閑話 関係のない王子
魔王がいなくなった謁見室で。王子は呆然と立ち尽くしていました。
「生き残った……?」
そうつぶやいて、そして。
「はは……。はははははは!」
大きな声で、笑い始めました。狂ったような笑い声でした。
「やはり神は俺に味方している! この世界は俺のためにあるのだ!」
そう叫んで、王子は哄笑を続けました。
王子は生まれた時から王子でした。この世界の中心でした。全ての人間が王子に従い、王子を敬っていて、それを当然だと受け入れていました。
ですがある日、自分より上の人間がいることに気が付きました。
それが聖女です。美しい金色の髪を持つ、神に選ばれた少女でした。
彼女は国を守る存在でした。そのため誰もが聖女を優先します。聖女を守るために、全ての者が彼女に尽くしました。
王子はそれが気に入りませんでした。王子の命令ですら、聖女が否と言えば否定されるのですから。何故結界の力を持って生まれただけのバカなガキが自分のより上であるのか、理解も納得もできなかったのです。
自分もまた、王子という地位に生まれただけであることは、考えもせずに。
聖女は王子の行動にも口を出してきました。もう少し人に優しくしてほしい、とか、民のことを考えてほしい、とか。平民の出身のくせに、あまりにも生意気でした。
王子は聖女を疎ましく思うようになりました。その存在そのものが不愉快でした。
だから。王子は聖女を追放することに決めました。どうせ結界なんてなくても困らないはずですから。だって、魔物なんて王子は見たことがないのですから。
王都にいるのだから見るはずがない、なんて考えもせずに。
まずは結界の魔法を使える者を探しました。聖女と呼ばれるほどの適正はまずいませんが、それでもある程度の結界の魔法を使える者は一定数存在します。
そんな魔法を使える少女を探して、その中から見目麗しい者を選びました。そうしてその少女に提案したのです。聖女の手伝いをしてほしい、と。
その少女は聖女様のためになるならと喜んで協力してくれました。
これには聖女も喜んでいました。自分のためだと思ったのでしょう。バカな女だと思ったものです。
そうしてから、王子は少しずつ周囲の認識を変えていきました。
国を覆う結界の維持は、王子が見つけた者が、真の聖女が行っているのだと。元からいる聖女は王国を騙し、贅沢な暮らしをしているのだと。
長い時間をかけて、貴族から平民まで、そう認識を変えていったのです。
ただ、最後まで変わらない者もいました。それが、父、つまり国王です。国王は憂慮し、王子のことを警戒し、対応をしようとしていて、とても邪魔になってきました。
なので毒殺しました。
そうして、正式に王子は国の主となったのです。あとは、学園を卒業すれば正式に国王となる予定でした。
そして。周囲の認識がしっかりと変革されたことを確認して、王子は聖女に婚約破棄を言い渡し、国外追放にしたのでした。
あの日のことは忘れられません。あの聖女が、多くの人から石を投げられ、追い出されていたのです。ああ、胸がすくような思いというのはこういうことをいうのでしょう!
その後は幸せの日々です。王子にうるさく言ってくる者は誰もいません。誰もが王子の言葉に従い、動き、褒め称えてきます。やはり自分は国王になるべき人間なのだと思いました。新たな婚約者となった次の聖女だけは困惑していましたが、それでもしっかりと働いていました。
そんな幸せな日々を過ごしていましたが、少しずつ変わっていきました。
魔物の被害が少しずつ報告されるようになってきたのです。
王子はとても驚きました。魔物なんてもう存在していないと思っていましたから。王子はすぐに兵士を派遣して対応していましたが、すぐに追いつかなくなってきました。
新たな聖女を問い詰めました。何をさぼっているのだと。
聖女は反論してきました。自分一人の力では無理だと。元の聖女を呼び戻してくださいと。
王子は激昂しました。どうしてあんな、自分をバカにする女を呼び戻さないといけないのかと。
あまりにも不愉快だったので、王子はこの新たな聖女を裏切り者として処刑しました。民は不安そうにしていましたが、裏切り者には当然の末路です。反対する者もいませんでした。
そして、処刑した数日後に、王都は魔物の群れに襲われました。
あっという間でした。王都の周辺で魔物と遭遇した、という報告からさほど時間を置かず、王都に多数の魔物が侵入してきたのです。
そうして、その日のうちに王城は魔物たちに攻め込まれ、翌日には王子以外が皆殺しにされていました。
意味が分かりませんでした。何故自分がこんな目に遭っているのか。だって、自分は選ばれた国王という存在なのに。
混乱する王子へと、自分の前に立った魔王が言いました。
「貴様が聖女を追放してくれたおかげだ。礼を言うぞ、愚かな王子よ」
王子は、理解しました。全てはやはり、聖女のせいだったと。
あの聖女が国を見捨てなければ、こんなことにはならなかったのに、と。
聖女へと怒りを向けていた時に魔王か言いました。聖女を殺せば、この王都を王子に返してくれると。
やはり、神は王子に味方していると理解しました。そう、全ては一度、白紙に戻すために必要な儀式だったのです。だから神は魔物たちを王都に向かわせたのでしょう。
ならば、あとはすべきことをするだけです。すなわち。
「あの聖女を……殺さなければ……!」
歪んだ笑い声を上げながら、王子は誰もいない王城を一人歩くのでした。
全てを取り戻すための王子の戦いが、今、始まったのです!
因果応報。そんな言葉を王子が知ることはないでしょう。
壁|w・)聖女に成り代わった偽聖女さんは巻き込まれた被害者の一人だったりしました。
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ではでは!




