02-11
そうして村を出たリフィルは。
「リフィちゃん。待ってたよ」
アレシアに待ち構えられていた!
「あわわ……」
どうしよう。とても困る。昨日、アレシアはずっと泣いていた。リフィルのせいだ。どうにかしてあげたいけど、リフィルには何も言えない。だから黙って旅に出たというのに。
「じゃあ、行こっか」
「え」
よく見ると、アレシアは旅支度をしていた。黒い外套を着ていて、腰には布袋をつけている。多分、アイテム袋だ。似たようなものをリフィルも持っているから、なんとなく分かる。
「あの……シア……」
「昨日、魔女さんが来たよ」
「え」
アレシアの元に、リフィルがお世話になった魔女さんが訪れたらしい。その時にいろいろと説明されたそう。どうしてかは不思議だったけど……。
「わたしはね、魔女見習いなの」
アレシアが言うには、あのおばあさんは魔女だった、らしい。目的を達成して不老であることをやめた魔女。それが、あのおばあさん。
アレシアはそのおばあさんから、一人で生きていくために魔法をいろいろ教わっていたのだとか。
「わたしの魔法はまだ半人前だけど……。きっと、お役に立てるよ」
「でも……あの……」
「それに……。リフィちゃんを手伝えば、魔物に襲われる場所が減るんだよね?」
それは、その通りだと思う。そのためにがんばらないといけないから。
「嫌だって言っても、ついていくからね」
そう言って笑顔を見せてくれるアレシアに、リフィルはちょっと悩んで。
「にゃう」
そんなレオンの後押しに薄く苦笑いして頷いた。
「わかった。よろしく、シア」
「うん!」
そうして、アレシアと一緒に、リフィルはまたのんびりと歩き始めた。
ぺたぺた。てくてく。
「…………。どうして裸足なの?」
「けっかいを、あしのうらから、のばしてる」
「ええ……」
そうして、二人の旅が始まって間もなくして。
「あれ?」
二人はこちらへと歩いてくる人影に気が付いた。
・・・・・
「はあ……」
リフィルがいなくなった後。ジュリアはため息をつくことが増えていた。
あの子を家族の代わりにしようとしていた。その気持ちがなかったとは言わない。けれど、あの子を大切に育てようと思っていたこともまた事実なのだ。
けれど。あの子は自分では想像もできないような大きなものを背負っていた。ジュリアの我が儘で止めてはいけないものを。
「神様は何を考えているんだろうね。あんな子供に重たいものを背負わせて……。代われるなら代わってやりたいぐらいだよ……」
「女将さん何か言ったか?」
「なんでもないよ!」
自分にできることはもう何もない。できることがあるとすれば、ここを、あの子が帰れる場所を守ることだけだ。
そう決意して、腹を空かせた客のために料理をしようとして。
食堂の、宿のドアが開かれた。また客が来たらしい。
「はいはい。空いている席に座って……」
入ってきた人を見て、ジュリアは固まった。いつの間にか、食堂にいる者たちも静まり返っている。
入ってきた者たちは。
「その……。遅くなって、すまない。馬車に乗れなくて、なんとか歩いて帰ってきてな……」
「母さん、ただいま」
旦那と、息子だった。
「ああ……」
視界が歪んでいく。もうちゃんと前を見れない。それなのに、足は二人の方へと動いていく。
「ああ……」
もう半ば諦めていた。周りの家族が帰ってきているのに、自分の元には帰ってこない。つまりは、そういうことなんだ、と。希望を捨てずに、けれど本心では諦め始めていて……。
なのに。
「あああああ!」
「ジュリア!?」
「母さん!?」
ジュリアは愛する家族を抱きしめた。大切な、二度と失いたくないものを。
客がみんな、明るい顔で帰っていった。再会を邪魔するのは悪いと言って。
腕によりをかけて夕食を作り二人に振る舞うと、二人は泣きながらそれを食べてくれた。
「ああ、またジュリアの手料理が食べられるなんて……」
「美味しい……美味しいよ母さん……」
「大げさだねえ」
もっとも、先ほどまでジュリアも泣きながら作っていたわけだが。
そうして食べながら二人の話を聞いて、ジュリアは少し呆れてしまった。
「馬車が見つからなくて徒歩で帰ることにして、迷子になるとか……。バカなのかい?」
「うぐ……」
「返す言葉もないです……」
なんとも呆れた理由だった。帰ってきてくれたのだから結果良しではあるのだが。
「でも、迷っていたのによく帰って来れたね」
「ああ、それなんだが……。森で出会った女の子が教えてくれたんだ。とても丁寧にね。ジュリアのことを知っているみたいで、よろしく伝えてほしいと頼まれたぞ」
それを聞いて、ジュリアは目を瞠った。それは、もしかして、いやもしかしなくても。
「名前は……」
「リフィルとアレシアに、かわいい猫のレオンくんだな。もふもふだった」
「もふもふだったね」
二人はレオンの毛並みについて感想を述べているが、ジュリアはそれどころじゃなかった。
「はは……。本当に……」
ジュリアはリフィルを保護するつもりだった。家族にするつもりだった。でも、こうして考えてみれば、ジュリアはもらってばかりだ。きっとあの子がいなかったら、二人は帰ってくることはできなかっただろう。
「幸運を運んできてくれる子だったね」
控えめな笑顔を思い出しながら、ジュリアはそう言って微笑んだ。
次は、もっとうんと甘やかしてあげよう。
壁|w・)第二話終わり。
アレシアが なかまに くわわった!
某魔女さんは怒っていい。
次回は閑話です。




