新たな力を手に入れました。
『無能の悪童王子は生き残りたい』第2巻は絶賛発売中!
お見かけの際は、どうぞお手に取ってくださいませ!
あとがきもぜひご覧ください!!!
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!」」」」」
ひと際大きな歓声が、向かいの扉から現れた女性に向けられる。
豹のような黒い瞳としなやかな身体、褐色の肌を持つコロッセウム最強の剣闘士。
――デスピナ=ノマデスのご登場だ。
「やっぱり、あんたは逃げないんだね」
「何度も言わせるな。僕はお前に勝利し、次をつかむんだ」
どこか寂しそうに告げるデスピナに、僕は吐き捨てるように言い放った。
彼女がどうして僕との闘いを避けたがるのかは分からないが、これしか生き延びる術たない以上、他に選択肢はない。
デスピナの境遇には同情しなくもないが、僕は自分のことだけで精一杯なんだよ。
「まあいいさ。せめて苦しまないように、早めに終わらせてやる」
「できるものならやってみろ」
僕は盾を構え、デスピナは剣を抜く。
大丈夫……僕ならきっとできる。
だから、自分を信じろ……って。
「あれは……!」
僕はデスピナの……彼女の背後の観客席の最上段に立つ、真紅の瞳の女性に釘付けになる。
だって……だって。
――僕の最推しの妻、アレクサンドラ=オブ=シュヴァリエなのだから。
向こうも僕の視線に気づいたようで、今にも闘技場に乱入しようとサンドラが一歩踏みしめる。
でも。
「…………………………(ふるふる)」
『ここに来るな』と、僕は彼女を見つめかぶりを振る。
まだ僕とデスピナの試合は終わっていないどころか、始まってすらいない。
せめてこの試合が終わるまで、君は見ていてほしいんだ。
逢えなかったこの四十日間で身に着けた、僕の新たな力を。
「……それはなんの真似?」
「え? あ、ああいや、なんでもない」
訝しげに見つめるデスピナに気づき、僕は慌ててはぐらかす。
きっとサンドラは僕を救出するために来てくれたんだ。ここでコロッセウムの連中に気づかれるのはまずい。
何より、派手に暴れるのは試合が終わった後だから。
そして。
「はじめ!」
「シッ!」
審判の開始の合図と同時に、デスピナが地面を蹴って僕に肉薄する。
宣言どおり、僕を早々に仕留めるために。
だが。
「甘い」
「っ!?」
左に跳躍して死角を突いたつもりだろうけど、僕の視界から逃れることなんてできないよ。
それに小手調べのつもりなのか、彼女は通常攻撃を放っただけ。スキル攻撃でなければ、雷属性の攻撃を受ける心配もない。
なら、スピードではサンドラに劣るデスピナの攻撃を、防げない道理はない。
「なるほど、ね……あたしの初撃をこうも簡単に防ぐんだ。ここまで防御だけで相手の剣闘士の心を折ってきたっていう話、嘘じゃないんだね」
「いや、何その話。初耳なんだが」
というか、僕がいつ対戦相手の心を折ったんだよ、風評被害だ。
「まあいいさ。それはこの攻撃を受けても、同じなのかな」
「っ!?」
デスピナの身体が、剣が、電撃を帯び始める。
まだ試合が始まってすぐだというのに、もうスキル攻撃を使うつもりなのか。
……まあいい。
僕のこの四十日間の集大成を見るのには、絶好の機会だ。
デスピナの攻撃、全て見切ってみせるッッッ!
「覚悟しなよ。【ヘキサグラム・ライトニング】!」
体勢を低く構えたデスピナが、電撃を纏って六芒星を描くように闘技場内を駆け巡る。
その輝きが、僕という標的と交差する、その時。
「っ!? なんで!?」
彼女の攻撃を、僕は紙一重で躱した。
でも、まだ動き出しが遅かった。もっとデスピナの動きを見極め、正確に予測するんだ。
そうじゃなきゃ、僕は生き残れないんだぞ。
「た、ただのまぐれだ! 今度こそ外さない!」
気を取り直したデスピナは、鋭角に折り返すと再び僕へと迫る。
まだだ……まだ…………………………あ。
「そんな!? どうして!?」
目を見開いて驚くデスピナ。
超高速で動いているにもかかわらず、僕は彼女の表情も、ほんの僅かな動きも、何もかもがまるでフィルムのコマ送りのように捉えた。
その時、僕の役立たずの八つのスキルのうち、一つがくるり、と反転する。
現れたのは。
――【千里眼】。
確かに第六感的な勘というか、そういうものを磨けたとは思うが、まさかスキルそのものが変化するなんて思わないだろ。
一応はハロルドという存在が制作者によって用意された対管理者としての存在であり、『エンハザ』ではあり得ないようなスキルを持っていることは事実だけど、これはどういうことなんだよ。誰か説明してくれ。
などと絶賛混乱中なのも束の間。
「隙を突いたつもりかもしれないが、無駄だ」
「な……っ!?」
考え込む僕の背後に回り込んだデスピナが突撃してきたが、それもあっさりと躱してみせた。
というか、どこを向いていても全方位に視覚があるって、すごいけど不思議な気分。
「ほら、どうした。お前の剣は、僕にかすりもしていないぞ」
「舐めるなあああああッッッ!」
手招きして煽る僕に、デスピナがなおもスピードを上げて目にも留まらぬ攻撃を繰り出す。
僕はただ、それを全て躱し続けた。
お読みいただき、ありがとうございました!
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