表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/52

五十二話 余裕

 強く掴まれた私の腕には、母の爪が食い込んでいる。

 額には青筋がピキピキと浮かんでいて、怒っていることが一目瞭然だった。


 ……まぁ、プライドの高いあなただもの。当然怒るでしょうね。


「なにか御用ですか? レインフォード伯爵夫人。私は迎えが来たのでもう帰るところなのですが……」


 敢えて笑顔でそう告げる。

 すると、母はその態度が余程気に入らなかったのだろう。


 顔をぐしゃりと歪めている。爪の食い込みが強くなった。


 けれど、私は怯まない。

 だって、こんなことで怯むようではグレンウィル公爵夫人とは名乗れないもの。


「よくも……! よくも恥をかかせてくれたわね!!!」


 そう言って、母がもう片方の手を大きく振りかぶった。


 ____まるで、安っぽい小説のワンシーンね。


 そんなことを考えながら、私は母の平手打ちをわざと避けずに受け入れる。


 パシン!!と乾いた音が庭中に響いた。


 その瞬間、貴婦人達が一斉にざわつき出す。

 ……予想通りの展開ね。


 私は先程までの笑顔の仮面を捨てて、淡々と母に言い放った。


「今、手を上げましたね。伯爵夫人のあなたが、公爵夫人である、私に」


 私がそう告げると、母は一気に顔を青くする。


 ……気付いていなかったの?

 そんなに頭に血が上っていたのね。


「で、でも……そうよ、あなたは私の娘でしょう!?」

「血縁上はそうですね。ですが伯爵夫人……残念なことに今は、私の方が立場が上なのですよ。……それに、証人はたくさんいらっしゃいますし……ね?」


 母がギリ、と歯軋りをした音が聞こえてきた。


 ……悔しいでしょうね。

 でも、私はこれまでの人生……あなたよりもっと、ずっと悔しかったのよ。


「このことは夫に報告させていただきます。処罰については……夫からの連絡をお待ちくださいね。それでは、今度こそ失礼いたします」


 母はもう、言葉も出ないようだ。


 ヘナヘナとその場にへたりこんでしまった母を横目で見ながら、私はその場を静かに立ち去ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ