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44)黒騎士との婚約

 カリウス国王の一声によりフルプレートを(まと)った14名の近衛騎士達は長大なハルバードをレナンの方に向け、じりじりと彼を取囲んだ。



 その様子を見たソーニャが国王に向け(ひざまず)いたまま訴える。


 「恐れながら申し上げます、陛下! 彼の者は帯剣しておりません! その状態で多勢に無勢は余りにも……」


 ソーニャの言葉を受けた国王カリウスは、感情を込めず呟いた。


 「……マリアベルの報告では、白き勇者は武器を用いず大剣をも切り裂いた、とある……それが事実ならば、何も問題は無かろう?」


 「し、しかし……」


 「はい、陛下……私は問題ありません」


 レナンを案じての事か、尚も国王に意見しようとしたソーニャの言葉をレナンが(さえぎ)った。


 レナンはここまでのやり取りで国王カリウスが疑り深く慎重な性格だと予想し、言葉より事実を示した方が良い結果になると考えたのだ。


 レナンは自分を案じたソーニャを振り返り(うなず)いて見せた。


 そして彼女の横に居たマリアベルは誰よりレナンの強さを知っている為、ソーニャの肩を叩き安心させた。



 14名の騎士達に取り囲まれたレナン。彼は全く動じず……右手を静か自らの胸の前に掲げた。


 すると……彼の右腕は光を放ち、次いで色白い異質な形状に成り代わった。無機質で鋭角な手から伸びる牙の様な(とげ)。手の甲には菱形の宝石が白い光を放っている。


 次いでレナンは右手から長く伸びる牙の様な(とげ)を真白く輝かせた。


 “ギイイン!”


 その様子を見た、玉座の間に居る臣下達はどよめき驚いている。


 そればかりか、レナンの不思議な右腕を初めて見たソーニャやオリビエやレニータを除く4人の白騎士も言葉を失い驚愕していた。


 国王カリウスは無表情だが、身を大きく乗りだしレナンの動きを一切見逃さないと言った姿勢だ。


 国王の横に居るアルフレド王子は期待に満ちた目と、もはや我慢ならないと言った様子で立ち上がりレナンを食い入るように見つめていた。



 異様な右手を現出させたレナンに玉座の間に居る全員が釘付けになっていた。


 そのレナンだがフルプレートを(まと)った近衛騎士に囲まれ、光る腕を構えて気だるげに立っていただけだが突如一瞬姿がブレた。


 その途端、玉座の間に鳴り響く甲高い音……。


 “キキキキキン!!”


 音はすぐに鳴り止んでレナンのブレた姿は一瞬であり、彼は同じ位置に変わらず立っていたが……。


 “ガタン、ゴトン、ガラン、ガキン”


 何かが落下した音を聞いて、ハルバードを構えていた騎士達は足元を見てギョッとした。


 良き磨かれた床に見覚えの有る物が沢山落ちている。それは彼等のハルバードの刃先だった。


 見れば14名全員のハルバードの刃先が柄の所より綺麗に切断されている。


 その事に驚愕していて一瞬呆けてしまった騎士達だが、(くだん)の白き少年が奇怪な右手の甲を白く輝かせ、一言呟くのを耳にした。


 「雷刃……」


 すると14名の騎士達全員の頭上に突如小さな雷撃が(ほとばし)った。


 “ガガガガガン!”


 重装備の騎士達は、全員が雷撃を一度に受けて倒れ込んだ。


 “ガタン、ドサ、ドスン、バタン”


 不可思議な事だがレナンは右手の甲にある宝石の様な器官を輝かす事で、無詠唱で魔法を行使出来る様だった。


 しかもこの下級魔法は効果範囲が狭いので14名の騎士を倒すには、十数回の詠唱を行い発動させる必要が有ったが、レナンの右腕による作用の為か一度で全員に魔法を発動させた。


 恐らくレナンがその気であれば、言葉など必要なく思うだけで魔法現象を発動できるだろう。


 目にも映らぬ電光の様な動きを見せ、右手の刃で近衛騎士全員の武器を切り捨てた後、無詠唱で複数の対象に一度で下級魔法を駆使する等理解不能な魔法発動を行って見せたレナン。


 雷撃を受けた騎士達は全員気絶している様で物言わず倒れている。彼は10秒も掛からない内に屈強な近衛騎士達、14名を無力させた。


 

 その状況に玉座の間に居た誰もが呆気に取られて言葉を失った。


 「「「「…………」」」」



 沈黙が支配する玉座の間……しかし、それを国王カリウス自らが破った。



 カリウスは大いに興奮し、立ち上がって叫んだ。



 「み、見事なり! その方の力、しかと見届けた! でかしたぞ、マリアベル!!」


 国王の歓喜に満ちた声を聞いた一同は、もう一度臣下の礼を取って(ひざまず)いた。


 その後、気絶した近衛騎士達は家臣達が運び出した。玉座の間に残っているのは側近の臣下とレナンとマリアベル達だけだった。


 国王カリウスが改めてレナンに話し掛ける。


 「……白き勇者レナンよ……そなたの力……確かに本物で有ると認めよう。その力を見越して余はそなたに命じる。

 このロデリア王国は兼ねてからエイリア大陸西部に位置するギナル皇国の侵略行為を受けている。

 特に最近、彼の国は宗教改革とやらで益々過激さを増し我が王国のみならず周辺諸国にも度重なる侵略行為を行っている……。

 そなたには彼の国に対する力強い盾となって貰いたい……さすれば、そなたの望みであるトルスティン伯爵の赦免(しゃめん)とアルテリアの庇護を約束しよう。返答は如何に?」



 レナンは国王カリウスの下命を受けて断る事が出来ない事を悟った。その為、返答は明確だった。


 「拝命、謹んで御受け致します。このレナン フォン アルテリア……王国の為、微力ながら誠心誠意尽力する事を誓います」


 そう言ってレナンは(うやうや)しく臣下の礼を取る。


 レナンは今立てた誓いに敢えて“国王陛下の為”という言葉を入れなかった。内心レナンの中では、王国の為とは言えレナンの力を欲する国王に心を許していなかったからだ。


 そんなレナンの意図には気付かず、国王カリウスは大いに満足そうに(うなず)き、話を続けた。

 

 「……うむ、良くぞ申したレナン……所で……そなたにはもう一つ命じる事が有る。心して聞くが良い」


 「……はい、陛下」



 「白き勇者レナンよ……そなたは、そこに居る黒騎士マリアベルと夫婦となり……子を成すのだ」


 「…………」


 真剣な表情で語る国王カリウスに、レナンは返答に困っていた。



 レナンの中では未だにマリアベルはオッサンだと思っている。



 そのオッサンと夫婦になる……コレもレナンの中では有り得ない話だが……子を成すなど、男同志で生物学的に困難だ。


 どう説明しようかと考えながらレナンは重い口を開いた。


 「……陛下……その……恐れながら申し上げます……黒騎士マリアベル殿は(たくま)しき男性で……私は、線が細い故……誤解されやすいのですが……こう見えて男子であり……子を成すのは……不可能かと存じます……」


 「「「「…………」」」」


 先程の誓いとはまるで異なり、レナンの弁明は消え入りそうな言葉だったが、国王カリウスに正しく伝わった様だ。


 しかし何故か周りの反応がおかしい。皆一様に沈黙しているが側近達は面白そうに笑みを浮かべ、マリアベルとソーニャ達は頭を抱えたり、額に手をやったりと“やらかした”感が伝わる。


 対して国王カリウスは深く溜息を付きレナンに話し掛けた。


 「ハァ……どうやら……誤解が有る様だ……そなたの言う通りだ、レナン……男同志では子は成せぬ……だが男女の仲なら道理であろう……。

 マリアベル……この場で有れば事情を知る者しか居らぬ故、問題は無い。素顔を見せるが良い」


 「ハッ! 陛下」


 国王カリウスに命じられたマリアベルは厳めしい兜を外してゆく。


 何故かその様子は心なしか楽しそうに見え、レナンは何が起こるのか、全く分らなかった。


 そして……マリアベルは漆黒の兜を外して顔を現し、その素顔を見てレナンは驚愕した。


 何故ならそこに居たのは……何処か野生的だがとても美しい女性だったからだ。


 美しいその素顔に特徴的な長い耳。兜を外せばオッサンが現れると信じていたレナンは驚愕し声を漏らした。


 「……ホントにあの時のオジサン?」


 「だから……私はオジサンじゃないって言ったのだ! コホン……とにかく、これでお前と私は夫婦だ。これから宜しくな、レナン」


 「そう言う事だレナン……これで問題無かろう。彼の者と子を成す事、これは厳命だ」


 悪戯っぽく微笑むマリアベルと、強く迫るカリウスに、レナンは我を忘れたのであった……。



いつも読んで頂き有難う御座います!

次話は「45)初陣」で明日投稿予定です! よろしくお願いします!


 読者の皆様から頂く感想やブクマと評価が更新と継続のモチベーションに繋がりますのでもし読んで面白いと思って頂いたのなら、何卒宜しくお願い申し上げます! 精一杯頑張りますので今後とも宜しくお願いします!


追)一部見直しました!

追)誤字を直しました!

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