プラシーボ効果
診療所に帰ってきて、ミミが用意してくれた昼食を食べながら、俺は館でザリアンさんが俺の書いた教本の買い取りを領主様に進言した事、そしてザリアンさんの弟子であるゴルさんが時々ではあるが診療所を訪れる事を2人に話した。
「すごいね、その人。あんたがスキルを使うところを弟子に見せて勉強とスキル再現の方法を見つけようだなんて」
「まあ、俺も新しい事が分かれば館に情報を届けるように言われているけどな」
とりあえず、ザリアンさんが俺が異世界からの転移者である事に気付いた事は伏せている。
折角ザリアンさんが気遣ってくれたし、俺が思った以上に異世界人というのに抵抗を示す人は多そうだし、この2人にも余計な心配をかけたくないからな。
「あ、そうだミミ、あの飴すごかったぞ、まさかあんなに効くとはな、やっぱり魔法の力ってすごいんだな」
「あの、ごめんなさい。実はあの飴、普通にお店で買ったもので、そんな魔法はないんです」
「え、どういうことだ?でも実際に酔わなかったぞ」
ミミが俺に渡した飴は普通の飴で、しかも酔い止めの魔法は存在しない?そんな話に戸惑っていると、ミーザが話し始める。
「あのさ、実はあんたが1人で館に行くってなったときに、あたしもミミも馬車酔いが気になってさどうするか2人で話したんだよ」
「そうだったのか、でもどうして飴だったんだ?」
「初めてユーイチ様が飴を下さった時にそれをなめたらとても嬉しい気持ちになったので、もしかしたらと思ったんです」
「まさかそれだけの理由で……」
俺がミミから聞いた理由に戸惑っていると、ミーザが補足をするかのように話を進める。
「それにあんたは何度乗っても馬車酔いするから、まずはどうにかして苦手意識を取り除かないといけないって話をしてて、ミミの魔法がかかった飴として渡せばあんたはきっとそれを強く信じるんじゃないかと考えたんだよ」
「それでも念の為、飴の1つは自然とスッキリしやすい、喉に効果がある薬品としても扱われるのにしましたが」
そうか、無意識だが、2人は俺にプラシーボ効果を実践していたのか。
プラシーボは主に服薬の際に使われる方法で実際は片栗粉のような薬としての効果のない物質を薬と称して飲んでもらい、実際に症状が良くなるという効果があるというものだ。
日本にも車酔いの為の飴はあるし、ミミの魔法ならば俺は何度も治療実績を見て来たし疑う余地はなかったんだ。
2人に騙されたような気もするが、2人のおかげで馬車酔いせずに済んだ事実に変わりはないからな。




