気がついたら謝っていました
前々回、スキルの表記を誤っていました。申し訳ありません。
正しくは
ユニークスキル
『風操者』
『黄泉之者』
でした。
それと今回は短めです。
ルネと杉本の試合終了後、俺はアスモデウスとともに運ばれていったルネの元へと向かっていた。
おそらく、彼はまだ気を失ったままであろう。今あっても言葉を交わすことはできない。しかし、それでも俺たちは居ても立っても居られなかった。
「まさか、本当に勝つとは思いませんでしたねえ、イヅナ様。」
「そうですね。私もここまで成長するとは思ってもいませんでした。でも……。」
ルネは強くなった。しかし、人という1つの道を捨てていた。彼自身それを望んだわけが無かろう。これから先の人生。少なからずこのことは影響を及ぼしていくだろう。
俺のせいだ。責任は取ろう。
「イヅナ様、着きましたよ?」
「え?あ、はい。」
俺とアスモデウスは救護室に到着した。
「…………。」
俺は救護室の扉に手をかけようとした。が、俺の手は扉はとなかなか触れられなかった。
(まだこういうところは人間らしいな。)
俺はそんな自分の状況を鼻で笑った。
「イヅナ様が開けないなら私が開けますね。」
そう言って、アスモデウスは扉を勢いよく開けた。
「ルネいますか?」
「ん?何だい?」
扉の向こうにはすでに意識を取り戻したルネがいた。所々に先ほどの試合でついた傷が残ってはいるが、大丈夫そうだ。
「あなたよく勝てましたね。」
「その言葉から推測するにアスモデウスさんは僕が負けると思っていたのかな?」
「勿論ですよ。」
「あれだけのことを言っておいてそれはひどいんじゃないかな?」
ルネは呆れたように言うが、その様子はどこか楽しそうだ。
「あ、そう言えばルネさん。この後の競技は明日に延期になりましたので今日はしっかり休んでくださいね。」
「そうなのかい?しかし、どうして?」
「実は……。」
俺が聞いた話によると、ルネと杉本の試合で観客席を守るため貼られている防御壁、いわば結界のようなものが不安定な状態になってしまったらしく、その調整をするため今日の残りの競技は全て明日以降に延期となったのだ。
「すまないね。皆にも迷惑をかけてしまって。」
「全くです。少しは反省してください。」
申し訳なさそうにするルネに、追い討ちをかけるアスモデウス。
「揺るがないね、アスモデウスさんは。」
「まあ、こういう子なので。」
「イヅナさんも苦労している様子だね。」
「ええ。ルネさんもその様子だと。」
「まあね。ハハハ。」
俺は今ならルネと互いの苦労を分かり合えるだろうと感じた。
「でも、アスモデウスさんのおかげで勇者様に勝てたのは事実。優勝は無理でも1年生代表くらいまでは行きたいものだね。」
「あ、それ無理ですよ。イヅナ様もいますし。」
「イヅナさんはそこまで強いのかい?」
「私の何倍も強いです。」
「まさか、そんなわけ……ないはずだよね?イヅナさん。」
「事実ですよ。」
「じょ、冗談だ…あがっ!?」
ルネは驚きのあまり口を大きく開けたところ顎を外したようだ。しかしそこまで驚くものか?
「何やってるんですか!っと」
アスモデウスは強引にルネの顎をおす。
「あぐ!?い、痛いじゃないか!」
「治ったんですからつべこべ言わない。」
「………。」
何を言っても無駄だと悟ったのだろう。ルネは黙った。
「まあ、そういうことですから、いかにあなたが人をやめた身であってもイヅナ様には勝てませんよ。」
「アスモデウスさん!」
俺はアスモデウスの発言についつい大きな声を出してしまった。
「へ?わ、私何かまずいこと言いましたか?」
しかし、アスモデウスは何も理解していない様子だった。この付き人はルネにすでに人間ではないことを平然と告げてしまったのだ。全く、そういうことは少しずつ伝えていくものだと言うのに。
「人の身をやめた?」
ルネはアスモデウスの言葉の意味が理解できていないようだ。それもそうだろう。いきなり人の身をやめたなどと言われて、はいそうですか、となる人などまずいない。
俺はそんな様子のルネを正面から見つめる。そして、覚悟を決めた。
「……ルネさん。あなたに伝えなければならないことがあります。」
「……何だい?」
ルネは自然と真剣な顔つきになる。
「まず、ご自分のステータスで種族の欄を確認してみてください。」
「…………。」
ルネは無言でステータスを確認する。
「……半人。」
ポツリと呟くルネ。
「……あなたは………あなたは訓練を重ね、死を経験することによって、人という枠組みからはずれてしまったのです。結果、あなたは強くなることと引き換えにこの先の人としての人生を捨ててしまったのです。」
「…………。」
ルネからの返事はない。
「すみませんでした。」
俺は頭を下げた。
「私たちのせいです。私たちがあなたを……人ならざるものへとしてしまいました。勿論、こんなことで許されるとは思っていません。出来る限りのことはするつもりです。」
「………。」
頭を下げているため、俺からルネの顔は見えない。ルネからも俺の顔は見えていない。
俺はルネの顔を見ることも、自分の顔を見られることに抵抗があった。
恐怖…ではないが、それに近いもの。そんなものが俺の心の中を回っていた。
ルネからの返事がこないこのときが俺にはとてつもなく長く感じられた。
「…イヅナさん。顔を上げてくれないかな。」
俺は言われた通り顔を上げた。そこには俺の予想していなかったものがあった。
笑顔だ。
「イヅナさんはそのことをとても気にしていた様子だった。それだけで十分さ。」
「し、しかし…。」
「確かに僕はもうただの人間の道を歩めないかもしれない。」
ルネは俺の言葉を遮るように言った。
「でもね、イヅナさん。もしも、人間をやめないでいたら、僕は今自分が感じている満足感を感じられなかったはずなのさ。」
「満足感ですか?」
「そう。だから僕は人間をやめてしまったことを…ちょっとばかりは気にするだろうけど、本来行けなかった道を歩み出せるというなら、僕は半人でもいい。ここ数週間の出来事を思い返すとそう考えられるんだ。」
「………。」
本当にルネは強くなったのだ。今の彼を見ているとそれを確信できる。
どんな自分も受け入れられるそんな器が今のルネにはあった。
「ありがとうございます。ルネ。」
「気にしなくていい。このくらい、紳士として当然だからね。」
「何が紳士ですか。私と手を繋いであんなに…。」
「体調も良くなってきたし、散歩にでも行こうかな。2人もどうだい?」
うまく誤魔化すルネ。
「行きますか。」
俺はルナの意見に賛成した。
「え!?イヅナ様も行くんですか?しょうがないですねえ。私も行きますか。」
俺たちはそうして救護室を後にした。
「両手に花ですね、ルネ。」
「なっ!?い、いや、その……。」
この後、散歩中アスモデウスにおちょくられるルネであった。
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ーーー神界SIDEーーー
イヅナたちが学園で散歩を楽しんでいるころ、創造神ブラフマーは暇を持て余していた。
「駄目だなあ。最近全然面白いことないよお。魔神は見つからないし、勇者にも動きはないし。」
ブラフマーは純白の床の上で神あるまじき格好で寝ていた。
消息を絶った魔神を探しても情報なし。召喚を許した勇者たちも学園に行ってからというもの変化がない。
「ん〜。誰か僕と遊んでくれそうな子いないかな。」
ブラフマーは下界を見渡す。
「ん?へえー。なかなか面白そうなのがいるじゃん。そうか。彼らを使えば少しは面白くなりそうだな。」
ブラフマーは不敵な笑みを浮かべる。
「相手は勇者達でいいかな。お?この子も……使えそうだねえ。」
その日、イヅナ達が“闘魔祭”を楽しむ中、確かに何かの陰謀が動き始めようとしてた。
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