第百三話 遥の好み
登校してすぐに春近は面倒ごとに巻き込まれる。
朝一から遥がやって来て、春近は遥の彼氏探しを手伝うことになってしまうのだ。
しかし春近は、始めてすぐに止めておけばよかったと後悔することになるのだった。
二人は先ずA組の教室で探すことに――――
「これが藤原だ。顔は結構イケメンだろ」
春近は遥を藤原の前に連れて行く。
「う~ん、何かチャラそうだからパスで」
遥は少し考えて断わった。
「悪いな藤原。チャラいからパスだ」
「ええっ、何のことだよ?」
よく分からないままフラれた藤原が戸惑う。
次に平の所に連れて行く。
平は家が金持ちらしくて人気もある男だ。
「コイツが平だ。金持ちだぞ」
春近の説明も適当だ。
「何だねキミは? このゴージャスでエグゼクティブな俺様と話をしたいのかね?」
平は気取って髪をかき上げポーズを決める。
「う~ん、何かエラそうだからパスで」
平がポーズを決めた時点で、少し嫌そうな顔をした遥が断った。
「悪いな平。驕れる者も久しからずだ」
「はあ? 何だよキミたちは」
よく分からないままフラれた平が憮然とした。
次に菅原の所に連れて行く。
成績も優秀で古文と漢文が得意な男である。。
「コイツが菅原だ、頭が良くて勉強が得意だ」
相変わらず春近が適当な説明をする。
「ボクに何か用か? 貴重な朝の勉強の時間なのだが。そもそもキミは女にばかり現を抜かしていて大丈夫なのか? この現代、世界は凄い速度で動いているのに、日本ときたら規制緩和も構造改革も儘ならないまま停滞を続けている。ボクは将来官僚になって、この国を動かす仕事がしたいのだよ」
「う~ん、何か話が難しいからパスで」
遥は、面倒くさそうな顔をして断った。
「悪いな菅原。官僚になったら、大宰府に左遷されないように気を付けろよ」
「なんだと、まったくキミは」
教室内を一周してから二人は一旦話し合う。
「ちょっと、飯綱さん。全部パスじゃん」
「だって、キミが個性的すぎる男子ばかりに会わせるからだろ」
「でも、個性的な方が面白いし」
「私は彼氏に面白キャラは求めてないの」
「えええ……」
飯綱さん、昨日は好みはうるさくないって言ってたけど、結構うるさいような気がしてきたぞ。
そもそも、何でオレこんな事してるんだろ……
やっと春近が疑問を感じ始めた。
気付くのが遅い。
「他に知り合いの男子っていたかな……」
春近が教室を見回していると、和沙と目が合った。急に慌てた感じになった彼女は急いで目を逸らしてしまう。
何か鞍馬さんがチラチラこっちを見ている気がするけど――――
春近が和沙を見つめていると再び目が合う。慌てた和沙が挙動不審になった。
やっぱり見てるよな。
そうだ、鞍馬さんにも手伝ってもらおう。
春近が和沙の席に近付くと、更に挙動不審になってしまう。
「あの、鞍馬さん」
「ななな、何だ、土御門!」
ずっと春近を見つめていた和沙は、突然話しかけられて心ここにあらずになってしまう。
何で遥と一緒に居るんだ? まさか、遥まで土御門と……。ううっ悔しい……何で私には素っ気無い態度なのに、他の女とは仲良くするんだ。わざとなのか? わざと私に見せつけているのか? こんなの酷すぎるじゃないか。もう、泣いてしまいそうだ――
「……という訳で――って鞍馬さん、聞いてます?」
「全然聞いてない!!」
「ええっ……何で怒ってるの……」
仕方なく春近は、もう一度説明し直す。
「そういう訳で、飯綱さんの彼氏選びを手伝って下さいよ」
「こほんっ、なんだ、そんなことか。私はてっきり……いや、何でもない」
てっきり春近と遥がラブラブなのと誤解していた和沙が口を滑らせる。これには遥も黙っていない。
「そんなことって何よ! 大事なことだよ! いい、和沙! 青春は一度きりなんだよ! 周りが彼氏作ってラブラブでイチャイチャやってる時に、『けしからん!』とか『不謹慎だ!』とかやってて人生棒に振る気?」
遥のアオハル的な熱意に圧倒され、和沙もタジタジになってしまう。
「でも、全員が全員そんな青春送ってるワケじゃ無いですし。部活とか趣味とか他にも――」
春近がフォローしようとするが逆効果のようで。
「キミは黙ってて! 女子にとっては重要なの!」
「はい……すみません……」
遥に怒られただけだった。
うーん、面倒くさいことになったぞ――――
ぼやきたくなる春近だった。
三人で放課後まで各クラスを回ったが、結局遥はあれやこれやと理由を付けて全部パスしてしまった。
やっぱり一番好みにうるさいような気がする。
飯綱さんって、見た目は普通なのに、結構面倒くさい人な気がしてきたぞ――
一日中振り回され、いい加減春近も文句の一つも言いたくなった頃。
「うーん、あんま良い男居ないね」
遥が埒が明かないようなことを言い出した。
今日一日付き合ってこの結論なのかと、春近はこれ以上面倒なことになる前に逃げなければ思う。
「ところで、和沙はどんな男が良いと思う?」
唐突に遥は和沙に向かって質問した。
「うーん、そうだな……やはり付き合うなのら優しい男だろ。女性に暴力を振るったりするのは論外だな。昨今ではパワハラやモラハラが問題視されているからな。後は、女性の話を面倒くさがらずに聞いてくれたり付き合ってくれる男だな。話を聞かない男はダメだ。そうだ、一番重要なのは、いざという時に守ってくれる男だ! たとえ自分の身が危険に晒されたとしても、それを顧みず助けに来てくれるような男だ!」
「つまり、和沙の理想は春近君ということなのか」
「はぁ、はあああぁぁ! ななな、な、にゃにを言ってるんだ! そ、そんなワケないだろにゃ!」
遥にツッコまれた和沙が、真っ赤な顔で反論する。
「ちょ、ちょっと、鞍馬さん落ち着いて。噛み噛みですよ」
春近が落ち着かせようとするが彼女は止まらない。
「いや、だって、春近君のことを熱く語っているのかと思って」
「違う! 断じて違う!」
和沙は顔を真っ赤にして反論するが、誰が見ても説得力は無い。
前に言った理想の男性とは、少し違っていることに本人も気付いていないようだ。
「もう彼氏探すのも面倒だから、春近君と付き合っちゃおうかな?」
ふざけた遥が春近と腕を組む。
「や、やめろ……土御門に触るな……何なんだ……何でこうなるんだ……やっぱりわざとなのか? 私の前でわざとイチャイチャして遊んでいるのか? こんなのあんまりだぁぁぁ」
「あの、鞍馬さん……大丈夫?」
ブツブツ呟いている和沙に、春近が声をかける。
「う、うう、ううううううわああああああっ! ちぃくしょおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
和沙は、盛大に誤解して走り去ってしまった。
春近は気付いていなかった。この和沙の誤解が、後に大事件になって春近の身に降りかかってくることを――――
「あーあ、行っちゃった」
「飯綱さん、あまり鞍馬さんをからかちゃダメですよ」
「分かってるって。後でフォローしとくよ。じゃあ、また明日もよろしく」
「は? また明日って……」
おいおい、明日も付き合わされるのか?
こういうのはハッキリと断った方が良いよな。いつまでもズルズルやるのは困るし。
でも、どうやって? オレって女性に強気に出るの苦手なんだよな。
そうだ、俺様系のアニメキャラになりきって台詞を言えばできそうな気がする。それでハッキリと断ろう。
何かを間違えた春近が、アニメの俺様系キャラに成り切った。
「おい、遥! あまり我儘ばっか言ってんなよ!」
春近は振り向きざまに俺様系な台詞を言うが、足がもつれて転びそうになる。
何とか堪えて転倒を防ぐが、勢いがついたまま壁に手を突いて止まる。
壁ドォォォォォォォン!
「………………」
偶然に壁ドンの体勢になってしまう。
「えっと、あれっ、春近君って、結構強引なんだ……」
ドキドキドキドキドキドキドキドキ――
遥は強引な男に弱かった。
「あ、あの、ごめん……」
「も、もうっ、こんなので女子が落とせるなんて思ってないよね。ほ、ほんと、キミって単純なんだから。じゃ、さよならっ!」
遥は顔を伏せたまま、走って行ってしまった。
一人残された春近は途方に暮れる。
遥の彼氏作りの手伝いを回避できたかに見えたが、別の問題を生じさせたことに気付いているのかいないのか。
更に、思い詰めた和沙が、どんでもない大暴走をしてしまうのを知る由も無かった。




