年末年始編 お餅に飾られるのはお約束
「出でよ、クリックリなキントン雲!!」
現れたのは大きなマロンカラーな雲の塊。ブラウンがイガグリと一緒に落ちて来た。いや危ないし。
「お待たせーー」
要望に応えるために、ブラウンは大量のわたあめのようなフワッフワの栗キントン雲を連れて来てくれたのだ。仕事が早い。
「凄い凄い。やるねブラウン」
「何アレカワイイ。それに美味しそう」
「忙しい中ありがとうね」
ライブ中なのでブラウンは早々に帰って行った。災難を事前に回避したとも言う。ライブの事はわからなかったが、チクワの縁者のソーダ之助が、生まれ変わってバトるらしい。うん、わからないからスルーだ。なろう世界では細かい事を気にしては生きていけないんだよ。
「ねぇ、あれどうやって捕まえるのよ?」
お空にプカプカ浮かぶキントン雲。キントン雲が栗きんとんの雨を降らせる気配もない。
「砲台は?」
「なんか魔王を倒すのにブルーが改良するって言ったまま不明だってさ」
空を見上げるチェリー嬢がまた艶めかしい‥‥と、見惚れていては生命が危ない。
「仕方ないわね。漂流者を呼んで取って来てもらいなさいな」
サファイア様はどこからか炭酸を作るソーダストリームの空のボンベを持ち出し、クリソーの素と何やら能力を込めた。
そしてブラック・プリンセスことマッドイカー・シュヴァルツが飼いイカの為に使っているドラム缶へと放り込む。
「簡易砲台が出来たわ」
「グリーンを飛ばすんだね、任せて」
ゴールド様は飲み込みが早い。どこにいようとヒョウリュウジャーを呼び出す力で、グリーンをドラム缶内へ呼び出した。
「私ね美味しい栗きんとんが沢山食べたいの。辻っちはカエルだからバヒョーンて飛べるっしょ」
「‥‥へっ? なんで? ここどこ?」
「イェ~イ点火〜〜〜ハッピーニューイヤー!!」
説明しよう────⋯⋯するまでもないか。酔っ払いのイエローに付き合って、酔っ払ってしまったゴールド様により、グリーンが呼び出された。そして現状を理解する間もなく爆発し飛んで行った。花火と違って大空で爆発しないだけマシと思うよ。
「サファイア様、ボンベの中に何を?」
「液体水素をほんの少々よ」
爆発を見越してモブル達がヒョウリュニウム製のシールドで女神様やイエロー達を守っていた。暴動鎮圧の時に見る盾に似ているが、強度はグリーンで実証済みの代物だ。
「筋斗雲ってピュアな心の持ち主しか乗れないんだよね」
「そうね。でもあれはキントン雲だからね」
「最初からキントン雲の所に呼べば良かったね」
ヒョウリュウジャー達と女神様達が呑気な会話をしている間に、音速を超えるスピードでキントン雲に突き刺さるグリーン。そのままキントン雲を突き抜け、ジタバタしながら落ちて来た。
盛大に水飛沫をあげ着水するグリーン。ここのプールはイカが飼えるほど深いし、カエルなら水に飛び込むのはお約束だ。モブ戦闘員はシールドを構え直し、水害から女神様達を守った。
「やるじゃない、モブ戦闘員」
「ありがとう、モブ」
あっ、迂闊にチェリー嬢がモブ戦闘員の額に指ツンしたので、モブ戦闘員が萌えダウンした。サファイア様の御礼の言葉で他のモブ戦闘員もフリーズし固まってしまった。モブ戦闘員のくせに、なんて羨ましいんだ。
放っておけばモブ戦闘員は復活するが、違う世界線からの連戦が祟ったのか、沈むチェリーのようにグリーンが沈む。
「ブルーもブラウンもいないし、回収しないとまずくない?」
あとで叱られるやつだが、然るべき存在が、あっちでもこっちでもはっちゃけて不在なんだよ。
さようならグリーン‥‥君の事は忘れない。そんなバッドなエンドロールで終わらないのがヒョウリュウジャー。
「ホイップ☆」
クリームソーダのアイスクリームと共に添えられるクリームのような発声で、ゴールド様がグリーンを掬い上げた。
「はぁ、楽しかった。修復はブルーにしか出来ないよ。じゃぁね」
飲み疲れたのか遊び疲れたのか、ゴールド様はイエローを引き摺りながら本部へ戻っていった。キントン雲にお願いしたら、栗きんとんを分けてくれたのでホクホクご機嫌で何よりだ。
「ねぇ、辻堂のヒョウリュウスーツにヒビがあるわよ」
転がっているグリーンのおケツを、チェリー嬢がヒールで蹴ったせいでヒビが入った気もするが、ご褒美だからムカつくだけ。モブ戦闘員達も同じ気持ちだったようで、グリーンの身体をチェリーの枝でプスプス刺していた。
「あの‥‥よろしければ応急処置を致しましょうか?」
和服の吸い付くようなもち肌の美人がそこにいた。
「えっと、誰?」
冷静に第三者が見ると、かなり危ない状況だと思う。普通なら見ない。近づかない。声までかけて来たという事は関係者なのだろうか。
「モブル17号さんに、酔っ払いに襲撃されたから助けを求められましたの」
そういやもちもち言っていたモブがいた。お雑煮の餅を頼むつもりが、漂流のせいで、あずき世界のおしるこ姫を呼んでしまったようだ。
「よろしければ、皆様でどうぞ」
おしるこ姫が手土産に持ってきた山形のさくらんぼ餅だ。チェリーではないが、気遣いにチェリー嬢も喜ぶ。
「サファイア様にはこちらを」
おしるこ姫は青いシャンペンサイダー餅のセットを手渡した。
「あら、気が利くじゃない」
さすがは和の心の持ち主。青いサイダー餅を探してお土産にして、荒れた場を、あっという間に和ませた。
「季節に左右され、扱いがぞんざいになる気持ちはわたくしもよくわかるのです」
ぜんざいにかけたのか、ややこしい。よほど好きでもない限り、おしるこの出番は少ない世の中だ。あんみつのようなライバルもいて、生き残りをかけて大変な目にあっているのは間違いない。
「ですので、その方に消えられるとわたくし共も困るのです。けしてS.o.D.Aの皆様にご迷惑はかけません」
いろいろ抱えている思いはありそうだ。ただ‥‥このパターンって、お約束でしょ。みんな忙しいし、長々とした展開は誰も喜ばないと思うんだよ。
ヒビの入ったヒョウリュウスーツの保護の為に、餅で固められたグリーン。どうなるグリーン、乞うご期待。
お読みいただきありがとうございます。
※ 掲載されているイラストの著作権は作者さまにあります。自作発言やSNS無断転載・無許可掲載は禁止です。




