第百二十三話 遥の混浴物語
家族風呂――――
それは家族やカップルが一緒に完全貸し切りのプライベート空間で、ゆっくりと温泉を楽しむ為のものだ。
部屋の奥に作られたそれは、少人数で使う小振りの陶器の風呂に温泉が引かれていた。今、その風呂に奇妙な三人組が、肩を並べて浸かっているのだ。
「何で私、男の人と一緒にお風呂に入ってるんだろ?」
三人の内の一人、遥が素朴な疑問を述べた。黒百合の策略により、なし崩し的に三人で混浴することになってしまったのだ。
「春近、狭い」
ぐいぐい――
黒百合が真ん中の春近を押して遥の方に寄せる。
「ちょっと春近君、当たってる、当たってるから」
「ごめん、狭くて……てか黒百合、押さないでよ」
黒百合は、ふざけて春近を遥かの方に押し、二人を密着させている。
湯船の中では春近と遥が裸で大変なことになっているのだ。
「はぁ、もう全部見られちゃったし……」
遥が顔を手で隠して恥ずかしがる。今も春近の肘の辺りが遥の胸に当たっているのだ。更に遥の羞恥心を刺激してしまう。
「もうっ、何でこんなことになっちゃったの……」
まさかの破廉恥展開に遥の頭がついて行けない。
春近君も春近君だよ、黒百合の言うこと聞いて混浴するなんて。
てか、何で私まで一緒に入ってるの!
もぉ私のバカバカ!
「ふいぃぃぃ~極楽極楽」
原因を作った黒百合の方は、呑気にオッサンみたいなリアクションをしている。
いつもの自慢のツインテールを解き、頭にタオルを巻いて髪を上げていた。
「春近と一緒に温泉に入れて良かった。遥も春近のこと好きだから、口では文句を言いながらも内心は喜んでいる」
「ちょっと! 何で私の名前が出てくるの! そんなんじゃないから!」
黒百合の発言を、遥が必死に否定する。
「春近君、誤解しないでよね! 違うから!」
「分かってますよ。飯綱さんはオレのことなんて何とも思ってないですよね」
「もう! 全然分かってない!」
「えええっ……」
何故か遥に怒られる春近だ。
遥さん何で怒ってるの――
前に飯綱さんがオレを好きだと勘違いしちゃったから、今度は勘違いしないように気を付けているのに……
さわさわ――さわさわ――
黒百合が悪戯っぽい笑みを浮かべて、湯舟の中で春近の体を触り始める。
「うわっ!」
声を上げた春近に、遥が不審な顔をする。
「どうしたの春近君、変な声上げて?」
「何でもない、何でもないよ」
イタズラする黒百合の手を防御しながら、春近は彼女の耳元で囁いた。
「ちょっと、黒百合、くすぐらないでよ」
「にへら……ここがええのか? ここがええのんか?」
「やめろって」
「ほれほれぇ」
春近のリアクションが面白くて、黒百合は更にアチコチ触り始める。
両者とも涼しい顔をしているが、お湯の中でで激しい攻防が繰り広げられていた。
黒百合は魚鱗の陣にて、春近の股間目掛けて一点突破を図ってきた。春近は鶴翼の陣で応戦し、股間部は後退し両腕を前進させ、包囲殲滅の動きを見せている。
黒百合軍が側面から挟撃され敗北必至かと思われたその時、黒百合軍の一部が後退を始め、そのまま回転して次々と新手が攻撃を加えて来る。
勝利を確信し油断していた春近軍は、次々に股間や尻に黒百合軍の攻撃を受け陣形が崩れて行く。
「まさか! これは車懸りの陣か! まさかの上杉謙信か!」
春近は、もうアチコチいじられまくられ、成すすべもなく蹂躙されてゆく。
「ふっ、笑止! その程度の実力で、この伝説のブラックリリーと戦おうなどとは愚の骨頂!」
「ぐあああっ、不覚っ!」
「ぐへぐへぐへ」
こうして、お風呂の歴史がまた数ページ刻まれてしまった――――
敗北した春近に黒百合が無慈悲な掃討作戦を仕掛けていると、後ろから冷たい視線を感じてしまう。そっと二人が振り向くと、そこには湯舟から押し出されそうになってジト目で睨む遥の姿があった。
「あ、あの……飯綱さん、怒ってる?」
「春近君! お風呂でエッチな遊びをしないで!」
「ごめんなさい……」
遥に怒られてしまう。
「春近、大丈夫。遥は自分も触りたいから怒っているだけ」
「触りません!」
黒百合が余計なことを言うので、更に遥を怒らせてしまったようだ。
「あ、オレそろそろ上がるから」
居たたれなくなった春近が風呂から上がろうと起ちあがった。
その瞬間、黒百合が悪戯な笑みを浮かべ、素早い動きで春近の腰に巻いたタオルを剥ぎ取る。
サッ! ぽろんっ!
「へっ………………」
タオルが落ち、遥は春近のアソコを至近距離で見てしまう。
「きゃああああっ! エッチ! 変態!」
バチンッ! チーン!
「いたぁっ!」
遥の平手打ちが、春近の大事なところにクリーンヒットした。
「うごっ、い、飯綱さん、酷いよ……」
「あ、ごめっ、違うの。わざとじゃないから……てか、早く隠してよ! 見えてるから!」
「あっ、うわっ!」
ぽろんぽろんっ!
「だから見えてるって! もぉぉっ!」
「ごめんっ!」
股間を押さえた春近が、前屈みになって浴室を出て行く。
「もう、最悪……モロに見ちゃった。私の裸は見られちゃうし、春近君のアソコも見ちゃうし、もうどうなってんの!」
今日一日で全部見られ見てしまった。
「黒百合!」
「遥も大胆、あんな激しく触らなくても」
「さ、触ってないから! あれは……」
遥が言いよどむ。実際、モロに触っているのだから。
「ああぁ、まだ感触が残ってる。春近君、痛そうだったけど大丈夫かな……」
「でも、遥も楽しそうだった」
「まったく黒百合は……」
しばらく春近のアソコの話題で盛り上がった。
――――――――
昼食の準備ができたようなので、春近は二人と大広間に向かう。遥は先程の股間にビンタ事件の影響か、春近と目を合わせようとしない。
「で、でも、全員無事で良かったよ。こうして温泉でふざけ合えるのも、全員無事に戻れたからだよな」
春近は、ぎこちない雰囲気を変える為に二人に話を振った。
「そうだね……もし、誰かが犠牲になっていたら、こんなバカなことして笑っていられなかったよね」
遥が答えてくれた。全員無事に戻れたのは彼女も思うところあるのだろう。
「飯綱さん……そ、そうだよね。無事で良かったよ」
「そういえば、蘆屋満彦はどうなったんだろ? あれから姿を見せないけど」
遥が満彦の話題を出した。
玉藻前の件は解決したが、蘆屋満彦の行方は分からないままだ。あのサービスエリアで会ってから、その後は何も音沙汰がない。
陰陽庁も捜索しているが、いまだに捕まってはいないようだ。
「蘆屋満彦……あいつは危険。自分の呪力や陰陽術を高めることにしか興味がないように見えた」
心配そうに話す遥かに黒百合が答える。
「大丈夫、私たちは強い。皆で一緒にいれば誰にも負けない」
「だよね。これだけ強いメンバーが揃っていれば、相手も簡単には手を出してこないよね」
「もう殺生石も破壊しちゃったし、満彦が俺達を追う必要もなくなったしな」
春近がそう言うと、二人も静かに頷いた。
ズドドドドドドッ!
三人が大広間に入ると、渚と天音が凄い勢いで向かってくる。
「春近、あたしから逃げるだなんて良い度胸してるわね」
「ハル君、私との初体験を拒んでおいて、渚ちゃんや黒百合ちゃんと遊んでたんだ?」
「あっ!」
しまった!
この二人から逃げていたことを、すっかり忘れていた。
「あの、この二人とは偶然会って……」
言い訳を考えていると、更にルリと咲まで迫ってくる。
「ハル! どこに行ってたの? 他の子と遊んでたんだ?」
「ハル、アタシに後でキッチリ埋め合わせするって言ったよな」
ついでにルリが問題発言もする。
「キッチリ中で出すって言ったよね」
「えっと、温泉に入っていたんだけど……」
とりあえずルリの問題発言は聞かなかったことにする春近だ。
「私達と一緒に温泉で遊んでいた。遥が春近のアソコを激しく触っていた」
黒百合が色々とバラしてしまう。
「ちょ、ちょっと! 違うから!」
遥が真っ赤な顔で否定するが、明らかに動揺して挙動不審になってしまう。
「へぇ……ハル君のアソコを……遥ちゃん、意外と積極的なんだね」
「この子、大人しそうな顔して、意外とやるわね……」
「遥ちゃん! ハルのち〇ち〇イジっちゃダメ!」
「うわぁ、やっぱり遥も堕ちてたのか。いくらエッチでも、激しくイジるなんてひくわ……」
遥は集中砲火を浴びてしまう。
「もう! 何で私がこんなことに!」
一番常識人なはずの遥が、何故か淫乱女子のようにされてしまう。
遥の苦労は、まだまだ続くのだった――――




