03-08
翌日。早速お手伝い、と思ったけれど。
「リフィルの結界は少し見せてもらったからな。まずはそれを軽く調べてみようと思う。昼過ぎに来てもらえるかね?」
「えっと……。じゃあ、町を案内してあげるね!」
ということで、ミントと一緒にお出かけすることになった。
リフィルはこんなに大きい町は初めてだ。実は結構うきうきしてる。町ってどんな場所なんだろう。
「わくわく」
「わくわくだね!」
アレシアと一緒にお出かけの準備。といっても、いつもの服に外套を着るだけだけど。レオンはリフィルの頭の上。人里を歩く時の定位置。
そんな二人の前で、ミントが笑顔で言った。
「それじゃあ、二人を私の職場に案内します!」
「しょくば。おしごと?」
「そう。私は服を作ってるって言ったでしょ? その工房にね。ほら、リフィルちゃんの服を作ってあげるって言ったでしょ?」
「ふく。なるほど」
「うん。さあ、行こっか」
そう言って、ミントが手を差し出してくる。リフィルはそっとその手を握った。
ちょっと柔らかいけど、少し硬くなってる手。たくさん頑張ってる人の手だ。リフィルがまだぼんやりしていた時、お母さんの手をお父さんがそう言っていたのを覚えているから。
二人とも、もういないけれど。
そんなことをぼんやりと考えていたら、ふとミントの声が聞こえてきた。
「わあ……。ふふ、ちっちゃなお手々……。かわいいなあ」
「…………」
ぞわっとした。ぞわっとした。ぞわっとした!
「あ、危ない人だ! 変態さんだ!」
「へ、変態じゃないよ!?」
「ミント、きもちわるい」
「うぐぅ……」
ごめん、と小さな声で謝るミント。リフィルとアレシアは顔を見合わせて、小さく笑った。悪い人じゃないのは、ちゃんと分かってるから。
ちょっと気持ち悪いと思ってしまったけれど、信じているのは本当だ。ミントの両手を、リフィルとアレシアで握ってあげた。
これが、信頼の証……。
「ちっちゃいお手々だなあ……」
「…………」
ちょっとだけ後悔したのは内緒。
ミントと一緒に町を歩く。町はしっかりと整備されてる。石畳。今まで見た村では見なかったものだ。小石とかが落ちてないから、とても歩きやすい。
リフィルの足音も心なしかよく聞こえる気がする。ぺたぺた。
「そういえば、リフィルちゃん。靴は履かないの? 買ってあげようか?」
「くつは、いらない」
「いらないかあ……。そっかあ……」
ミントが周りを見回して、苦笑い。はて、何かあったのかな。
「なあ、あの子裸足だぞ」
「靴ぐらい買ってやれよ」
「かわいそうに……」
そんな声がちらほら聞こえてきた。聞こえてきてしまった。リフィルが裸足だから、ミントが買ってあげないということになってしまっているみたい。
これは困った。ミントに迷惑はかけたくないけど、靴はとっても邪魔だ。足から大地への魔力の流れが悪くなってしまう。
「んー……」
どうしよう、と考えていたら、ミントが肩をすくめて言った。
「気にしなくていいよ、リフィルちゃん。裸足の理由があるんでしょ?」
「ある」
「じゃあ、大丈夫。気にしないで。でも痛くないの?」
「いたくない。結界、あるから」
「便利だねえ」
そう。とても便利だ。だから問題ないのだ!
そうして話しながら町を歩いていく。整備された町の中は森の中よりもとても歩きやすいので、リフィルも上機嫌だ。アレシアはそんなリフィルの様子に気付いていて、こっちも機嫌良さそうに微笑んでいる。ちょっと恥ずかしい。
「あ、串焼き肉だ。食べる?」
「たべる」
リフィルが頷くと、ミントが串焼き肉を買ってくれた。はむりと食べてみると、ちょっと歯ごたえのあるお肉だけど味付けされていてとても美味しい。ぺろりと一本食べてしまう。とても美味しい。ほわほわ。
「はは。かわいい子に美味しそうに食べてもらえると俺も嬉しいね。ほら、おまけだ。もう一本やるよ」
「おー。ありがとう」
「おう」
店主さんに串焼き肉をもう一本もらう。やっぱり歯ごたえがあるけど、味付けされたお肉は歯ごたえが気にならなくなるぐらいとても美味しい。
旅の最中のリフィルは味付けとか気にしないので、とても新鮮な気持ちになってしまう。でもこんなに美味しいなら、もうちょっと味付けすることを考えた方がいいかも。
店主さんに手を振ってさらに町を歩いて、やがて二階建ての建物にたどり着いた。看板もあって、服のイラストが描かれてる。ここがミントの職場らしい。
「ようこそ、ストーリア服飾店へ。どうぞ、入って入って」
「わくわく」
「わくわくだね! わたし、服飾店って初めて!」
「うんうん」
「あれ。もしかしてこれ、思っていた以上に期待されてる……?」
リフィルの村に服飾店なんてなかった。アレシアの村でも見かけてないから、多分アレシアも初めてだ。服はそれぞれの家庭で作っていた、はず。
ドアを開けて中に入ると、ドアの上につけられているらしい鈴がからんころんとかわいい音を鳴らした。
「おー……」
不思議な音色。ドアをちょっと揺らしてみる。からんころん。
「おー……!」
もう一度閉めて、開ける。からんころん。とても楽しい。
「まさか鈴にそんなに興味を持つなんて……。り、リフィルちゃん? お店の中にちゃんと入ろう? 先輩がね、なんだかとっても困ってるかららね……」
「もうちょっと」
「どうしてそんなに気に入っちゃったの!?」
不思議な音色だから。
そうしてからんころんと音を鳴らし続ける。とても、とっても楽しい!
「さっきから鈴がずっと鳴ってるけど、どうしたの?」
「なになに?」
お店の奥から人が出てくる気配がする。でも奥からということは、お店の人ということ。あまり気にしなくてもいはず。だって何も言われていないので。
何度も何度もからころ鳴らして、満足したところで店内側からドアを閉めた。良い音でした。
満足した、と言うために振り返ったところで。
「あ、終わった?」
「ああ、残念! もっとやっていてもよかったのに!」
「かわいい!」
女の人がたくさんいた。男の人も何人か。
壁|w・)鈴がお気に入り。




