22:彼の話題
「……あの、マンションスタジオって?」
「ああ、沙織ちゃんは知らないのね。うちの事務所、鷹緒さんの自宅マンションの隣に、スタジオ持ってるのよ。もともとは鷹緒さん所有の部屋でね……部屋の雰囲気とか出したい時は、そこで撮影するんだけど、昨日もインテリアの撮影で使っててね」
「へえ」
初めて聞く話に、沙織は興味を奪われた。日常では知り得ない世界がここにある。
「沙織ちゃんは、鷹緒さんの親戚だったよね。そういうことは話さないの?」
興味津々な様子の沙織に、俊二が尋ねた。
「親戚といっても、遠い親戚ですから。あんまり話したこともないし……」
「そうか。あの人、親戚の中でも無口なのかなあ」
「さあ……でも大丈夫なんですか? 鷹緒さん、倒れてるかもしれないって」
沙織の言葉に、俊二は苦笑する。
「わかんない。前に行った時は、熱出して玄関先でぶっ倒れてて……あの人、時々そういうことあるから少し心配だけど、忘れ物を取りに行くついでに見てくるから、きっと大丈夫だよ」
「……あの、私も行っちゃ駄目ですか?」
苦笑している俊二に、沙織が言った。
「え?」
「私、鷹緒さんと話したいことがあって……キャンディスの雑誌の件で」
「ああ、大々的に載ってたね。僕は構わないけど……」
「いいんじゃない? 鷹緒さんは沙織ちゃんを知らないわけじゃないし、親戚だもの」
考えている様子の俊二に、牧が割って話に入ってきた。
「うん……」
「連れてってあげなさいよ。鷹緒さんが心配なのよ」
少し渋る俊二に、牧が言う。
「ああ、そういうことか。鷹緒さん、モテるからなあ……」
俊二が牧の言わんとする意図を悟って言った。沙織もそれに気付いて、慌てて否定する。
「わ、私はべつに、鷹緒さんなんて……」
「うふふ。いいのよ、沙織ちゃん。鷹緒さんを好きな人は、ゴマンといるんだから」
「確かにね。あの人、あれだけ無口で愛想もないのに、どうしてあんなにモテるのかなあ……」
笑いながら、牧と俊二がそう言う。そんな二人に、沙織はまだ否定を続けた。
「だから、私は鷹緒さんなんて……」
「わかったわ。じゃあ、とにかく行ってらっしゃいよ。それから、ついでに鷹緒さんの車に乗っていってあげて」
慌てた様子の沙織を尻目に、牧が俊二に、鷹緒の車の鍵を差し出して言った。
俊二は車の鍵を受け取りながら、口を開く。
「鷹緒さん、車で帰ったんじゃないの?」
「そうなのよ。フラフラしてて危ないからって、社長が止めたんですって。電車で帰ったみたいだけど、次に出勤する時、車がないと動きづらいと思うから」
「へえ、鷹緒さんが電車。わかったよ」
「あと、事務所はもう閉めるから、直帰してくれる? ここには忘れ物しないでよ」
帰り支度をしながら、牧が言う。時刻はもうすぐ定時になろうとしている。
「わかりました。じゃあ行って来ます。お疲れさまでした……さあ沙織ちゃん、行こうか」
俊二は沙織を連れ、事務所を後にした。




