朝日香る山桜。
次の日の朝。
リビングのテーブル上にはツマミの菓子や開け瓶、缶空、ツマミをよそっていた皿などで満たされていた。
「.....飲むだけ飲んで帰ったか」
リビングの飲み会の残置物がそのままだったのは大体想像はついていた。
「....ふぅ」
大体いつもそのままであったため、それよりも霧雨ママはともかくとして、カレンがここにいないという事は一応ゲストルームで寝て、体調を崩す心配がなくなったと一安心した。
そして、早速、ゴミの分別と掃除と皿の片付けをしていると、上から、脱ぎっぱなしでソファーに置いていたドジャースのパーカーを着たカレンが降りてきた。
「おはよぉ....うぅ、いつもごめんよ。」
ベロベロになるまで飲み明かした彼女は意識が朦朧とする中でも、済んだ皿を積み上げていたり片付けようとしていた形跡があり、半端になったのを毎度申し訳なさそうにしていた。
「あぁ...」
片付けを終わらせて昨日のプレミアの試合を見たいため、視線を向けずにテキパキと進める。
「私も手伝う...うぅ...」
「カレンはソファーに居ろ....ん?」
二日酔いで頭痛が痛い中、なんとか手伝おうと彼の元へ向かうが肩を掴まれ回れ右されそうになったところ、彼は見覚えのあるパーカーに目が止まった。
「ん...ぁ、ごめ....」
ソファーでダウンした時を想定して着ていたパーカーを勝手に着ていたのを注意されると思い、珍しく塩らしく身を捩る。
「いや、まぁ...それ謙信さんから貰ったやつだし」
昨夜まで自分が着ていたパーカーをカレンが着ているのは、こそばゆい感じではあったが、カレンパパからの頂き物であったため、間接的に返したみたいなものかとどうしても吸い寄せられてしまうそこから視線を逸らす。
「え、そうなの?でも....清澄の匂いするけど....ぁ」
言葉のあやで新品のものだと勘違いした彼女は、パーカーの袖を匂うと気まずそうにこちらを見る彼と目が合う。
「「....」」
その匂いがトリガーになってか、両者ともに霧雨ママが来る前のあの出来事がフラッシュバックし、堪らず互いに目を逸らす。
「そ、そうか....あ、しじみ汁作るから...飲むか?」
流石に飲み過ぎたようで、彼女の紫衣の目は半開き状態であると感じ、彼は丁度ふるさと納税で来ていたしじみへと話を流した。
「え、飲む飲むぅー」
冷蔵庫内で一晩砂抜きをしておいたシジミに出汁、醤油、味噌を入れて煮るだけであったため、5分経たずに召し上げる事が出来た。
「...ふー...スゥ....うぅ...染みるぅ...」
「....そかそか、てか大学はもうないのか?」
頭痛にもお腹にも優しいシジミ汁に頬を溶けている彼女を微笑ましく見ていた彼は気になってた事を聞く。
「うん、まぁ私は出席必要ない授業しか取ってないから」
「へぇ、じゃレポートとかで済む感じか」
「そうそう....ふぅ...美味しい」
「....(10種競技で中高6連覇したり、ちょくちょく論文で表彰されたりと相変わらず要領が良いな...)」
時折スーツで家に来ることもあり、学業でも彼女の優秀さは指折りであると感心していた。
「そういえば清澄はどこの大学にするの?」
「大学には行かん。」
「あ、そうなんだ。まぁー清澄には必要ないもんね」
既にFIRE独身貴族生活を叶えてしまっている彼から、彼女は半分思ってた通りだと納得していた。
「あぁ、それよか謙信さんの会社継がないのか?知らん内に俺が後継する流れになってるの困ってるんだが....」
その辺の話はぐるぐると彼女と彼でたらい回しにしており、未だ決着のついていない話であった。
「うーん、一応私もパパの勘に近いものは持ってるけど、私一人は嫌かなぁ」
「ん、カレンなら要領よく進めるだろ?」
初めから優秀でなんでも持っている彼女であれば、問題ないように思えたがその辺は基本原理に則った理由からなるものだった。
「んんーー...個人投資家っていう立場ならともかく、パパのワンマンといえども企業って生き物だから、一つの足じゃ少し躓い時のロスが大きいし、二本足でようやくテンポ良く前進できるのよね。」
「成程。やっぱ、カレンが後継者に適任だな。」
やはりその辺は謙信からの帝王学を生まれた時から学んでいるためか、彼女の考えは頷くばかりであり、そのまま彼女に任せようとした。
「うーん....パパは清澄の方が適任だと思ってるよ。」
自分の意志を抜きにして、カレンは最近...というか実家出禁になる一ヶ月前までの時点から客観的に謙信は彼を一番に見込んでいるとそう言う。
「....どうだろうな」
今の自分が健康に悠々自適に暮らせているのは謙信さんのお陰であるのは明らかであり、謙信さんから心の底からそう思われているというのに答えたい気持ちはあれども、自分自身がそれに足る器を持っているかは甚だ疑問であった。
「私は、清澄がやるなら良いよ。共同オーナーってことで」
「あー....まぁ、そうなりそうな流れか...」
折衷案としてもこれからの謙信の企業体を運営するにもそれが最適であるのは確かであった。
「そしたら、私は海道 カレンになるねー....」
「....あぁ...」
「「.....」」
そういう流れになるのを自然に受け入れていた互いを見つめると、またもや気まずい雰囲気がしばらく同じ屋根の下で流れていた。
そして、その後今年最後の登校日であるのを思い出した彼は出発の支度を始めた。
「...ん、行っちゃうの?」
「あぁ、今日が最終日だしな。」
もう彼女のものになってしまったドジャースのパーカーを萌え袖にしながら、カレンは彼を引き止めようとする。
「意外と真面目なのね。」
「まぁ...色々な」
「.....っ」
遅刻しないように同級生の女子に迎えに来てもらってるからとか、説明に面倒なことをはぐらかすと、カレンはそれを思い人がいる学校へ行くのをこそばゆそうにしていると思い、無意識に唇を噛み顔を伏せる。
「....?」
「じゃ、出先まで見送る」
「ん...わかった。」
玄関から出て外の門へ行く途中まで特に何をいうでもなく後をついてきたカレンを不思議に思っていたが、一瞬で別れの時が来る。
「....じゃ...鍵は...」
「あのっ!...さ」
外の門が開き出先へ出ると、少し早かったのか久留米やソフィアらは見当たらず一安心と浮気男みたいな心情になりながら、いつものように鍵は勝手に閉まるからと言って行こうとするが、カレンは彼の服を摘んで引き止める。
「鮎川....清澄でも良いかもね。」
何をいうかと思えば、会社を二人で継いだ場合の話の続きであり、カレンはどこか吹っ切れたように昔から変わらない明朗快活な笑顔でそう言う。
「む...婿養子かよ....」
毎度毎度、この手の話になるとなぜ婿養子になるのかと、個人的な都合としてはなんとしても義隆ジィちゃんの苗字を守りたい彼はそれは受け入れようがなく、空を仰ぐ。
「清澄...」
「ん?」
空を見上げた顔を、昔からずっと変わらない淑やかでよく通る声で自分を名を呼ぶ方へと向ける。
「...チュっ」
すると、彼女の唇が頬を伝って甘い音が朝に降る。
「.....ぁ」
「はははっ....あんまり....私から離れてかないでね。」
気づけば自分の身長を優に越してしまった、彼の呆けていても涼しげな顔を見上げながら、カレンは弾けるような笑顔の中で、切そうにそう呟く。
「....まぁ、なんだ...鮎は、清く澄んだ水でしか生きれないからな」
小さい頃、というか中学くらいまでは、この手の事をされた以降は微妙な顔をしていた彼であったが、昨日今日のこともあってか彼は少しこそばゆそうに顔を逸らしつつも、キリッとした彼の瞳は彼女を離さず、変わらず優しく温かい声でそう言って、その大きくて暖かい手で彼女の紫衣の頭を優しく撫でる。
「っ!....うんっ」
「っと....ふっ..」
確かに一歩、関係が前進したのを噛み締めた彼女は彼の首筋に腕をかけて抱きしめると、彼は少し踵をあげている彼女を愛おしく思う。
「行ってらっしゃい。清澄。」
「あぁ、行ってきます。」
名残惜しいのを抑えつつ彼から離れて、笑顔で彼を見送る彼女に、彼は彼女の頭を優しく撫でて朝日香る山桜へと向かった。
ーーーーーちょこっと一間。ーーーーー
ガッツリ清澄とカレンのそれを見ていた久留米、ソフィア、青鷺らは焦り散らかしていた。
「....え?!えぇ?!!」
「....ぁ、新妻?!新妻ですか?!」
「ちょっと、みんな。静かに....っ!」
「...!」
久留米が心臓バクバクで彼女らを抑えようとするが、暫定清澄の新妻ことカレンはこちらに気づいた様子だった。
「ぁっ...あわっ...」
コミュ力お化けの久留米は動揺している中、なんとかアクションを取ろうとするが上手く繰り出せない。
「....っ...ふふっ....」
一方、カレンは話しかけるかどうか微妙な距離だったため、可愛らしい清澄のお友達である久留米らの方へ手をフリフリさせて、彼のお家に帰っていった。
「....環奈、なーち...わかったわ。2年生になるまでに、決めましょう」
「っ!」
「....えぇ、決めたりましょう!」
久留米が言っていた事の意味を真に理解したソフィアは、真剣な声音でそういうと青鷺はついにきたかと気を引き締め、久留米らは熱を帯びていた。
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