02-04
「君が持っているナイフもすごい切れ味だったけど……」
「魔女さんにもらった」
「魔女の魔道具!?」
「そう」
「へえ……」
魔道具。それはさすがにジュリアでも知っている。というより、わりと流通しているものだ。ジュリアが料理に使っている物にもいくつか魔道具がある。
けれど。行商人がここまで驚くということは、少し違うものなのかもしれない。
「説明は?」
「ええ……。いいけど……」
行商人が言うには、流通している魔道具は一般の魔法使いたちが作ったもので、魔石に魔力をこめて特定の効果を引き出せるようにしたもの、らしい。
だが。魔女の魔道具はまた違う。道具に魔法そのものを付与する、らしい。いまいちイメージできないというのが本音だ。
「なんて言えばいいかな……。一般的な魔道具は単純な効果しかないけど、魔女の魔道具なら複雑な効果があるんだよ」
「へえ……」
「魔女が必要になった時にだけ作るものだから一般には流通なんてしないし、誰かにあげるなんてまずないと思うんだけど……。もしかして、魔女の弟子なのか?」
「んーん」
「本当にどういう関係なんだい……?」
ジュリアも少し気になってきた。改めてリフィルを見ると、外套はかなり良いもののように見えたのに、その下の服装はかなり質素なものだ。本当にシンプルな服で、小さな村でよく使われているようなものに見える。外套は部屋に置いてきたのだろう。
「親に売られそうなところを魔女に保護され、いろいろ与えられた、とかかい?」
ジュリアがそう聞いてみると、リフィルは不思議そうに首を傾げた。
「うられ……? ちがう」
「あー……。じゃあ、ご両親は?」
「しんだ」
「え」
「むら、まものにおそわれた。みんな、いなくなった」
「…………」
ジュリアは、そして行商人も、言葉に詰まってしまった。
魔物が増えてきていたことは知っている。王都の兵士が村の男たちを連れて行ったほどなのだから。だがまさか、村が滅ぶほどの群れが襲ってきていたとは思わなかった。
「変わり者の魔女も保護するわけだ」
行商人のそんな言葉に、ジュリアも神妙な面持ちで頷いた。
きっとこの子は、滅んだ村の唯一の生き残りなのだろう。そんな子を哀れに思って、いろんなものをこの子に贈ったのかもしれない。せめて一人でも生きていけるように、と。
「大変だったね」
ジュリアがリフィルの頭を撫でると、リフィルはきょとんと不思議そうな顔をしていた。
「決めたよ。気の済むまでこの村でゆっくりしていくといい。なんならこの宿の子になるかい? 歓迎するよ」
「んーん。たびの、とちゅう」
「旅……。何か、目的があるのかい?」
「ん」
目的。理由。そういったものは教えてくれるつもりはないのかもしれない。リフィルはしっかりと頷いて、けれどそれ以上は何も語らなかった。
それなら、仕方ない。正直とても残念ではあるが、この子の意志が優先だから。
「それなら、ゆっくりと休んでいけばいいさ。宿代なんていらないからね」
「たび……」
「分かってるから。いつ出発するんだい?」
「あした?」
「え」
予想外の答えにジュリアが絶句するのと。
「ふにゃあ!」
猫のレオンがリフィルに突撃したのは同時だった。レオンがリフィルの顔に飛びかかり、べちゃりと張り付く。もごもごと苦しそうなリフィルと、ふにゃあと鳴きながらひっついているレオン。何がしたいんだこの子たちは。
リフィルが両手をレオンに伸ばして引きはがした。
「ぷは……。なにするの?」
「うにゃあ! ふにゃにゃ! ぶにゃ!」
「なるほど、わからん」
「うにゃ!?」
そりゃそうだ、とジュリアと行商人も苦笑い。うにゃうにゃ言っているようにしか聞こえないのだから。
「んと……。もっと泊まれって言いたいみたい」
「え? わからんって言ってなかったかい?」
「なんとなーく、わかる? かんじ?」
「どういう感じだい……」
はっきりと言葉としては分からないけれど、言いたいことはなんとなく伝わってくる、ようなものだろうか。これも使い魔とやらの能力なのかもしれない。
「レオンもそう言っているんだ。一週間ぐらい泊まっていきな」
「ん……。いいの?」
「いいさ。あんたみたいなかわいい子を放り出すなんてあり得ないしね」
リフィルは不思議そうにしていたが、とりあえずは納得したらしい。それならとしばらく滞在することが決定した。
あとは、甘やかしてやろうと思う。それで旅なんて思い止まって、この村で幸せを探してくれたら御の字だ。
こんな幼い子供が、魔物が多くなっているという外を歩き回るなんて、やらない方がいいのだから。この子の故郷のためにも、この子だけは幸せになるべきだ。
ジュリアがリフィルの頭をそっと撫でると、リフィルは首を傾げながらもその身を任せてくれた。
・・・・・
壁|w・)おうち!




