103:記者会見
『僕、ずっと考えてた。みんなに君との交際を公表しようって……君さえよければ、記者会見するよ。一緒じゃなくていい。僕がやる』
「ユウ……」
『正直言うと、公表したからどうってことじゃないと思うんだ。仕事にだって影響するかもしれない。だけど、このまま隠し通すよりは、僕は公表したい。隠れてコソコソ会うんじゃなくて、君とちゃんと向き合いたいんだ。公表すれば悪いこともあるかもしれないけど、少なくともマスコミはしばらくすれば引くと思うし、もう隠す必要もなくなる。君さえよければ、すぐにでも記者会見を開こうと思ってる』
ユウの言葉に、沙織は泣けてきた。
「うん、私も……もう、隠れて会うのは嫌……」
沙織はやっとそう口にした。
隠れて会うのは当たり前だと思い込んでいた。ユウはみんなのユウであると思っていた。しかし、ユウから公表したいと言ってきたのは、沙織を愛してくれている証拠だと思う。
『じゃあ、今夜にでも記者会見を開くと思う。しばらくは沙織のところにもマスコミが行くと思うけど、沙織はあんまりマスコミ慣れしてないんだし、無理はしないで。またしばらくは会えなくなるかもしれないけど……すぐに会えるよ』
「うん……」
『じゃあ、また……』
「ユウ。ありがとう……」
『ううん。じゃあね』
二人は静かに電話を切った。
それから沙織は、自分の不甲斐なさを恥じた。自分はユウのように強くもない。実際、自分が記者会見などを出来る度量ではないことは、よくわかっている。また迷惑をかけ通しだった事務所の人たちは、一言も沙織を責めることなく、沙織を全力で支えてくれている。そんな中で沙織も、もっと成長しなければならないと、焦りを感じていた。
その夜。夕方のニュースで、ユウの記者会見が映し出された。
「それでは、あの記事のことは本当なんですね?」
記者の一人がそう尋ねた。ユウは頷くと、静かに口を開く。
「はい。書いてあることはデタラメばかりですが、僕は写真の女性とおつき合いさせていただいています」
「その女性とは、以前噂になったモデルで活躍されている、小澤沙織さんというのは、間違いないですか?」
「……そうです」
「何年くらいのおつき合いになりますか?」
「一年ちょっとだと思いますけど……」
「結婚は考えていらっしゃるのですか?」
「まだそこまでは……でも、真剣におつき合いさせていただいています」
ユウはハッキリと記者の質問に答えていった。そんな中で、事務所の人間が割り込む。
「それでは、そろそろ時間のほうが押してまいりましたので、この辺で終わらせていただきたいと思います」
その言葉に、ユウは立ち上がる。
そんなユウに、記者がもう一つ質問をぶつける。
「ユウさん。ファンの方々に一言!」
「……僕もプライベートでは普通の男です。どうか応援してください。僕も仕事でみなさんにそれを返したいと思います」
ユウはそう言うと、記者会見場を出ていった。




