第百四十三話 エッチなのはいけません
二人の間に静寂の時が流れていた。
船は出航のアナウンスが放送されてから、少しの振動と揺れを感じながら港を出て海の上を進み出す。春近たちは密室で二人きりとなり、アリスの小さな体が火照っていた。
「ハルチカ……」
アリスは熱を帯びた瞳で春近を見つめる。
「ハルチカ……」
「アリス?」
「んっ、んぁ、ハルチカ……」
ガチャ!
「遊びにきました」
「ひゃんっ!」
突然ドアが開き、忍と一二三が部屋に入ってきた。アリスはビックリして体がピョコっとなる。
驚かせてしまったのだと、忍がアリスに声をかけた。
「あ、あの、アリスちゃん、ビックリさせちゃいましたか……」
「い、いえ、大丈夫です」
何とか取り繕って返事をするアリスだが、動揺しているのかいつもの落ち着きは無い。
「四人で遊ぼうと思ってトランプとか持ってきました」
「……私も春近と一緒に遊びたい……」
忍と一二三がテーブルの上にトランプを広げる。
「うん、トランプ良いね。ちょ、ちょうど何かゲームでもしようと思ってたんだよ」
春近も話を合わせているが、あの真面目なアリスがおかしな雰囲気になったことで心臓が激しく鼓動を刻んでいた。
「ハルチカ……」
アリスはトボトボと春近の隣に来て、他の人に聞こえないように小声で呟く。
「うう……人の事を愛欲に塗れているとか言っていたのに、愛欲に塗れていたのは私でした……自己嫌悪です……」
「あの、だ、大丈夫だよアリス。まだ現地に着いてないんだし。移動中くらいは塗れても良いんじゃないかな?」
「ハルチカのエッチ……」
アリスはそう言って、皆にバレないように肘で春近をコツンとやる。照れ隠しのつもりだろう。
トランプで遊んだ四人は、一時間ほどしたところで一旦休憩になった。
「ちょっと飲み物を買ってくるです」
「……私も……」
アリスと一二三が売店に向かい、部屋には春近と忍だけになる。
この時、忍の目が明らかに蕩けているのだが、前髪で隠れて春近は気づいていなかった。
「あの、春近くん、もう夜も遅いですし先にシャワー浴びちゃって下さい」
唐突に春近にシャワーを勧める忍だ。
「オレは後で良いよ。先に忍さんどうぞ」
「いえいえ、春近くん、お先にどうぞ。はい、タオルです」
半ば無理やりシャワー室に押し込まれる。
「えっ、そ、そう言うなら……」
「はい、ごゆっくりどうぞ。春近くんっ」
ジャァァァァァァ――
「船の中なのに部屋にお風呂が付いてるなんて凄いな」
何か疑問に感じながらも、春近は服を脱ぎ裸になってシャワーを浴び始める。
ガチャ!
シャワーを浴び始めると同時に浴室のドアが開き、何も付けていない生まれたままの姿の忍が入ってきた。
「春近くん、私も一緒に入っちゃいますね♡」
「わっ、わああああっ! ちょ、ちょっと、ダメですよ」
「いいじゃないですか♡ うふっ♡」
「ええええええ!」
春近は咄嗟にアソコを隠そうとするが、忍は神速の動きで接近し春近の両手を掴んで壁際に押し込んでしまう。
「うふふっ、ほらっ、一緒に洗いっこしましょ」
「うわああっ、丸見えだぁぁ!」
「春近くんも丸見えだからおあいこですよ」
「余計にダメだからぁぁああ!」
そうだった、完全に油断していた!
忍さん、普段は大人しくて穏やかな性格なのに、エッチなことになると積極的で超肉食系だった。
ううっ、両腕を固められてオレのも丸見えだし、忍さんの裸も丸見えだよ。
今更気付く春近も大概だが、ずっと二人っきりになるのを狙っていた忍もエッチな娘だろう。
「春近くん、洗いますね」
忍はボディソープを泡立てると、それを自分の体に塗って泡泡になって春近を洗い始める。
「し、忍さん……。ボディーソープの使い方が間違っているような?」
「うふふっ、これで合ってますよ♡」
「いやいやいや、それはヤバ過ぎるからぁああっ!」
「春近くんは動かなくて良いですよ。私が全部洗ってあげますから。えいっ! えいっ!」
春近は、忍の大きくてムチムチの体に包まれて、体の隅々まで洗われてしまう。
泡泡のカラダでムニュムニュと色々な場所を洗われて行く。
両腕を完全にロックされ、隠すことも防御することもできないまま、無抵抗でされるがままだ。
「ここも洗いますね。えいっ! えいっ!」
「わああああっ! そこはいいですから!」
「うふっ、春近くんってば可愛い。もっと触りたくなっちゃう♡」
「ひぃいいっ! ダメだからぁ!」
忍の手が危険な場所に伸びてきて、腕を間に入れて様々な角度からスリスリと攻撃してくる。
洗っているというよりマッサージしているみたいに。
※そこがどこかは自主規制です。
「春近くんのココ、凄い……」
腕全体を使ってグリグリと攻め立ててくる。
ああ……もうダメだ……
忍さんは、パワーもスピードも体術も寝技も関節技も最強の女戦士だった……
もう、オレは為す術もなく忍さんのエチエチ攻撃で搾り取られてしまうのか……
春近が考えているように、忍とは体格もパワーも桁違いなのだ。こればかりは覆しようもない事実だ。
諦めかけた春近が忍の手を受け入れようとしたその時、アリスたちが戻ってきて部屋が騒がしくなる。
ガチャ!
「春近、売店は閉まっていたのですが、賀茂さんがお菓子をくれたです」
「出向前に買っておいたから、皆で食べてね……」
賀茂がアリスたちと一緒に部屋に入ると、浴室からとびきり淫らな空気と嬌声が漂ってくる。
「春近くん、凄い……こんなになって♡」
「ううわあっ! もう限界!」
「まだダメですよ、お仕置きしちゃいます! えいっ! えいっ!」
「ぐっぐはっ、もうダメだぁぁぁ!」
「はぁ、はぁ♡ 春近くぅん♡」
賀茂とアリスたちが、気まずい沈黙に支配される。
「あの……ちゃんと節度は守ってね」
賀茂は、眉をピクピクさせながら部屋を出て行く。
もう、何なの!
やっぱり私が思っていた通り、お風呂で洗いっこしてるじゃない!
もう最悪!
なんて羨ま……んんっ、ふしだらな!
私が学生の時分は、皆もっと節度ある交際をしていたはずよ。
まったく、最近の子は!
賀茂のストレスと欲求不満が更に溜まった。
浴室からは、まだエッチな会話が聞こえている。
「はぁ、うっ……もう、許して……忍さん……」
「もっと、もっと、まだまだお仕置きしちゃいます! 許してあげません。うふふっ♡」
「おい、そろそろ止めるです!」
アリスが浴室を開けて注意した。
二人は浴室から上がり、忍が大きな体を小さくして反省している。
「ごめんなさい……久しぶりに春近くんと一緒で、我慢できなくなっちゃって……」
「まあ、しかたがないです……」
アリスも先刻同じようにエッチな気分になってしまっていたので、何も注意できなかった。
「……羨ましい、私も一緒にお風呂に入りたい……」
一二三が春近の隣にくっつく。
「あの、一二三さん」
「……私も、洗いっこしたい……」
「でも」
「……天音と黒百合と遥は一緒にお風呂に入ったと聞いた。私にも平等にするべき……」
「ぎくっ!」
一二三の爆弾発言に、アリスの眉がピクピクっとなった。
「もうそんなに一緒にお風呂してるのですか、ハルチカ?」
「あ、アリス……これには訳があって」
「やっぱり一二三の言う通り、平等にすべきですね」
結局、アリスと一二三も春近とお風呂に入る事になり、裸の二人は春近に背中を洗ってもらうのを待っている。
狭い浴室なのだが、小柄な二人なので何とか収まっていた。
「うううっ……自分から言い出しておきながら、これは恥ずかしすぎるです。体に自信が無いから、あまり見るなです」
「う、うん。でも、アリスは可愛いから自信持って」
気を遣っているように見える春近だが、実は小っちゃいアリスと一二三の体をガン見していた。
うわぁ……アリスが小っちゃくて背徳感が半端ない……
それに、一二三さんは、胸が小さそうに見えて意外と脱ぐと大きいな。
「……春近……胸を凝視されるのは少し恥ずかしい……」
「うわっ、ごめん!」
速攻で一二三にバレてしまった。
「じゃあ、洗いますね」
タオルにボディソープを付けて、二人の背中を満遍なく洗って行く。
たまに手が滑って色々なところに当たってしまうのはご愛敬だ。
「は……ハルチカ、手つきがイヤラシイです」
「気のせいだよ、アリス」
「……うっ、はうっ、くぅっ……春近のエッチ……」
「きっと気のせいだよ。一二三さん」
さっきは忍の圧倒的パワーに翻弄されていたのに、相手が小柄な二人になるとさり気なく攻めまくっていた。
「いいな、いいな、私も洗って欲しいな」
浴室の扉を開けて忍が中を覗き込んでいるが、狭いので四人は入れそうにない。
春近に体中念入りに洗われて、アリスと一二三はベッドに突っ伏してぐったりしてしまった。
頼んでもいないのに前まで洗ってしまう大サービスだ。
「じゃあ、そろそろ遅いし寝ますです」
「はい」
アリスがオネムなので寝る準備をする。
「…………あれ? 忍たちは部屋に戻らないのです?」
さり気なく春近と二人っきりになろうとするアリスが言う。
「だって、アリスちゃんは春近くんと一緒に寝るのに、私たちだけ別の部屋なのはズルいような……?」
考えることは同じなのか、忍もアリスの考えを読んでいたようだ。
「ベッドは別です……」
「同じベッドで寝ないの?」
「……寝るけど」
アリスは、あっさり白状した――――
「で、でも、忍さん。シングルベッドで四人は無理だよ」
目に見えない攻防を繰り広げる二人に、それとなく春近が口を開いた。
「大丈夫です! 私が春近くんの敷布団になりますから、春近くんは私の上で寝て下さい」
やはり忍が一番のエッチ女子だろう。とんでもない発言をした。
「は、はは……忍さん……」
忍さん……相変わらず満面の笑顔で凄いことをしてくるぜ……
これは官能的な肉感と密着感だぜ……
春近は、忍の大きくてムチムチの体に包まれて、更に両側にアリスと一二三が添い寝する形で寝ることになった。
これは刺激的過ぎて睡眠不足確実だなと春近は思った――――
そして現在――――
「東京から遠く離れたもんだ……」
特等室のベッドで激しい夜を乗り越え、睡眠不足と体力気力の限界でフラフラしている春近が水平線を眺めている。
真っ青な空と海とが溶け合うような美しい景色を眺め、これから向かう南の楽園に思いを馳せていた。




