第二百六十三話 マイペースな英雄達
夜の闇を切り裂くように船は進む。
月明りだけを頼りに、その夜の向こう側に在る楽園に向けて。
春近たちの想いは、遥遠い海の向こうの島へと飛翔する。
皆で楽しい場所にしたい――――
最初は陰陽庁の考えた『恐ろしい力を持つ者たちを、遠くの離島に隔離したい』という酷い扱いだった。
それが、いつの間にか大幅に待遇改善され、ゆったり快適な南の楽園生活に。
極め付けが、東京を隕石落下から救ったことで、今では救国の英雄として現実でもネットでも持て囃される結果に。(栄誉賞授与式でのしでかしで、若干変態疑惑も広がってはいるか……)
そもそも、星を撃ち落とすような最強の存在に対し、国家レベルの軍事力で対処できるわけもなく、むしろ春近が争いを好まない性格だったのを各国為政者は感謝すべきなのだ。
「東京の夜景が、あんなに小さく……」
「ハルチカ、もうホームシックですか?」
ちょっとロマンチックになっている春近に、アリスがニヤニヤして答える。
何だかドヤ顔っぽいアリスが、背伸びしているみたいで可愛い。
「アリス、あまり手すりに近付くと海に落ちそうで危ないよ。抱っこしててあげようか?」
「こ、子ども扱いするなです! で、でも、抱っこはして欲しいような……」
「もうっ、キミたち視察旅行の時も甲板でイチャイチャしてたわね」
唐突にイチャイチャが始まりそうな予感を感じた賀茂が横槍を入れる。
「そ、そういえば……隕石落下阻止の報奨金っていつ出るんですか?」
春近が話を逸らす。
「先日聞いた口座に次期に振り込まれるはずよ。おおよそ一人一億円くらいって聞いてるわね」
「「「ええええええーっ! 一億円んんんんんん!」」」
春近とアリスと、近寄ってきたルリが一緒に大声を上げる。
春近たちには、ちょっと桁がビックリな位だった。
「い、い、一億円という事は、魔法少女ロリーミンのBD-BOX特装限定版が何個買えるんだ!」
「は、ハル! 焼肉に何回行けるの?」
「お、落ち着くです! 一億円では六本木の高級億ションは買えないです!」
三者三様で例えが極端過ぎた。
「東京を救った功績に比べたら、それでも少ないと思うけど……」
賀茂の言う通り、首都壊滅の危機を救ったにしては、春近たちはマイペースで呑気過ぎなのだ。
そんな訳で――――
春近が予約されている室内に入り愕然としていた。
視察旅行の時は特等室でベッド完備だったのだが、今いる部屋は広い一部屋に全員が雑魚寝するだけのものである。
「えっと……これって……」
「二等室よ。今回は人数が多いから特等は取れないの。ここで我慢してね」
春近の呟きに賀茂が答えた。
ただ、春近が言いたいのは、部屋が豪華とか質素とかの問題ではなく、こんな大人数が一緒に寝る場所に男一人だと、エッチ女子たちの餌食にされてしまうのではという心配なのだ。
「マズい! マズい! マズい! これ、絶対にエチエチ調教フラグなのでは……」
春近ほどのドS女子引き寄せ能力を持つ上級者となれば、自ずと後の展開が予想できてしまうのだ。
思えば昔からヤンチャな女子やS系女子に何故か絡まれることの多い春近だったが、陰陽学園に入ってからというもの、更にドS女子引き寄せスキルが強化され、元々Sじゃなかった女子までS潜在力を引き出してしまうくらいになってしまった。
春近の雰囲気や表情が、S系女子の嗜虐心をキュンキュンそそってしまい、もう彼女たちの心がどうにも止められないほど昂らせてしまうのだ。
咲は初対面でありながらゾクゾクが止められなくなり顔をふみふみしてしまうとんでもないことをやらかし、元々大人しくて消極的だった忍は強烈なお仕置きをするように、元からドSの渚に至っては一目見た瞬間からドS乙女心に火がついてしまったくらいだ。
そして、もう一人ここに――――
「ハぁ~ル君っ!」
びっくぅぅぅーん!
「あ、あ、天音さん……」
突然、天音が春近の耳元で囁いてきた。
「ハル君、今夜は楽しみだねっ!」
「あっ、やっぱり……で、ですよねー」
「今夜は、じっくりたっぷり調教してあげるからねっ♡」
「で、でも、今日は賀茂さんも居るし……お手柔らかに……」
春近が遠回しに断ろうとするが、そんなのを許す天音ではなく――
「だぁぁ~めっ! すっごくキッツイお仕置きにしちゃうからね♡ もう泣いても許してあげないんだから。ふふふっ、楽しみだなぁ……ハル君が、限界を超えた快楽で泣きながら許しを請いながらのたうち回る姿……・いいっぱい、ハル君の恥ずかしいとこ見せてねっ♡」
ゾクゾクゾクゾクゾクゾク!
天音さんの調教が――
怖さからいったら渚様の方が怖いんだけど、天音さんは容赦がないというか限度を知らないというか、普段は優しくて良い人なのにエッチになると急に攻撃力がアップしてしまう。
まさか、天音さんがドS女王様になるなんて……
前にオレの好みに合わせるとか言ってたけど、今では完全にドSになったような?
一流の女優は一流の女王様になれるのか……
今更だが、エッチ四天王のステータスを考えるとこんな感じだろうか?
【エッチ特化ステータス】
大嶽渚
種族:鬼神天使
職業:女王様
ドSレベル10
攻撃力10
防御力2
体力 5
スキル:魔眼、女王権限、甘美な毒、防御不可能侵食攻撃
大山天音
種族:淫魔天狗
職業:エッチマスター
ドSレベル8
攻撃力7
防御力5
体力 7
スキル:天音流絶技四十八手(EXスキル)
阿久良忍
種族:鬼神戦士
職業:女戦士ヒルド
ドSレベル6
攻撃力9
防御力10
体力10
スキル:恵体を活かした全ての攻撃、巨尻圧迫
酒吞瑠璃
種族:サキュバス
職業:エロ探究者
ドSレベル5
攻撃力9
防御力9
体力 9
スキル:魅了、催淫、魅惑のボディ、どこでもエッチ
※春近が体感したエッチ度を勝手に数値化したものです。
つ、強すぎる……
攻撃力だけでは計れない超絶最強スキルを併せ持ち、それぞれが他の追随を許さない優れたエッチの才能がある。
オレがいくら強くなっても、エッチで勝てるとは思えない……
春近が、中二っぽく勝手に皆のステータスを決めて、ちょっと失礼なことを思っていた。
まあ、こんなことを思いながらも、このカップルは相思相愛なのだから面白い。
シャワーを浴び終わり消灯時間になった。
各々がマットに寝転んで室内が静寂につつまれる。
ドキッ、ドキッ、ドキッ、ドキッ、ドキッ、ドキッ……
ごくりっ!
き、緊張する……
すぐ近くに賀茂さんが寝ているのに……
「ハル君、おまたせ。(ぼそっ)」
いつの間にか、天音が接近して耳元で囁いてきた。
そのセクシーな声だけで、体がビクッと反応してしまいそうだ。
「あの、天音さん……やっぱり止めましょよ。賀茂さんが近くに寝てるのに」
「賀茂さんがいるからやるんでしょ。ハル君の恥ずかしいトコ、賀茂さんにいっぱい見てもらおうねっ」
「ひいっ、この人やっぱりドS過ぎるよ」
「ふふっ、今頃気付いたの? もう泣いても許さないって言ったでしょ。ハル君を徹底的に調教しまくって、完堕ちするまで攻めまくって、完全に私色になるまで汚しまくってあげるねっ!」
「ひいいいーっ! 誰か助けてぇぇぇ!」
天音の常軌を逸したような色っぽい声が直に耳から侵入し、脳をゾクゾクと揺らしてくる。
前からちょっと危険なお姉さんなのだが、最近は春近を異常なレベルで溺愛するあまり、更に危険なエッチ女子になっていた。
天音の毒牙に掛かりそうになった瞬間、頼もしい助っ人が参上する。
「春近、助けに来たわよ!」
渚が反対側から現れた。
「渚様! 助けてくれるの?」
「春近、安心しなさい! あたしが来たからには、その女の勝手にはさせないわよ!」
「あああっ、渚様が天使に見える」
「あたしに任せなさい! あたしが春近を徹底的に調教して、完堕ちして泣いておねだりするまで攻めまくって、完全に身も心もあたし色になるまで上書きするわよ!」
「全然、天使じゃなかったぁぁぁ!」
助けに来てくれたというより、新たな女王様だった――――
今から島に向かおうとしているのに、やっぱり春近はこうなる運命なのだ。
「大丈夫? 何か、うなされてるみたいだけど」
春近たちがコソコソ話していると、賀茂が目を覚まして話し掛けてきた。
渚と天音は一瞬で布団に潜り込み身を隠してしまう。
「い、いえ、何でもないです……」
「そう? 何か声が聞こえたから。調子が悪いのなら言ってね」
「は、はい……うっ、うわっ!」
春近のカラダに強烈な快感が突き抜ける。
布団に潜っている二人が何かイタズラしているようだ。
こ、これは……まさか深淵入滅か!
絶技の一つが炸裂した。
天音の長い舌が絡みつき、超絶技法によるテクニックで追い込まれて行く。
常人には再現不可能な天音の恐るべき特殊能力なのだ。
「ぐあっ、あああっ!」
「やっぱり体調悪いのね? 熱はあるのかしら?」
春近が声を上げた為、賀茂が春近に額に手を当て熱を測りだした。
「うぐっ、ううううううううっ!」
更に強烈な快感の波が押し寄せた。
渚が負けじとアチコチにキスや舌を這わしているのだ。
甘い毒のような渚のキスが、直接危険な場所に流れ込んでくるような気がして、天音のテクとの相乗効果でとんでもない事態になってしまう。
もう、とても耐えられるような快感ではない。
「うわああああっ!」
「ど、どうしよう、誰か呼んで来た方が……」
「もうダメだぁぁぁぁぁ!!!!」
チュドォォォォォォォォォォーン!
爆発した時に春近が跳ね上がり、布団が飛ばされ天音も離れてしまう。
そして、それは賀茂の顔に命中した。
ビチョ!
「あっ………………」
――――――――
「もうっ! 最悪!」
大騒ぎになり、全員が目を覚ましてしまい、賀茂はカンカンに怒ってしまった。
今日はゲロインになったり、顔に命中的な事件になったりと最悪な一日だ。
賀茂にとって、三十年ちょっと生きて来た人生よりも、今日一日の方が濃厚な体験をしているくらいだろう。
「あの、すみませんでした……」
「つーん!」
「ねえ、ハル?」
ルリが笑顔のまま威圧感を出している。
「私が寝てる時に、イイコトしてたんだ?」
「る、ルリ……」
そこでアリスが唐突にバッグから何かを取り出す。
「先日頂いた0.01ミリを持ってきているです!」
高々と掲げる。
やっぱり、この後めっちゃ大変なことになった。
そして賀茂は、ふて寝した。




