03-06
夕食はお野菜のスープとふわふわパンに、大きなお肉を焼いたもの……の予定になった。予定というのは、お肉の部分だ。スープとパンは用意するけど、お肉は解体したものを受け取る予定だから。
「でも、そんなに量があるの?」
「信じられないだろうがな、妹よ。俺が今まで見てきた中で一番大きな魔物だったぞ」
「ふうん……」
信じていない、わけではなさそうだけど、どうにも怪訝そうにしてる。適当に言われていると思っているかもしれない。だってレスターは、ミントの方を見ていないから。
「不思議な魔力の結界だ……。こんなものを人間が使っているなど……」
「つかえそう?」
「この結界そのものを俺たちが使うことは無理だな。魔道具を介したとしてもだ」
リフィルの結界を調べている最中だ。リフィルはいつもとは違い、手のひらから小さな結界を作っている。なんとなくで使える方法だけど、維持はできない。リフィルの魔力で使い続けられるような結界じゃないから。
「ねえ、お兄ちゃん。その大きな魔物って、町の近くに出たんだよね?」
「そうだぞ、妹よ。むむ……これはなんと複雑な……」
「それが本当なら……。そんな町の近くにまで危険な魔物が出てきたってことだよね……」
ぴたりと、レスターが動きを止めた。振り返ってミントの顔を見る。ミントはちょっと不安そうな顔だ。だからレスターも、真剣な表情で頷いた。
「その通りだ。やはり、この国の結界は徐々に効果を失いつつあるらしい」
「そっか……」
そう。だからリフィルは旅を急がないといけない。もっともっとがんばって、少しでも早く結界を広げないといけない。
でも。町に五日滞在は、リフィルとしても必要な時間だったりする。
だって、町を覆う大きさを作るのは、ちょっと時間がかかるから。
旅をしている間は、問題ない。実はリフィルが作っているのは、道だから。チューブのような道を、町から町に繋げている。それが旅の間の壁作り。
では町はというと、今度は広い範囲を結界で覆わないといけない。それはすぐにできることじゃないから、継続して魔力を流して結界を少しずつ広くして町を覆う、という形になる。
つまり、その間は町から離れられない。
つまり! お肉は足りなくなる!
「ごはんはだいじ」
「え、急にどうしたの?」
「なんでもない」
今回はたっぷりお肉が手に入りそうだから安心だと思う。ミントが晩ご飯を作ってくれるみたいだし。
ともかく。リフィルは急いで結界を作るのだ。リフィルのお仕事。
「がんばる」
ふんす、とリフィルが気合いを入れてそう宣言すると、ミントは首を傾げていた。
「えっと……。うん。がんばって……?」
「…………」
なんだかちょっと寂しい反応がちょっぴり不満だった。
日没近くになって、リフィルはアレシアと一緒にギルドに向かった。もちろんレスターも一緒だ。だってリフィルとアレシアはとってもか弱い女の子なので。
「かよわい……?」
レオンを見ながら言うのはだめだと思う。
ギルドの裏の解体場に入ると、隅のテーブルに大量のお肉が山積みにされているのが目に入った。間違い無くリフィルのお肉だ。山盛りのお肉。
山盛りの! お肉!
「おー……!」
「り、リフィちゃんの目がきらきらしてる……!」
とってもたくさんのお肉! これはすごい! とてもすごい! 毎日お腹いっぱいお肉を食べられる!
「お、嬢ちゃんたち来たのか」
そう言ってくれたのは、解体を引き受けてくれた男性だ。男性は別の人を手伝っていたみたいだったけど、すぐにリフィルたちの方に来てくれた。
「ほら、来い」
改めて、お肉の方へ。やっぱり大量のお肉。お肉は素晴らしい。
「これ、ぜんぶ?」
「そうだ。全部だ」
「ぜんぶ! わたしの! おにく!」
おにく、おにく、と思わず小躍りしてしまう。だって、こんなにいっぱいのお肉なのだ。とっても嬉しくなって踊ってしまっても不思議じゃない、はず!
しかもリフィルの要望通りに、お肉はちゃんと小分けにされて包装されてる。これはとても良いお仕事。素晴らしい。
「毛皮とかの素材は買い取りで、解体費用と手間賃をもろもろ引いて……。これが残りの金だ」
そう言って男性が袋に入った硬貨を渡してくれる。本来は確認するものかもしれないけど、残念ながらリフィルは相場について詳しくない。アレシアも同じくで、これに関してはレスターも当てにならないと思う。学者さんなので。
なので特に確認することなく、硬貨の袋をアイテム袋に入れた。
「確認はいいのか?」
「よくわからないから」
「そ、そうか……」
そうして次は小分けされたお肉を入れていく。お肉が! お肉がいっぱい! 山のようなお肉!
「おにくがひとつ、おにくがふたつ……」
「すごく上機嫌だね、リフィちゃん」
「ん!」
だって、お肉なので。むしろどうしてアレシアがそんなに落ち着いているのが、これが分からない。
うきうきとアイテム袋に入れていくリフィルを見ながら、男性が少し驚いたように言った。
「そのアイテム袋、とんでもない容量みたいだな……」
「魔女さんにもらった」
「魔女と繋がりがあるのか……!」
まだまだ入るから安心だ。お肉はどうせすぐになくなるだろうから。
そうしてたっぷりとお肉をアイテム袋に入れていく。帰ったら早速焼いてもらおう。きっと美味しく食べられる、はず!
ああ、とても楽しみ。そもそもどのお肉を食べるかも考えないといけない。帰りながら考えようかな?
「レスターさん、魔道具の作成はそろそろ依頼してもいいのかい?」
リフィルがせっせとお肉をしまっていたら、その様子を眺めていた別の人が声をかけてきた。鎧姿の冒険者。少し前にリフィルたちを案内してくれた人とは違う人だ。
その姿を見て、アレシアが少しだけ体を震わせた。
「シア。こっち」
「あ、うん……」
アレシアは知らない人が怖い子。なのでアレシアをリフィルの方に誘導する。冒険者さんからは見えない位置だ。
壁|w・)お肉はとても大事。




