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捨てられ少女の壁作り ~聖女に捨てられ魔物があふれた国で、もふもふと一緒に結界を作ります~  作者: 龍翠
第二話 宿屋の人

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閑話 関係のない魔王


「神とはつくづく不条理だ。そうは思わないか?」


 王都の城の謁見室で、異形の巨体を持つ魔王はそう口にしました。彼の目の前には、対となった翼を持つ魔物に押さえつけられた王子がいます。

 この国の第一王子。聖女の婚約者だった男であり、そして聖女を追放した男です。

 王子は魔王の言葉には返事をせずに、ぶつぶつと独り言を言っていました。


「ありえない……どうして私が……。ようやく、あいつを追い出したってのに……」

「ふむ……。そうだな。お前のおかげだ。お前が聖女を追い出したからこそ、我らはこの地を取り戻すことができた。感謝しているよ」


 この国には聖女の結界がありました。その結界があったからこそ、魔王率いる魔物たちはこの地に足を踏み入れられなかったのです。

 ですが、この王子がどういうわけか、聖女を国外に追放しました。そのため結界は薄くなっていき、ついには魔王すら出入りすることが可能となりました。

 まずは真っ先に王都を叩きました。そこから王都の周辺の町や村も滅ぼし、そして森を越えて次の人間の国も滅ぼしてしまおう、と考えていたのですが……。


「本当に、不条理だ」


 魔王は玉座から立ち上がると、城の窓から見える景色に視線を向けました。

 かすかに見えるのは、聖女の結界。どうやら聖女は隣国で拾われ、そこで結界を張ることにしたようです。そのせいで、隣国へと攻め入ることはできなくなりました。

 それならばこの地の全てを支配しよう、と考えた魔王をさらなる衝撃が襲いました。

 広大なこの地のある場所から、とんでもない力を感じ始めました。それは聖女の結界によく似た力で、魔王を含む魔物を排除する力を持っています。


 ですが強大すぎるが故に、どうやら一気にこの土地を包むことはできなかったようで。今はゆっくりと、その結界が伸びていっています。何十年かかるかは分かりませんが、いずれはあの新たな結界がこの土地を包むことになるでしょう。

 ようやくこの地を支配できる。そう思っていたのに、どうやら神はそれを許さなかったようです。新たな結界の担い手を呼び込み、今度は半永久的に魔物を追い出すつもりのようでした。

 残念ですが、仕方ありません。不愉快ですが、どうしようもないことです。結界が周囲を包む前に、元の住処へと戻らなければなりません。

 ですが。それにしても。


「不条理だな」


 自分の境遇が、ではありません。魔物たちは元の場所で十分生活できるのです。どうせならと奪おうと思った程度なので、大人しく引っ込めばいいだけです。

 ですが。あの新たな結界を作っている者は違います。

 半永久的に続く、あまりにも理外の結界。あの結界のために、なにを代償にさせたのか。絶対にまともな方法ではありません。希望を作るために、相応の絶望を与えたはずです。

 神の理想のために、そんな絶望を強制的に与えられた顔も知らない誰かへと。魔王はらしくもなく同情しました。


「もっとも、俺が言えた義理ではないな」


 同情はしましたが、顔も知らない誰かも魔王に同情などされたくないでしょう。何故なら、魔王がこうしてこの地を攻めるという意志を持たなければ、そのような結界も必要なかったのですから。

 つくづく、自分は業の深い存在だと自嘲気味に笑いました。


「だが。全ての元凶は俺だが、今回に限っての元凶はお前になるぞ」


 魔王は王子の元へと歩き、その頭を乱暴に掴んで持ち上げました。


「きさま……! こんなことをして、ただですむと……」

「亡国の王子が、何を偉そうに……。もう貴様を守る騎士は一人も残っていないぞ?」


 騎士どころではありません。この王都には、もう誰一人として残っていません。老若男女漏れなく、魔物たちの腹の中です。

 青ざめる王子に、魔王は愉快そうに笑って言います。


「だが、俺も悪魔ではない。お前にチャンスをくれてやろう。新たな結界の担い手を殺せ。そうすれば、我らがこの地を統べ、お前にこの都市をくれてやるとしよう」


 できないだろうがな、という言葉はあえて言わないでおきます。何の後ろ盾もなくなった王子に、人が殺せるとは思えません。ましてやあれほどの結界の担い手です。王子では傷一つつけられずに、きっと完全に無視されることでしょう。

 それはそれで悪くない、と思います。魔王も使い魔ぐらいはこの土地に残すつもりです。どのような愉快な醜態をさらすのか、それを楽しみにするとしましょう。王子の醜態を酒の肴にする。これはなかなか良い娯楽です。


「ではな、王子。期待しているぞ?」


 魔王はそうして王子の背中を叩きます。王子は体を支えられずに、その場に倒れ込みました。本当に情けない姿です。

 魔王はそんな王子を笑いながら、腹心の配下たちを引き連れてその土地を後にしました。さっさと自分の土地に戻るとしましょう。

 その際に理性ある魔物たちも連れ帰りますが、ろくに理性のない魔物については魔王も知らないところです。いずれは新たな結界に駆逐されるのでしょうが……。魔王にはどうでもいいことですから。

 ああ、けれど。帰る前に。あの理外の結界には少しだけ興味がありました。


「ふむ……。少し、見ていくか」


 腹心の配下に、理性ある魔物たちとともに帰るように命じて、魔王は理外の結界の先端へと向かうために空を駆けていきました。


壁|w・)まおーさま!


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― 新着の感想 ―
>老若男女漏れなく、魔物たちの腹の中です。 ということは、王子に媚びた『せいじょ(笑)』も、もう魔物の晩御飯になったのかな? そ れ は め で た い 。
>だが、俺も悪魔ではない。 壁|w・)まおーだけど悪魔じゃない……?
>希望を作るために、相応の絶望を与えたはずです。 神様がわざとやったのほぼ確定かー…。 まぁあのタイミングで記憶戻すってどうみても手遅れなの確信してから無駄な努力を重ねさせるためだろうしねぇ…。 ま…
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