスプーンでその液体を掬ってみると……。どろっとしていた。すごくとろみがある。不思議な液体。
「ほら。ぱくっと」
「どくじゃない……?」
「赤ちゃんには食べさせられないね」
「どく……!」
「リフィちゃん、大丈夫だから……」
アレシアに苦笑いされながらそう言われたので、アレシアを信じて食べてみる。ぱくりと。
「……っ! あまい……!」
甘い! すごく、甘い! チョコレートとはまた違う、とっても強い甘み! とても、とても美味しい! 幸せのお味!
「おいしい! おいしい……!」
「わ、わあ……。リフィちゃんがすごく興奮してる……」
「ふにゃあ! ふにゃあ!」
頭の上ではレオンがぺしぺしとリフィルの頭を叩いてきてる。レオンも食べたいみたい。だからレオンにもあげたいけど……。そう言ったら、店員さんは困った顔になった。
「あたしゃ猫にまで詳しくないんだけど……。食べさせていいものかい?」
「レオンはつかいまだから、だいじょうぶ」
「そういうものかい……?」
そういうものです。レオン自身がそう言っているから。
というわけで。レオンを腕に抱えて、レオンに蜂蜜を与えてみる。リフィルのスプーンからぱくりと食べたレオンは、分かりやすいほどに目を輝かせた。
とっても美味しかったみたい。ふにゃふにゃ興奮してる。かわいい。
「猫も蜂蜜の味が分かるの?」
「ふにゃう! にゃごにゃご!」
「んと……。レオンがとくべつ? だって」
「へ、へえ……」
レオンはホワイトタイガーだから、きっと特別なんだと思う。どう特別かはちょっと分からないのは内緒だ。
蜂蜜の味見を楽しんだ後は、パンの購入。ついでにカウンターに置かれていた瓶入りの蜂蜜も買わせてもらった。たっぷり蜂蜜! これでいつでも楽しめる!
店員さんにお礼を言って外に出た。早くパンを食べてみたい。そわそわ。
そんなリフィルの様子に気付いたのか、ミントは笑いながらここで食べてしまうことを提案してきた。お店の前で食べる。きっとお店の宣伝にもなるから、だって。
それじゃあ……。紙袋からパンを取り出す。買ったパンは、四個。みんなで一個ずつだ。
「食べていい?」
「もちろん」
それじゃあ早速。ぱくりと一口。。
これは……。パン全体に蜂蜜を練り込んでいるみたいで、パンからほんのり蜂蜜の味がする。そんなパンの中心部には、たっぷりの蜂蜜がそのまま入っていた。
ほんのり蜂蜜味で、中心はたっぷり蜂蜜。まさに蜂蜜のためのパン!
「おいしい……!」
「にゃあ!」
「うん! すっごく美味しい!」
レオンとアレシアも気に入ったみたい。これは、滞在中は毎日食べないと。だってこの町を離れたら、次はいつ食べられるか分からないから。
もむもむと一心不乱に食べていたら、ミントさんがなんだか優しい笑顔を浮かべていた。なんだろう?
「ん?」
「ああ、気にしないで。美味しそうに食べていて、見ているだけで気分がいいなって」
「あむ」
つまり特に意味はない、ということみたい。それなら気にせず食べ続ける。パン美味しい。
そんなリフィルたちの周りには、少しずつ人が集まっていた。美味しそうに食べるリフィルたちを見て、みんながこそこそ話してる。リフィルには関係がなさそうだけど。
「それじゃあ、次は薬草のお店に行きましょう」
「お願いします!」
返事をしたのはアレシア。指についた蜂蜜をぺろりとなめて、次は薬草のお店に向かった。
ちなみに。蜂蜜パンのお店はその後とても忙しくなったらしいけれど……。多分、リフィルは関係ないと思う。きっと。
壁|w・)蜂蜜は魅惑の食べ物。




