02-01
ぺたぺたぺたぺた。リフィルは今日も森を歩く。足の裏から魔力を伝わせ、不思議結界で壁を作りながら。ぺたぺたぺたぺた歩いていく。
魔女さんのお家を出てから、一週間。リフィルは絶賛迷子中だ。
どうしてこうなった。地図もあるのに。誰にも分からない。
「レオン。ここ、どこ?」
「にゃあ?」
「どうしよう?」
「にゃあ!」
アイテム袋に入っていた地図を取り出して、眺めてみる。この近辺の地図……のはずなのだけれど。なにも分からない。
そもそもとして。あっちこっち似たような木ばかりなのが悪いと思う。だって、地図を見てもよく分からないから。どうせくれるならもっと正確な地図をくれたらいいのに。
でも、まあいいかとも思う。どうせ結界は張っていかないといけないんだから。
それに、ご飯もちゃんとあるのだ。
「ん……」
何かが歩いてくる音。そっちを見ると、大きなクマがやってきていた。明らかにリフィルを見つけて、それでも近づいてきてる。狙われているのはさすがのリフィルでも理解できる。
つまり、そう。
ごはんがやってきた!
でも当然ながら、リフィルが倒すことはできない。リフィルができるのは、結界を張ることだけだから。身を守ることしかできない、ということ。
けれど。リフィルには頼りになる相棒がいる。
「レオン。いけそう?」
「にゃう!」
任せろ、とばかりにレオンは一鳴きして、走ってくる大熊へと突撃して。
「にゃあああう!」
「がああああ!?」
レオンが小さな前足を一振り。それだけで、クマの首がとんでった。あの子がいたら、すぷらっただ、なんて言いそう。リフィルには意味の分からない言葉だけど。
「わあ……」
血がどばどばとしていて、なんだかすごいことになってしまった。
さて。ここで問題が一つ。
「どうやって食べよう?」
「にゃあ?」
魔女さんからもらったアイテム袋には、旅をするのに便利な道具がたくさん入っている。あったかぬくぬくで寝られる寝袋、たき火をするのに便利な火の出る魔道具、水の魔石を利用した水がいっぱい出る木製の水筒などなど。
そんな便利道具の一つに、切れ味抜群のナイフもある。レオンがウサギを狩ってきた時に使ってみたら、骨ごと部位を切り落とすほどのもの。
さすがにリフィルもびっくりして怖くなったけど、不思議なことにナイフがリフィルを傷つけることはなかった。どれだけ勢いよく振り下ろしても、リフィルやレオンには傷一つつかない、みたい。さすがにそこまで試してはないけど、多分そう。
ともかく。そんなナイフがあるから切ったりするのはわりと簡単だけれど。
「どうやってやればいい?」
「にゃあ?」
さあ? みたいな言い方だった。
ウサギの時は、本当に適当だった。お腹を開いて、内臓を取り出して、あとはじっくり丸焼き。時間はかかったし表面はカリカリで固かったけど、とりあえず食べることはできた。
でも。このクマは、本当にどうしよう。
近づいてみると、改めてその大きさが分かる。リフィルを簡単に丸呑みにできてしまいそうなほど、とっても大きい。大きくてかっこいいすごいクマだ。
大きすぎて丸焼きはまず無理だと思う。思う、というより無理。表面を少しずつ焼いて食べてみようかな?
「レオン。どうしよう」
「にゃにゃむ」
知らない、と言われてしまった。困る。
リフィルの父は狩人もしていて、当然捕まえた獲物を解体、なんてこともしていたと思う。でも、リフィルは、というよりあの子はそれを直接見ていない。女の子が狩人なんてするものじゃない、と遠ざけられていたみたいだから。
「おべんきょう、だいじ」
少しでも興味を持ってくれて、少しでも見てくれていたら良かったのに、とちょっとだけ思ってしまった。
「にゃうぅ……」
「レオン? どうしたの?」
「みゅ」
「……?」
よく分からないけど、謝られたような気がする。なのでちょっと抱き上げて、もふもふしながら撫でておいた。レオンはいつもふわふわで、抱き心地抜群だ。抱いていて幸せ気分になれる。
そうしてレオンをもふもふしながら、リフィルはよしと決めた。
「レオン。運べたりする?」
「にゃーにゃ!」
任せろ、とばかりにレオンはぱっと地面に下りた。そのままクマの前に立って、ぺちぺちとクマの後ろ足を叩く。何をしたらいんだろう。
「にーにぃ」
「んー……」
「に!」
レオンがクマの後ろ足でくるくると回る。うぬぬ……難しい……。
「んと……。これ?」
リフィルがアイテム袋から縄を取り出すと、レオンはこくこくと頷いた。とりあえずかわいいから撫でる。もふもふ。
縄も便利アイテムの一つ。とっても長い縄で、あのナイフ以外では切れない、らしい。多分。
レオンは先っぽをくわえて、器用にクマの後ろ足を縛ると縄をくわえたまま引きずり始めた。ずりずりと進んでいく。
あんなに小さなレオンが、とっても大きなクマを運んでる。すごい。とてもすごい。
「レオン、すごい」
「にゃっふ!」
どうだとばかりに胸を張るレオンを、リフィルはなんだかふわふわした気持ちで撫でた。
さらにびっくりなのは、歩くスピードがリフィルと大差ないこと。リフィルが普通に歩くのと同じ速度でレオンも歩いてる。大きなクマを引きずっているのに。
「レオン、いいこ、いいこ」
「うにゃあ」
レオンを撫でる。レオンはなんだか幸せそうだった。
でも……。これ、どこまで運んだらいいんだろう?
・・・・・
壁|w・)魔女さん印のびっくり魔道具たち。
魔女さんはとても過保護。




