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16)腐肉の龍-12(大破壊)

 崩れ落ちた腐肉の龍を見て静寂が周りを支配する。レナン以外の者が棒立ちし、我を忘れている。そんな中自分を取り戻し叫ぶ者達が居た。


 「お、おい……やったぞ! レナンが!」

 「うおおおお!! レナン様!!」


 冒険者バルドと護衛騎士ベルンは歓声を出して喜ぶ。他の者も力が抜けて座り込んでいる。ティアはズカズカとレナンの前に歩み寄り、彼を恫喝(どうかつ)する。


 「……レナンの癖に、随分言いたい放題言ってくれた……」


 ティアによるいつもの暴言が始まったと苦笑していたレナンだったが、死んだ筈の龍が(うごめ)くのを見て大声で叫ぶ。


 「ティア!! 危ない!」


 レナンはそう叫んでティアを突き飛ばした。


 その為、腐肉の龍が繰り出した前腕の薙ぎ払いには避けきれず、その一撃を受けてしまう。


 “ドガガアアァ!!”


 薙ぎ払われた前腕により、レナンは吹っ飛びホルム街道脇の木の幹に激突する。その様子を見たティアは真っ青な顔で叫びレナンの元に駆けよる。


 「レナン!!」


 ティアが駆けよりレナンを見ると、薙ぎ払われて吹き飛ばされた際の衝撃でレナンがぶつかった太い木は折れているが、身体強化の魔法の影響か、レナンの体の方の外傷は無かった。


 しかし龍の強力な一撃を直接受けた左腕が酷い状態だ。骨折と深い裂傷で血が(したた)っている。


 「レナン……この馬鹿野郎……うぅ……うぐ……ぐす……ううう!」


 ティアはレナンに(すが)り付きながら涙を流す。対してレナンはそっとティアの背を(さす)るのであった。


 ティアの背後で腐肉の龍は頭部の再生を終え様としている。切り飛ばした翼も小さい翼が生えてきている。


 あの怪物は有り得ない再生力を有している様だ。

 

 「ティア……ゴ、ゴメン……行かないと……」


 そう言ってレナンは力無く立ち上がる。左腕は酷い状態で、体の外傷は無いが打撃による激痛で立っているのも辛い状態だ。


 「馬鹿! アンタはすっこんでなさい! アイツは私がやるわ!」


 「ティアには無理だよ……アイツはキンググリズリーより(はる)かに強い」


 涙目で怒るティアに対してレナンは冷静に状況を分析して伝える。



 対してティアは涙を湛えたままニカッと笑ってレナンに言い切った。


 「そんなの分ってるわ! だけど私は負けない! 何でか分る? だってアンタの方が誰より何より強い! でも私はそのアンタより強い! だから私が一番強いのよ!」


 そう言い切ってティアは振り返らず腐肉の龍に向かって行く。


 二つの月が照らす月明かりの中、レナンはその姿を見ながら先程ティアが見せた爽やかな笑顔を思い返した。

 

 その笑顔は乱暴だがとても綺麗だとレナンは思い起こしていた。


 レナンにとってティアは無茶ばかりする大きな子供の様だが、誰より真っ直ぐで純真な存在だった。


 だからこそ先程の笑顔と龍に立ち向かう後ろ姿は力強く美しくて……そして愛おしいとレナンは感じていた。


 彼は誰にも打ち明ける事が出来ない想いをひた隠しにして立ち上がる。


 改めてティアを見ると、ティアに続いてラウラや近衛騎士のダリル達、そして冒険者のバルドやミミリが集い会って腐肉の龍に向かって行く所だった。



 その様子を見てレナンは苦笑してしまう。


 (何て……無謀な……勝てる訳無いじゃん……皆弱いのに……でも……何であんなに……カッコ良く見えるのかな……まるで父様みたいだ……父様? ……父上じゃ無くて? ……そうだ……ぼくの……ホントのとうさまは……おっきくて……つよくて……)




 “ザザザザ!”




 レナンの脳裏に生まれ育った場所の過去が思い出された。


 その過去映像では……巨大で不思議な形状の城に設けられた切り立った庭の前に……巨大な龍が……二本の足で立って……誰かの腕に抱かれるレナンを……見つめていた……


 (そうだ……何で……僕は……あんな小さくて弱い奴に……いい様にやられてたんだ? ……思い出そう……父様を……誰よりも強くて……巨大な! 父様を!!)


 ほんの少し……何かを思い出したレナンの右腕は突如、真白く光り出した!!




   ◇   ◇   ◇




 “キシャアアアアア!!”


 頭部を完全に復活させた腐肉の龍は雄叫びを上げてティア達に襲い掛かる。


 「ま、回り込め! 一撃でも貰えば終わりだぞ!」


 近衛騎士副隊長ダリルは皆に叫ぶ。


 「は、はい! よし! 矢で目を狙うよ!」


 ダリルに言われて冒険者のミミリが龍より距離を取って弓を弾き、矢を龍に穿(うが)つ。


 “ビス! ビス!”


 しかし、矢は龍の目からは遠く外れ、腕や胴体に命中する。怪物にとって矢など痛くも何ともなかったが、気に障った様でミミリに向け突進し出した。


 「キャアアアア! あ、あんなの無理!」


 ミミリはそう叫んで移動しようとするが、恐怖で足がもつれ上手く動けない。


 そこにすかさずバルドが剣を構え、ミミリの前に立った。無謀だが男気溢(あふ)れる姿だった。

 


 そんな中、ティアの魔法が炸裂する。


 「原初の炎よ 集いて 我が敵を焼き払え! 豪炎!!」


 “ボボボオオォ!!”


 中途半端な威力の火炎魔法が、腐肉の龍を包むが、今回も全く意味が無い。


 だが、ティアの目論み通りミミリやバルド達への関心は無くなり、自分へ怒りを向けさす事に成功した。


 腐肉の龍は怒り狂いティアに向け巨大な顎門(あぎと)を開き口内から眩い光を、あっという間に収束させた。



 そして刹那に恐ろしい破壊光線を放った! 


 “キュボ!!”



 ティアはその瞬間、やけに時間がゆっくりになった様に龍が光線を放つ姿を他人事の様に見ていた。


 (ああ……流石にコレ……ダメな奴ね……レナン……ごめん、私アンタを守れな……)


 そう呑気に考えていたティアの前に白い影が突如舞い降りた気がした。


 そしてその影は白く光る右手を差し出して……


 “キイイイン!!”


 ティアの前に躍り出たレナンは(まばゆ)い光を放つ右手を差し出した。


 すると腐肉の龍の破壊光線は、レナンが差し出した右手の前で突如弾かれ、あらぬ方向に反射された。


 そして反射された光線は通過した地上に赤く(ただ)れた灼熱の痕跡を描いたのだった。




 死を覚悟したティアの前に現れたのはレナンだった。


 だが何か様子がおかしい。右手が(まばゆ)く光り、その形状はどう見ても人の其れでは無い。


 やがて右手の光は収まりその形状を現した。指は五本だが、まるでガントレットの様に鋭角な形をしている。


 手の甲には菱形の宝石の様な器官が見られ、上腕には牙の様な鋭利な(とげ)が長く肘の方に向かって生えていた。


 よく見れば皮膚は細かい(うろこ)の様なモノで覆われている。


 「レ、レナン? その腕……まるで龍……」

 

 ティアは驚きを隠せず小さな声で問うが、レナンは静かにティアに返す。


 「ゴメンね、ティア……守ろうとしてくれて……でも大丈夫……僕が終わらせるよ」


 そう言ってレナンはゆっくり歩き出す。左手は治療もせずボロボロの状態で、体にもダメージが残っている様子だ。



 だが……腐肉の龍の様子がおかしい。明らかにレナンを、いやレナンの右手を見て怯えている。



 一刻も早く逃げ出したいかの様に後ずさりする。


 対してレナンは静かに龍に語る。


 「そう……お前も分るんだ?……格の違いに……だろうね、お前は余りに”小さく弱い”……」


 迫るレナンに対し、龍は命の危機を感じた様で背を向け逃げ出した。


 「お、おい! 龍の奴、逃げてくぜ!?」


 その様子を見たバルドが誰に言うでなく叫んだ。対してレナンは答えるが如く呟いた。


 「逃がしはしない……お前は小さくて弱いが……多くを殺し過ぎた……だから、死ね」


 そう呟いてレナンは変化した右腕の手の平を、背を向けて逃げ出す腐肉の龍に向けた。


 “キイイイイイイィン!!”


 すると……レナンの手の甲にある菱形の器官が(まばゆ)く光りを放ち出し、右手の平の前に真白く光る球体が現れた。


 そしてレナンは感情を込めず小さく呟く。


 「滅べ」 


 “キュン!!”


 レナンが呟いた瞬間に白く眩い光球は音より速く放たれ、そして……


 “ドガガガガガガガアアアン!!!”


 地を揺るがす振動と共に、爆発音が響いた。


 月明かりの中に土煙が立ち上り、(ようや)く視界が晴れた後には有り得ない破壊の痕跡が残されていた。

 

 レナンが放った(まばゆ)く光る光球は幅広く大地を円形に(えぐ)り、何処までも遠くに破壊の痕跡が延々と続いている。


 肝心の腐肉の龍は消滅し、右後ろ足だけが短く残って転がっていた……



いつも読んで頂き有難う御座います! 次話は明日投稿予定です!


読者の皆様から頂く感想やブクマと評価が更新と継続のモチベーションに繋がりますのでもし読んで面白いと思って頂いたのなら、何卒宜しくお願い申し上げます! 精一杯頑張りますので今後とも宜しくお願いします!


追)一部見直しました!

追2)サブタイトル見直しました!

追3)後書き見直しました!

追)一部見直しました!

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