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捨てられ少女の壁作り ~聖女に捨てられ魔物があふれた国で、もふもふと一緒に結界を作ります~  作者: 龍翠
第二話 宿屋の人

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02-05


 美味しいご飯を食べた後。リフィルは宿の自分のお部屋に戻ってきた。

 そう。自分のお部屋。自分のお部屋! なんて甘美な響き!

 思わずリフィルは頬をによによとさせてしまう。させてしまっている気がするだけで、リフィルの表情筋はわりとだめになっているのかあまり変わらないのだけど。

 改めて部屋を見回してみる。お布団の敷かれたベッドに、小さな丸テーブルが一つ。あと椅子も。それ以上は特に何もない。

 ジュリアは安宿だからろくに何もない、なんて言っていたけれど、リフィルにとっては十分だ。だって、ベッドがある。お布団に触ってみると、干したてみたいにふかふかだ。

 今日はこのふかふかお布団で寝ることができる。なんだかとっても贅沢だ。


 魔女さんのお家からこの村まで、てくてく歩いて二週間ほど。その間の夜は当然野宿。魔女さんからもらったアイテム袋には寝袋も入っていたけれど、あくまで寝袋。地面に直接寝るよりはましだけど、魔女さんのお家で堪能したお布団に比べるとちょっと寝心地は悪い。

 寝袋にも魔法がかけられていたみたいだけど、破損や汚れの防止であって、寝心地に関係するものではないらしい。多分。どんな効果か、リフィルには分からないだけかも。

 ともかく。久しぶりにベッド、柔らかお布団。たっぷり寝れる。


「にゃうにゃあ!」

「うん?」

「にーにに、にゃうん!」

「んー……」


 リフィルはレオンの言葉が分かるわけじゃない。でも、なんとなく言いたいことは伝わってくる。せっかくもらったお部屋だから、しばらくここにいよう。そんなことを言われてる。

 でも。それは、だめ。


「やっぱり、あしたには、でる」

「にゃ!?」

「わたしには、やることが、あるから」


 いなくなってしまったあの子のために。リフィルはがんばらないといけない。この国をいっぱい巡って、結界の道を張り巡らさないといけないから。

 急ぐ必要はないかもしれない。今更急いだところで意味はないと思う。でも、たくさんがんばったら、きっとご褒美があるはず。たとえば。


「あの子が、もどってきてくれる、かも」

「…………」


 いなくなってしまった魂の片割れ。会話すらしたことはないけれど、あの子が一緒だとリフィルはそれだけで安心。だから、戻ってきてほしい。

 きっとリフィルががんばったら、あの子が帰ってきてくれる。だからリフィルはがんばるのだ。


「にゃ!」

「うん?」

「にゃにゅにゃ! にゃー!」


 がんばりすぎて倒れたらその子が悲しむ、みたいなことを言われたらしい。適度に休まないといけない、とも。

 それは、なんとなく分かる。あの子はとっても優しいから、リフィルが無茶をしていたって知ったら、きっと悲しんでしまう。怒られちゃうかも。それはちょっと、やだ。


「それは、そうかも。でも……」

「にゃ!」

「んー……。かんがえる」


 怒られないぐらいに、ちょっとだけ休もう、かな?

 そう考えて、リフィルはお布団に潜り込んだ。

 お布団は思っていたよりもふわふわ。ふわふわがリフィルのことを包み込んでくれる。とても、とっても気持ちがいい。これがお布団。これこそお布団。


「ふわあ……」


 思わずふにゃふにゃになってしまう。だってすごく気持ちがいいから。魔女さんのお家のお布団もよかったけど、これもなかなか。


「レオン。レオン」

「うに」


 リフィルが手招きすると、レオンは仕方ないなとばかりにリフィルの側に来てくれた。お布団の中で抱きしめる。レオンはふわふわもふもふだ。

 ふわふわお布団に包まれて、もふもふレオンを抱きしめる。至福の一時。


「ふぁ……」


 小さくあくびをして、リフィルは目を閉じた。今日はぐっすり眠れそうだ。




 翌朝。リフィルはふわふわお布団の中で目を覚ました。ふぁ、とあくびをして、お布団からのそのそっと出る。そうしてぐっと伸びをする。お布団と寝袋の違いはあるけど、リフィルの毎朝の行動だ。

 そしてリフィルは窓を見て、とってもびっくりした。

 お日様がすでに昇ってる。外が明るい。お昼……とまではいかなくても、日の出からとっても時間が経ってしまってる。

 旅の間、リフィルは日の出と共に起きている。気持ち良く起きて、朝ご飯を食べる。そのはずだったのに、すでにもうお日様は高い。朝ご飯どうしよう。

 どうしてこんな時間……と考えて、すぐに思い当たってしまった。

 思えば、魔女さんのお家でも、リフィルはとてもゆっくり起きていた。あの時の共通点だ。そう、お布団! ふわふわお布団が悪い!


 なんてことはもちろんなくて。いやお布団も原因の一端かもしれないけど、他に原因がある、と思う。

 寝る時間だ。旅の間、リフィルは日が落ちるとさっさと寝てしまう。もちろんたき火を起こして晩ご飯を食べる、ということはするけど、それだけ。食べ終わったらさっさと就寝。だってやることもないから。

 でも昨日は、ジュリアと行商人のお話を聞いているだけで楽しくて……。夜更かししてしまった。魔女さんのお家でも、魔女さんのお話を聞いている間に夜になってる。つまり、寝る時間の問題だ。

 そこで自己解決。だから仕方ない。お布団の気持ちよさは関係ないはずだ。きっと。

 いや違う問題はそこじゃなくて。


「あさごはん……!」


 そう。朝ご飯だ。朝ご飯はジュリアが用意してくれる。昨日、リフィルはそう聞いていた。密かに楽しみにしていたのに、このままじゃ朝ご飯が食べられない。


「レオン……!」


 慌ててレオンを呼ぶ。レオンの朝ご飯もなくなってしまう。

 でも、呼んでもレオンが出てこない。いつもならすぐに返事をしてくれるのに。


「レオン?」


 心配、不安、心細さ。そんな感情を抱きながら、リフィルは部屋中を探す。でも探すところなんてベッドの下ぐらい。当然そんなところにはいなくて。


「レオン……」


 ジュリアが何か知ってるかも。リフィルは急いで部屋を出て、階段を下りた。


「おや、おはようリフィル。寝ぼすけさんだね」

「にゃ!」


 レオンはテーブルの上で、こんがり焼いたお肉をはむはむと食べていた。リフィルに気付いて、前片足を上げてくる。


「…………。レオンのばか」

「にゃ!?」


 心配した気持ちを返してほしい。レオンがいないって気付いて、心細かったのに。


壁|w・)ちょっとだけ、羽休め。


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― 新着の感想 ―
レオンは将来サーベルタイガーならいいと思う
レオン…おまえ…リフィルちゃんに抱き締められながら眠りについたのか?! うらy…ゲフン…なんという度し難い行いを!そこを代わりなさい!
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