気が大きくなって
午後の診療も終えて一息ついていると、扉をノックする音が聞こえたから、返事をしつつ、扉を開けると見覚えのある人物がそこにはいた。
「はーい」
「よう、兄ちゃん、診療所は今終わりか?」
「ダンカンさん、どうしたんですか?」
「さっき、兄ちゃんに頼まれた傭兵の子の荷物を家まで運ぶのが終わったっていう知らせを聞いてよ、それを伝えに来たんだ」
扉の向こうにいたのはダンカンさんで、ミーザの家に荷物を運び終えた事をわざわざ伝えに来てくれたんだな、律儀だなダンカンさんは。
「あ、それからこのメモだが手伝った奴の名前が書いてある。こいつらが来たら負担額を1割減らしてやってくれ」
「あ、はい」
そしてちゃっかりしてるなダンカンさんは。まあ、俺達の仲間の為にしてくれたことだし、これくらいはいいかな。
「じゃあな頼むぞ」
そう言ってダンカンさんは帰っていき、ミミが少し気になったのか1割減負担について尋ねる。
「あのユーイチ様、1割減負担ってどういうことですか?」
「ああ、ミーザの家に荷物を運んでくれた人にお礼としてな」
「そうなんですか、でもユーイチ様申請書類ではどう書くおつもりなんですか?」
「持っていくときにアレフさんに相談してみるさ、ダメなら俺からのお礼って事で不足分は俺が負担するよ」
1割減負担については改めてアレフさんに相談するがそれでもダメなら俺が負担する事を告げると、少し心配そうにミミが俺に対して言葉を放つ。
「お礼はいいんですけど、これからはミーザさんにも月払いで報酬を支払うんですから、今までよりお金の扱いは慎重になってくださいね」
「そうだな、でもあの人達には診療所を開設する時にも手伝ってくれたお礼ができていなかったし、せめてこれくらいはと思ったんだけどな」
「その考えは立派だとは思いますが、抑えられる出費は抑えないとミーザさんに報酬が支払われなくなりますし、何よりユーイチ様ご自身の生活が大変になりますよ」
「悪いな、心配かけて。とりあえずこういう形でのお礼は今回限りにするよ」
ミミに言われて思い出し事があるな。
理学療法士になった時の初任給で実家に少し立派な夫婦茶碗を送ったら逆に母さんにこう言われたな。
「あんたはまだ給料が少ないんだから、まずは自分の生活をしっかり整えなさい。そんなん貰ってもあんたの生活が乱れたらそっちの方が嫌だよ」
異世界に来て少し金を貰ったからといって、少し俺は気が大きくなってたかもな。
診療収入以外の収入源も少し考えなくちゃいけないのかな。




