73:合否結果
そこに鷹緒が帰ってきた。すかさず広樹が声をかける。
「早いな、鷹緒」
「打ち合わせだけだから。おう、おかえり。どうだった? 二次審査は」
鷹緒は沙織を見て尋ねる。
「やるだけのことはやったつもり……」
沙織の言葉に、鷹緒が微笑む。
「上出来じゃん。広樹、飯でも食いに行こうぜ」
「今、それ話してたところだよ」
一同は近くの料理屋へと足を運んだ。沙織の労いの意味も含め、その日の夕食会は楽しいものとなった。
終わってから、鷹緒は沙織を連れて、車で家へと戻っていった。
「部屋が隣ってのも、いいもんだな。送る手間が省ける」
鷹緒が言う。
「うん……」
「疲れたろ? 今日はゆっくり寝ろよ」
「うん……」
さすがに疲れきった様子の沙織に、鷹緒は優しく微笑む。沙織は部屋まで送ってもらうと、そのまま倒れるように眠ってしまった。
鷹緒は沙織を送り届けると、自室へと入っていく。沙織の頑張りに、鷹緒も感心していた。自分にもいつかあったであろう情熱を、少しばかり沙織が思い出させてくれたような気がした。
数日後。事務所に、シンデレラコンテスト二次審査合格通知が届いた。次は三次審査のカメラテストがある。そこには鷹緒もカメラマンの一人として、参加することになっていた。
「なんか嘘みたい。本当に三次審査まで行けるなんて……」
事務所で、合格通知を見ながら沙織が言った。隣りには理恵がいて、同じように胸を撫で下ろしている。
「まだまだ、これからよ」
「はい……でも三次審査は鷹緒さんがいるんですよね? 私、鷹緒さんと同じ事務所だし、ひいきだって失格にならないのかな……」
少し心配そうに、沙織が疑問をぶつける。理恵は軽く首を振った。
「それなら大丈夫よ。カメラマンは三人。一人はフリーカメラマンだけど、もう一人は大手プロダクション所属のカメラマンよ。二次審査に合格している子の中には、その大手プロ所属の子も何人かいるはずだもの。先方もわかっていることだし、何の問題もないわ。被写体がしっかりしていればね」
「それが問題なんですよ……みんな可愛い子ばっかりで、びっくりしました」
二次審査の様子を思い出し、沙織が俯いて言う。
「天下のシンデレラコンテストだからね。でも大丈夫よ。沙織ちゃんだって負けてないんだから。美形なのは、家系なのかしら」
理恵がそう言った時、鷹緒と助手の俊二が戻ってきた。
帰るなり、鷹緒は沙織に気がつき、近付いていく。
「おう。受かったって? さすがじゃん。あとは最終審査まで一気だから、三次もその勢いで頑張れよ」
「うん!」
真っ先に鷹緒が声をかけてくれたので、沙織は嬉しそうに返事をする。
「こんにちは……」
その時、入口からそんな声が聞こえ、一同は振り向いた。
「あ、鷹緒さーん!」
鷹緒に向かってそう叫んだのは、若い女性であった。派手なTシャツにGパン姿というラフな格好だが、そのふくよかな胸は隠しきれない。
「おまえ……!」
鷹緒は、声にならないといった様子で驚いている。
「茜ちゃん!」
それに続いて、理恵と牧が同時に叫んだ。数年前まで広樹の事務所にいた、鷹緒の元助手である、三崎茜だ。
茜の父親は、カメラマンとしての鷹緒を育てたような、鷹緒の尊敬する写真家である。そんな人物の娘である茜は、数年前にアメリカでカメラマンを続ける父を追って、事務所を辞めたはずだった。
「あ、牧ちゃん、久しぶり。あれ? 理恵さんまで!」
茜は驚いたように、鷹緒と理恵を交互に見つめる。
「ふうん……楽しそうですね」




