第二百三十九話 理想郷
文化祭の全日程が終了し、生徒たちは片付けに入っている。
これが学園最後のイベントになると思うと、少し寂しいような気持にもなってしまう。
春近は、そんな哀愁にも似た想いを抱きながら、クラスの皆と片付けをしていた。
「ふぅ、大体こんなもんかな」
派手な装飾をしていた教室も、普段通りの風景に戻ってしまった。
藤原たちは打ち上げと称してカラオケに行くそうだ。
そうして、また普段通りの毎日がやって来るのだろう。
ルリは、夏海のクラスの出し物で売れ残ったたこ焼きを貰い、幸せそうな顔をして食べている。
何パックものたこ焼きを抱えて、勢いよく食べている姿が微笑ましい。
「あむっ、おいひぃーっ!」
ふふっ、ルリの幸せそうな顔を見ていると、こっちまで楽しくなってくるよ。
あんなに食べるのに、体形が変わらないのが凄いけど。
そんな感想を漏らす春近だが、視線はくびれたウエストから胸へと移ってしまう。
春近が段ボールを両手に持ち収集場所へ向かって歩いていると、何処からか一二三が現れた。
ほんの少しだけ顔が赤い気がする。
「あれ? 一二三さん」
そのまま一二三が横に並ぶと、体を寄せて密着させる。
「どうしたの? あの、今は両手が塞がってるので」
「んっ……エッチ、スケベ、ヘンタイ……」
いきなり色々言われてしまうが、多分C組の出し物でのことを言っているのだろう。
教室の奥に作った部屋の中で、女子四人の獄卒からエチエチ攻撃されて騒いでいたのだから、もう何も弁解のしようがない。
「ううっ、その節はご迷惑をお掛けしました……」
「むっ、ズルい……私にもイチャイチャするべき……」
むーっと春近を見ていた一二三が、急に顔を近づけてくる。
「ちゅっ」
両手が塞がって動けない春近に、一瞬だけ軽くくちびるが触れるキスをした。
放課後になり人が減ったとはいえ、まだ人通りのある校舎の廊下である。
誰かに見られる可能性が高いのに、大人しい一二三にしては大胆な行動だ。
「あっ、あの、一二三さん?」
「ふふっ、春近が反省するまで何度でもする……ちゅっ♡」
「だ、誰かに見られちゃうよ」
「んっ……問題無い……ちゅっ♡」
もう、止まる気配は無い。
こんなに積極的な一二三は珍しい。
「……どう? 反省した? ちゅっ♡」
「ええっと……まだかな?」
「ふふっ……ちゅっ、ちゅっ♡」
「まだ反省しない」
「……春近のエッチ……ちゅっ♡」
「まだまだ」
「ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ♡」
一二三がイチャイチャしたいのだと感じた春近は、敢えてイチャイチャできる口実を与えるようにして、一二三のキスを受け続けた。
それに気づいた一二三も、ノリノリになってキスし続ける。
もう、ここまで来ると、通りかかる生徒にもバレバレだ。誰もがドキドキきゅんきゅんオーラを出しまくっている二人を直視できず、目を逸らして通り過ぎて行く。
「ふふっ……まだ反省しない? ちゅっ♡」
「もうちょっとかな?」
「春近……大好き……ちゅっ♡」
普段は無口で無表情な一二三だが、春近の前では良く喋り表情も少しだけ変わるのだ。
それは、決して冷めた性格なのでも感情が少ないわけではなく、心を許した人にだけ扉を開いて気を許しているだけだった。
春近には全幅の信頼を置いているのか、もう完全に気持ちが開きっぱなしなのだ。
「一二三さん、キスし過ぎだよ」
「ふふふっ……ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ♡」
春近が校舎裏の収集場所に段ボールを入れ、両腕が自由になると一二三に逆襲を始めた。
手をニギニギしながら一二三に近付いて行く。
「ほおらっ、一二三さん、さっきの仕返しだよ」
「春近のエッチ……ヘンタイ……」
ニギニギしていた春近の手が、一二三の腋や背中や腹などをコチョコチョくすぐる。
唐突に変なプレイが始まってしまった。
「きゃっ、くっ、ダメっ……」
「ほーらっ、ほらほら、もう逃がさないよ~」
「あっ♡ んっ、くぅ……」
「ほらほらほらぁ」
腋や腹をくすぐっている春近の手が、さり気なく胸や尻に触れてしまっている。
くすぐりと見せかけて、本命はちょっとエッチなイチャイチャがしたいのだ。
校舎の陰になっているゴミや資源の収集場所なので人からは見えないが、これがもし人に見られたら恥ずかしい。
「ほらほら~ もみもみ、ぷにぷに~」
「んーっ、ダメぇ……あんっ……♡」
調子に乗って揉みまくる春近だが、一二三も嫌がっているわけではなく楽しそうだ。
そのまま良い感じになってしまいそうなところで――――
「おにい、何やってんの……」
「あっ……」
「んっ……」
抱き合ってくすぐり合っている恥ずかしい体勢のまま振り向くと、そこにゴミを運んで来た妹の夏海が立っていた。
ささっ!
二人は離れて何食わぬ顔をしようとするが、バッチリ見られているので誤魔化すのは不可能だ。
ジトォォォォォォ――――
「おにい…………」
「こ、これはだな……」
くっ、夏海のやつめ――
何で、いつも良いところで邪魔しに出て来るんだ……
「夏海、誰か居るの?」
夏海の後ろからもう一人の下級生が出てくる。
一緒にゴミを捨てに来たのだろう。
「あ、何でもないよ」
「あれ? もしかして、噂のお兄さん?」
夏海のクラスメイトが、まじまじと春近の顔を見つめる。
「あっ、妹が世話になってるね。よろしく」
「いえっ、こちらこそ。よろしくお願いします」
春近と女子が、お互いに軽く挨拶をする。
ただ、その友人女子が夏海の方を向いて勝手に盛り上がってしまった。
「ねえっ、夏海はいつも『兄はオタクでキモい』って言ってるけど、けっこう良いじゃん」
チラッと意味深な目を春近に向けながら夏海と話している。
この女子のS心が春近に対する何かに共鳴してしまったようだ。
とにかく春近は昔から、ヤンチャな女子やSっぽい女子に絡まれやすいのだ。
おいっ、夏海よ――
何でオレの悪口を広めてるんだ?
「じゃあ、お兄さん! また今度遊びましょう」
「いやいやいや! または無いから!」
「ちょっと夏海ぃ、ちょっとくらい良いじゃない」
「ダメだって」
夏海がクラスメイト女子を引っ張って行ってしまう。
もうっ、私がこれ以上おにいのハーレムを増やさないように頑張ってるのに!
人の気も知らないで……
おにいのやつぅぅぅ……
妹は色々と気苦労が多かった――――
少し離れて存在感を消していた一二三が、再び戻って来て横に並ぶ。
ラブラブなところを邪魔されてご不満そうだ。
「一二三さん、戻ろうか?」
「むぅ……もう少し……」
まだ足りないと言わんばかりに、春近の腕に抱きついてきた。
春近は、そんな一二三を抱き寄せると、優しく大切なものを守るように抱きしめてからキスをする。
「ちゅっ……んっ」
「……んっ♡」
少しの間、見つめ合ってから……
「じゃあ、行こうか?」
「うん……ふふっ」
二人は仲良く手を繋いで校舎へと歩いて行った。
春近は考えていた――――
彼女たちには様々な才能や良いところがある。
もっと伸び伸びと生きて行けたのなら、才能を活かせるような世界になるのならと。
楽園計画の緑ヶ島は、特区として様々なことが認められる予定なのだと。
ならば…………
自分が彼女たちを守らないと。
彼女たちが生き生きと暮らせるような場所があれば。
そう、優しさや愛の国を造れたのなら。
その場所に行けば、悲しみや差別やイジメの無い、そんな世界があったのだとしたら。
人はそれを不可能だとか夢物語だと言うだろう――――
でも春近は信じていた。
これから向かう島が、この世の苦しみや悲しみから少しでも癒されるような、理想郷にしたいと。
そして、鬼ヶ島の王の伝説が始まろうとしていた――――
あと、春近は忘れていた。
甘い嫉妬に狂った二人の女王が、まさかの協力体制となって、空前絶後の超エチエチ調教を仕掛けようと爪を研いでいることを。
いつもお読み頂き誠にありがとうございます。
この物語は、次回特別編「超エチエチ調教」で第八章を終了し、引き続き第九章に入る予定です。
今のところ第九章を最終章にしようかと考えていますが、緑ヶ島に渡ってからの話も書きたい気もするので、その後の話は検討中です。
読んでくれた人が、少しでも笑顔になったり面白いと思ってもらえるような物語を作っていきたいと思いますので、これからも応援よろしくお願いします。
もしよろしければ、星やブックマークや応援など頂けますと、とても嬉しく思います。




