62)巨獣討伐-8(白き勇者の力)
その頃、レナンは宝剣マフティルを持ちて討伐隊に迫る棘の魔獣と戦っていた。
レナンは強化魔法を多重掛けしてその体は白く輝いている。その為、レナンの斬撃は恐ろしく鋭く強力だ。
「オオオ!」
“ザシュン!!”
“ギキイ!”
レナンが一薙ぎすれば、その体は白く瞬き、あっという間に棘の魔獣は切り裂かれ崩れ落ちる。
その様は白い電光の様だ。
レナンの傍には白騎士のソーニャやナタリーが居るが、彼女達の冴える剣技や強力な魔法も棘の魔獣には効果が薄く、防戦一方でじり貧だった。
他の討伐隊に至っては防戦どころか棘の魔獣に狩られる一方だった為、レナンが一人奮闘し魔獣を駆逐していたのだ。
「す、凄い……アレが白き勇者……」
「体が眩く光って……それが名の由来か……」
「昨日のラジルとの戦いは……本気ですら無かったって事か……とんでもねぇぜ」
レナンが強化魔法を重ね掛けして体を白く光らせ、一人で棘の魔獣と戦う姿を見てその場に居た討伐隊の面々は思わず呟いた。
彼らはレナンにより棘の魔獣の猛攻から救って貰った所だった。そればかりかこの辺りに居る棘の魔獣はレナンの活躍で一掃できそうな状況だった。
――そんな時、遠くから声が響く。
「その力を今こそ示せ! レナン!!」
その声は討伐隊の総指揮官、マリアベルの声だった。その声を受け、白騎士のソーニャがレナンに叫ぶ。
「レナンお兄様! 今の声はマリアベルお姉様です! こ、此処は構わずお姉さまの元へ!」
そう叫んだソーニャだったが、彼女とナタリーは先程から棘の魔獣との戦いで手が離せない状況だ。
彼女達は目の前の棘の魔獣一体を相手するだけで手一杯で、何とか二人掛かりで押さえつけている状況だった。
マリアベルの声を受けたレナンは、ソーニャの様子を見ながら、討伐隊の危機的状況を理解していた。
この辺りの棘の魔獣はほぼレナンが倒したが、この場を離れれば危険である事は間違い無かった。
恐らくマリアベルの居る所も、他の場所でも棘の魔獣による猛攻で討伐隊は危機に陥っている状況は容易に予想が付いた。
レナンはその状況より、棘の魔獣を一度に全て殲滅しないと危険だと判断し、右手の力を使う事を決める。
大量に居る棘の魔獣を一度に倒す為、以前より考えていた新しい技を試そうと考えのだ。
レナンは突如立ち止まり、右手を高く上げた。次いでその手を眩く光らせ、あの龍を彷彿とさせる異形の姿に形を変えた。
“キイイイイイン!!”
真白に眩く光る右手。右手の光りが収まった後、そこに現れた異形の様にその場に居たソーニャやナタリー、そして討伐隊の面々は驚き、目を丸くした。
そんな中レナンが叫ぶ。
「光の蔦よ! 彼の敵を全て貫き、躯と成せ!!」
レナンがそう叫ぶと異形の手の甲に見える菱形の宝石が急激に輝いた。
“キュド!!”
輝いた菱形の宝石から、突如放たれた長く立ち上がった真白い光。
その様は巨大な一本の剣の様に見える。何処まで高く伸びて下に居るソーニャ達は分らない程だ。
そんな中、レナンは小さく呟いた。
「奴らだけを全て滅ぼせ」
“キュキュン!”
レナンの呟きと同時に彼が頭上に上げた右手から立ち上る光の柱から、無数の光りの帯が分れ出て放射状に広がり地上に舞い降りた。
その様子を白騎士のソーニャとナタリーは眼前の棘の魔獣の相手しながら見ていた。
「一体何!? あの光は!?」
「ひ、光りの帯でしょうか?」
二人は棘の魔獣を抑えながら、頭上に広がる光をチラ見しながら叫ぶ。すると頭上の光の帯が方向を変えてソーニャ達の方に飛んで来た。
その迫る光を見てナタリーが叫ぶ。
「こ、こっちに来ます!」
「!?」
ナタリーの叫びにソーニャも驚愕して一瞬身構えたが、恐るべき速さで迫る白い光の帯はソーニャ達に落ちてくる事は無く、眼前の棘の魔獣に突き刺さった。
“ズキュ!!”
そして突き刺さった光の帯は棘の魔獣の内部で幾重にも分裂した様で、彼の魔獣の内側から光の帯が針山の様に飛び出した。
“ギキキュウ!”
棘の魔獣は叫び声を上げ、その動きを止めた。レナンが放った光の帯により彼の魔獣は内側から串刺しにされた様だ。
串刺しにされた棘の魔獣は、赤く光る4つの眼を明滅させた後、体を震わせ糸が切れた人形の如くガクンと崩れ落ちた。
「「!?……」」
眼前で起こった棘の魔獣の最後を見たソーニャ達は驚愕した。
そして恐る恐る周囲を見渡すと至る所でレナンが放った光の帯が地上に居る棘の魔獣を貫き、内部から彼の魔獣を串刺しにしている様子が見られた。
恐らくソーニャ達が居る此処だけでは無く、他の場所でも同じ事が起こっている事だろう。その様子を見たナタリーとソーニャは思わず呟く。
「す、凄い……」
「ええ……この魔法はジェスタ砦で以前見た、光の……系統による魔法。私達の世界には無い法則のね」
二人が呆然と呟く中、棘の魔獣はレナンの放った光の帯に貫かれた様で脆くも崩れさったのだった……。
◇ ◇ ◇
“ズキュン!!”
“ギキウュ!”
「こ、これは!? レナンの技か!」
レナンが放った光の帯に一斉に貫かれる棘の魔獣。目の前で繰り広げられた信じがたい状況にマリアベルは驚愕し、思わず叫んだ。
辺りを見渡せば、討伐隊以外に動く者はいない。
あれだけ居た恐るべき棘の魔獣はレナンが居た場所から立ち上った光から放たれた光の帯に全て殲滅された様だ。
その様子に驚いたのはマリアベルだけでは無かった。
「……ま、魔獣が一度に……信じ、られない……」
「こ、この力……まさか……これがレナンの力なのか」
マリアベルの横に居たオリビアやレニータ達白騎士も夢を見ているが如く脱力しながら呟く。
余りの出来事に呆けているのは彼女達だけでは無い。生き残った討伐隊達も突然の事に呆然としている。
そんな中、冷静さを取り戻したマリアベルが鬼化を解いて、横に居たルディナに先ずは怪我人の治療を指示する。
指示を受けたルディナは治療魔法が使える者達と共に棘の魔獣による襲撃を受け、倒れている討伐隊の治療を行い始めた。
そんな中、マリアベルは討伐隊の面々を前にして指示を出す。
「皆、先程の技は白き勇者の力に寄るモノだ。どうやら彼の恐るべき力によりこの魔獣は一掃された様だ。しかし、戦いはまだ終わっていない! こうしている間にも巨獣は王都に向かっている!
かの化け物を王都に行かせる訳にいかん! 白き勇者と共に我々は巨獣討伐に向かう!! 動ける者は我に続け!」
マリアベルはそう叫んで、森の中を駆け出した。
レナンに元に向かう為だ。そんな彼女に白騎士隊を先頭に討伐隊も続いて駆け出したのだった……。
一部見做しました。




