表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気がついたら魔神でした  作者: ヴァル原
第2章 カラドボルグ魔法学園編
50/164

気がついたら憎悪でした

今回も短めです。

 

 ーーー杉本SIDEーーー


  「くそがっ!何で俺様がこんな目に。」


  「き、気にしなくて大丈夫だって健ちゃん。」


  学園内のとある寮の一室。そこには杉本とその取り巻き1名がいた。

  そこで杉本は抑えられなくなった怒りを爆発させていた。


  「適当なこと言うんじゃねえ!」


  「がはっ!?」


  杉本の拳は顔面にあたり、殴られた取り巻きは鼻血を垂らしていた。

  本来の杉本ならば取り巻きに手を出すことはなかった。彼が手を出すのは弱者。見下すべき対象だ。しかし、今の彼にはそんなことは関係なかった。目の前にあるもの全てがむかついた。

  しばらく部屋にある机や棚などの物に当たったことにより、杉本は少しずつ冷静を取り戻していった。そして、何故自分がこのようなことになったのかを明確にした。

 

  (これも全部あの女のせいだ!)


  杉本は1人の可憐な少女のことを考えていた。彼にとってその少女は自分の女になるべきものだった。その少女との約束を交わしたときに杉本自身がそう決めたのだ。そのときの彼はこれから手に入る物に心を躍らせていた。

  しかし、そのときの高揚感も今となってはかけらも残ってはいない。杉本は負けたのだ。自分が弱者と思っていた。あの女に…。

  その事実が今の杉本の状態を作り出しているのだ。


  (憎い……憎い……憎い……憎い……。)

 

  彼の中には憎悪が渦巻いていた。


  (殺す?…いや駄目だ。あいつには死以上の恐怖を植え付けるんだ。拘束、調教、拷問……何でもやってやる。)


  「け、健ちゃん?」


  杉本の表情は濁っていた。いや、表情だけではない。彼の存在自体が濁り始めていた。その姿は普段から彼を見続けている取り巻きから見ても異常であり、異形であった。

  そして、そんな彼に迫る1つの影があった。

 

  「君かな?」


  「「!!!」」」


  後方から聞こえたその声に杉本たちは驚き、身を翻した。

  後ろには『黒い渦』が出現していた。どうやら声はその中から聞こえたもののようだ。


  「ハハハ、驚かせちゃったかな?ごめんごめん。」


  「てめえは誰だ。」


  杉本は突然現れた黒い渦に臆することなく、応答する。


  「僕?そうだなぁ……神様かな。」


  「神?」


  「そ、神。魔神って呼ばれてたり、呼ばれてなかったり。」


  「「!!!」」」


  杉本はこの発言に驚いた。

  彼は一応は勇者だ。そんな勇者の目的は魔神を倒すこと。こんなことおそらく魔神自身も知っていることであろう。

  にも関わらず目の前の得体の知れない存在は自分が魔神と名乗ったのだ。そんな状況に驚かないわけがない。


  「で?」


  「で?それはどう言うことかな?」


  底の見えない黒い渦からは、そこから出ているとは考え難いほどの明るい声が聞こえる。

  しかし、杉本はそんなことを一々気にはしない。


  「その魔神様がわざわざ俺に何の用かって聞いたんだよ。まさか、勇者の前まで来て何もしません何てわけねえだろ。」


  「へえ。君意外と頭が回るんだね。僕はてっきり彼女への憎しみしかないと思っていたよ。」


  「こいつ!言わせておけば!」


  冷静になった心もその一言で再び荒れ狂う。

  杉本は魔法を渦に向けて放とうとするが、そんな彼に黒い渦からの声が囁く。


  「もしも僕と手を組めば、彼女を手に入れられるなら君はどうする?」


  「……。」


  魔法を放とうとしていた杉本の右手が止まる。

 

  「手に入るのか?」


  「思うがままにできちゃうよ。」


  杉本の表情はますます濁りを増していく。取り巻きはそんな杉本の顔を見て、彼が何を考えているのかを主事に理解した。

  今の彼の中には憎悪が渦巻いている。そんな彼に悪魔の囁きのような言葉を聞かせたら彼は……。


  「け、健ちゃん?まさか、行かないよね?さ、流石にそれは不味いんじゃない?ほら俺たち一応は勇者だしさ?そいつを倒さないといけないわけじゃん?」


  取り巻きは杉本を止めようと必死になった。取り巻きは自分は杉本の友人だと思っていた。だからこそ彼は友人とした、彼が過ちを犯さぬよう必死だった。

  しかし……。


  「うるせえんだよ。てめえは黙ってろ。これはこいつと俺の会話だ。」


  杉本にその思いは届かない。もはやそこには杉本と取り巻きの間にある程度のちょっとした友情では突破することのできない何かが存在していたのだ。


  「そうだよそこの君。そもそも勇者様が魔神に勝てるわけないでしょ?」


  「え、そ、それはどう言う…。」


「どう言う意味も何も所詮は人間から派生した勇者の君たちじゃ魔神には勝てないって言ってるの。わかる?何しても無駄。そもそも、創造神でも勝てないんだよ?魔神に。」


  「……。」


  渦からの声は取り巻きに絶望を与えた。そして、そんな彼はその声の主が危険だと判断した。また、逃げるしかないとも判断した。


  「け、健ちゃん!逃げよう!そいつは危険だ!」


  「黙れ。」


  杉本のその言葉に一瞬、体が強張った。しかし、彼は思った。

  今、動かなければならない。そうしないと取り返しがつかなくなる。

  彼は歯を食いしばった。そして、思いをぶつけた。


  「ふざけんな!てめえは何知らねえ相手に流されそうとしたんだよ!てめえは今上手い具合に使われそうになったんだよ!逃げるぞ!早く!さっさとしろ!」


  取り巻きは出来る限りの声で叫んだ。普段、自分の言うことを必ず聞き、反発もしない取り巻きからのこの発言。取り巻きのこの行為に杉本は取り巻きの方へと向き直った。

  きっとこのまま杉本に彼の気持ちを伝えられて入ればこの後の展開に変化があったのかもしれない。そう。伝えられて入れば。


  「杉本くん。彼は君の復讐の邪魔をしようとしてるんだよ?許せる?君に逆らうものを許せる?」


  「…許…せねえな。」


  「け、健ちゃん…。」


  遅かった。もうすでに杉本の心は取り巻きの言葉が届かないところにまで沈んでいたのだ。

  復讐。彼はもう濁った色に染まりきっていた。濁った色はもう元には戻らない。

  杉本は部屋の壁にかけていた斧を拾い上げる。


  「嘘……だよね。健ちゃ…。」


  彼の言葉は最後まで続かなかった。


  「よし、それじゃあおいで。復讐の勇者様。」


  「………。」


  杉本はゆっくりと渦の中は姿を消した。後には何処か寂しげな死体だけが血の海の中残されていた。

 


 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ