03-09
リフィルはぽかんとしたまま、咄嗟に旅の連れの姿を探した。
「はい、あーん」
「あ、あの、恥ずかしい、ので……」
「ほらほら」
「あう……。あむ」
椅子に座って何か食べていた。食べさせられていた。アレシアのお顔は真っ赤だ。でも食べているものがとても気になってしまう。
アレシアに声をかけようとして、
「服、作るのよね。服」
「採寸しないとね。ほらほら」
「え? え? え?」
女の人たちが集まってきた。手を引かれて、台に立たされて。外套が邪魔らしいので、外套も脱ぐ。頭の上のレオンに助けを求めたくても、我関せずといった様子で……。
「なにこの猫すごくかわいい! ふわふわ! かーわーいーいー!」
「ふみゃあ!?」
ああ! レオンが連れていかれてしまった! 女の人たちに抱き上げられてもふもふされてふわふわされてしまってる! かわいそう!
「猫ってクッキー大丈夫?」
「知らない。干し肉の方がいいんじゃない?」
「これとか。ほらほら」
「みゃあ」
なんだかどう見ても楽しんでる気がする。干し肉をもらってレオンはご満悦だ。女の人が持ってる細長い干し肉を、先っちょからはむはむと食べてる。
「かわいいー!」
黄色い悲鳴が上がっていて、なんだか、うん。
いらっとした。
「…………」
「みっ!?」
レオンがリフィルを見る。リフィルがじっとりとレオンを睨む。レオンはそっと視線を逸らして、干し肉を食べ続けた。
アレシアは心配そうにしてくれているけど、女の人の腕の中にすっぽりおさまっていて逃げ出せそうにない。たまにクッキーを食べさせられている。羨ましい。
そうだ、ここはミントの職場。ミントに助けを求めて……。
「さあ、採寸だ!」
何か道具を持ってるのはミントだった! 仲間がいない!
恐るべきは女の人たちの行動力。魔物たちよりもよほど怖い。リフィルが逃げようとしても、ほらほらと台の上に戻されてしまう。猫になった気分だ。にゃあ。
ああ! 女性からは逃げられない!
「めちゃくちゃ怒ってる……」
「やりすぎちゃった……?」
「あははー……」
あっちこっちのサイズを測られて。リフィルは椅子に座ってクッキーを食べていた。今までにないぐらい不機嫌を見せて。ぷくっと頬を膨らませて。私は怒っていますアピールだ。
「はい、あーん」
「あーん」
アレシアが持つクッキーをさくりと食べる。クッキーはとってもさくさくで、ほんのり甘くて美味しい。思わず頬が緩んでしまう。
「わあ、ふんにゃりしてる……」
「かわいい……」
さくさくとクッキーを三枚ほど食べたところで、改めてリフィルはお店の中を見回した。ようやく余裕を持てたので。
ここはお店から一つ奥の部屋。ここが服を作る部屋、らしい。布とか糸とかが棚に並べられてる。あとは、作りかけの服もちらほらと。
先ほどまでいた部屋は店舗としての部屋で、服がたくさん並んでいた、はず。ちゃんと見る前にいろいろされ始めてそれどころじゃなかった。
「改めて、リフィルちゃん。アレシアちゃん。ここが私の職場。楽しい先輩たちでしょ? ね?」
「わたしは、おこってる」
「ご、ごめんね!?」
まさかあんなにたくさんの人に襲われるなんて思わなかった。なによりも悪意が欠片もないというのが困ったところ。これが悪い人なら、リフィルも困らなかったしレオンが反応したから。
「それで、ミント。この子たちの服を作るのよね?」
「そうです。リフィルちゃんの服は私が作ります!」
「はあ!? ずるいんだけど!」
「あたしが! あたしが作りたい!」
「だめです! リフィルちゃんは私の獲物です!」
今獲物って言った? 獲物なの? わたしは獲物なの?
戦慄の表情をわずかに浮かべるリフィルと、笑いを堪えている様子のアレシア。でも、アレシアが他人事でいられたのはそこまでだった。
「じゃあ! じゃあもう一人のちびっ子は私がやるわ!」
「え」
「あー! ずるいです先輩! あたしもやりたいのに!」
「早い者勝ちですー!」
「いいもん! あたしも作るもん! この子たちに選んでもらいましょ!」
「宣戦布告と受け取ったわ! 覚悟なさい!」
「というわけで。採寸だ!」
それを聞いた瞬間に、逃げだそうとするアレシア。けれどそれは許さない。誰がって? もちろんリフィルがだ。咄嗟にアレシアの手首を掴んでいた。
「リフィルちゃん!?」
「…………」
「無表情で見つめてくるのやめよう!?」
「さあやるわよー!」
「ひぇっ……」
というわけで。アレシアも台の上へと連れて行かれてしまった。お針子様からは逃げられない!
壁|w・)ぷんすこ。




