深酒。
勢いそのままにカレンと霧雨ママは世間話から飲み会へと発展していき、構わず夕飯の準備をしていたら酒のつまみを作る係へと着地してしまった。
「ーーー・・そういや、謙信さんは何してるんだ?」
ブロッコリーの胡麻和えや、きんぴらごぼう、光り物や赤身の刺身、ばぁちゃんの家から届いた馬刺しと手際よくテーブルへと運び、一息ついた所で仕上がり始めているカレンに聞いた。
「わぁーっ...おいしそぅ...あー、パパはまーた夜通し女の子の店行って、ここ一ヶ月家入れないから知ーらない〜...うぅっん!清澄の料理サイコー!」
「ぷっ..ははははっ!謙信相変わらずだね....うん..流石私の息子、美味しいわね。」
「ほんと...懲りないパパ。」
話が進むとともにつまみを平らげ、海賊のように酒を煽る彼女らは酔っていたが、ことカレンに関しては目の奥は冷え切っており酷い言いようだった。
「....」
済んだ皿を回収し流し台へと移しながら、最近は珍しく連絡がないと思えばそんなことになっていたのかと呆気に取られていた。
(謙信さん....)
実際、そういったのは大人である以上多少は仕方ないにせよ、おそらく連絡なしに夜通しってのが不味かったのだろうと勝手に推測し心内で手を合わせ、流し台へと流した。
「清澄も一緒にのもーよっ!」
流石にもてなされすぎていると感じていた彼女は、先までの情事未遂を上書きするように勢いで誘う。
「あー、清澄は下戸よ。」
「え、そうなの?初耳...」
*未成年の飲酒はこの世界でもダメです。下戸....お酒が飲めない人の事。
中学生くらいの時、溜まりに溜まった優待券を消化するための懐石料理店にて、食前酒を飲んだ彼はその場で爆睡してしまったのが初発覚時であった。
「...あぁ、終わったら片しとけ、後寝るならゲストルームで寝ろな、そのソファーじゃ寝返り出来ねぇし」
その時の嫌な思い出に少し眉を顰めた彼は毎度の事の注意をしながら、タオルで手を拭いていた。
「っ...う、うん。」
「オーケー」
清澄の些細な優しさにじんわりと温かみを感じているカレンを傍に、霧雨ママは乾杯のポーズで相槌を打った。
「...じゃ、おやすみさん。」
母さんも泊まるのかよ...と思いつつも、彼はリビングから出ていってしまった。
「ぁ.....まだ9時前なのに...つれないなぁ...」
「....お!純米大吟醸!ははぁーん、謙信が祝いに寄越したやつか」
引き止めに遅れて残念がっていたカレンを他所に、霧雨ままは酒がキレそうだったため戸棚を漁り、目当てのものが見つかったようだった。
「うわー高いやつ。飲んで大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫ー、清澄が料理酒に使うよりも良い良い」
厳粛な箱に入っていた日本酒を取り出した霧雨ママは構わず開けて、戸棚から枡を取り出して注いだ。
「じゃっ、改めてかんぱーい!」
「っ...はい!」
場があったまった中で注がれた純米大吟醸のお酒は格別で、彼氏できないだの、クリスマスは一人だの清澄に泣きついていた内容と同じような話をしてると、霧雨ママは彼と同じ疑問を彼女へと投げかけた。
「大学で良い人いないの?」
「うーん、親の財力を自分のステータスにしてるやつばっかで、薄っぺらいやつばっかり...かな」
「あー、それはそうね。」
海外大学で数量統計の研究をしていた彼女もそういったのが垣間見えることが度々あったなぁと同調した。
「清澄はどうなの?ちょくちょくご飯食べにきてるらしいけど」
「え!?あ..まぁ、その....清澄の方はどうなのかなーって...」
幼い頃から彼女らの関係性を見ていた霧雨ママは当然そう思い聞くが、カレンはゴニョゴニョと言葉を濁してここに居ない彼へと流した。
「ふーん、清澄結構モテるわよ。この前だって女の子三人をお家に連れ込んでたし」
満更でもない空気を感じ微笑ましそうに相槌を打ちながら放ったそれは、それが事実ではあるものの酷い言いようであった。まじで勘弁してほしい...と清澄の文句がどこかから聞こえてきそうである。
「うぇ?!....うぅ...やっぱり、そう、よね....」
「ただ、そういう関係ではないっぽかったわよ。シュッとしたけど清澄は清澄だから、冷めてるとこあるのよ、あの子は」
確かに家に来たのは事実ではあるが、清澄の性格を知ってる霧雨ママは流石に弁明してくれた。
「そ、そうなのでしょうか...?」
「えぇ、あの年代ならもっと恋愛に酔っても良いのに、清澄はそれよりも人生の元を取ろうとしてる感じだからね」
動揺のせいで情緒が変になっている彼女がそう聞くと、霧雨ママは視線を遠くへと逸らしてこれまでの彼の事を思い返していた。
「元?」
「うーん....なんていうか、清澄が漫画、アニメ、ゲーム、スポーツ観戦に熱中するのは、好きってのとの同時にこれを楽しまずにして終わりたくないって感じがね。ほんと、今日世界が終わると思って毎日楽しんでるていうか...」
「あー...確かに、インドアだけど、野球観戦の時とか結構楽しんでたりするし....」
「まぁ、変な子だけどよろしくね。」
「いえ、こちらこそ....って、まだ付き合ってもないですから!」
「ふふっ.....そうだったわね....」
どうしても、彼が一人で生きてしまう将来が見えて、霧雨ママの顔は少し暗くなる。
「..キリさん?どうかしました?」
「ん....あー....清澄。たまに謙信とかと同じ目線で話してる時あるじゃない?」
考え事をしている時に話かけた清澄と同じように霧雨ママは耳たぶの裏を指でかきながら、そう聞く。
「あー結構、あるかも...」
「うん...」
普通に戦術の話とか、最近の選手の情報とかを楽しそうに話し込んでいるのは度々見かけていた。
同じ趣味や感性を持つ人同士であれば、年齢差は関係ないというのはその通りであるが、彼と謙信との空気感は清澄の父の時と同じであった。
「...聡い..というより、悪知恵に富んでるせいかわからないけど....たまに私や貞時以上に大人びた事を言うというか....」
「え、そうなの?」
「うーん...上手くは言えないんだけど....終わりを知ってる大人?っていう空気があるのよね....」
「???」
「あー...ごめんね。曖昧な言葉ばっかりで...」
「いやっ...その、分かります。たまに私にもパパにも距離ある時あるし...」
異性である自分にならまだしも、知らない人が同じ場にいると謙信へにも他人へ向ける風体になるのは違和感を感じていた。
「うん...ほんと、もっと周りに甘えていいのに....」
『ーーーー・・芝春っ!!何考えてんの?!清澄になんて事してんのよ!!』
清澄には言っていないが、高校一年の夏休み前最終日。
あの日家に帰ってきた清澄の様子から、遅れて帰ってきた芝春に事情を聞いた時、最悪の事態を想像してしまって何でも持っている芝春にキツく当たってしまった事がフラッシュバックする。
どんなに周りに人に恵まれていても、当人が迷惑をかけまいと抱え込んでしまって、そのまま押し潰されてしまっては、それは周りの人の責任であった。
その後も、どんなに自立しているとはいえ、少なからず芝春の行いで清澄が家を出ていってしまい。
今も、心にぽっかりと空いた穴は清澄の顔を見ないと埋まらない。
子供が巣立つのはいつかは来るものだと、わかっていた。
けど、15年という月日は私が子離れするにはあまりにも短過ぎる。
「....もっと子供で居ていいのに。」
「っ...そう、だよね....私たちの前でくらい....さ」
霧雨ママやカレンにとって彼はかけがえのない存在であり、そして彼にとっても彼女らは何があっても必ず守る大事な人達であった。
今頃、2階の寝室にて、王様が寝るような最高のベッドでスヤスヤと寝ている彼に彼女らの思いは未だ届かず、彼女らの飲む酒は増えるばかりであった。
ーーーあとがきーーーーー
海道の父。
旧姓:綾 貞時。
海道家の婿養子となり、今は海道 貞時。
総合商社に勤めており、出張が多い。
芝春は貞時似で、可愛い系のイケメン。
大学時代はよく謙信と一緒に居たため、霧雨ママと交際を始めた後でもそう言う噂は絶えなかった。
お知らせ
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