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インターミッション

 幸司は居住区の自室で読書に没頭していた。翻訳機能と端末のバージョンアップのおかげで船内のデジタル図書館で提供されている書籍やネット記事が読めるようになったのだ。

 それまで本といえば運良く持ってこれた予備校のテキストだけだったので、幸司にとってそれは望外の喜びだった。


「お、僕が船内に現れた時のことがニュースになってたのか……」


 今までハワやラトからしかこの船内の情報を提供されることがなかったため、ネット記事は幸司にとってなかなかに新鮮だった。幸司の出現、防疫、言語への対応に加え、幸司から聞き取った数々の地球の情報から物理学者による帰還方法の解説までが詳細に管理局報道官発の資料によって語られている。この船団にとって異星文明との接触は実に百年ぶりのことだとも書かれていた。その時大活躍した翻訳機の原理が今回役に立っているとのことだ。

 こういった情報はかなり透明性を高くして公表されていたが、これは隠し事をして後で発覚・大炎上するより最初から公開したほうが何かとスムーズに行くという彼らの社会的に獲得した知恵によるものなのだろう。


「なるほど。ハワが僕の保護者として、特別に色々知らされてるわけでもないってことだ」


 とはいえ、幸司がハワやラトに語った地球の文化に関するあれこれはさすがに掲載されていない。ハワがプロデューサーとして、地球の物語を一歩先んじてコンテンツ化できたのはやはり幸司との接触時間と物理的距離が与えた恩恵というものだろう。その後ハワが自分の得た地球関連情報をどこかに書き込んでいるのかと少し探してみたが、幸司がそのような記事を見つけることはなかった。

 ただ、ハワの制作したコンテンツが大ヒットしている経緯もあり、ハワが幸司の身元引受人になっていることは様々な記事で紹介されているようだ。


 ネット記事の下には、ミノリタスや一部マイオリスたちによるコメントが多く続く。「各船を訪問して親交を結んでほしい」という好意的なものから「地球のほうが科学文明が進んでいるならヒントだけでも」という利益優先のもの、「肌の色がキモい」「ワケのわからない奴を受け入れず、とっとと宇宙空間に放逐してしまえ」という過激なものまである。


 船団の議会が人道的見地から可及的速やかに幸司を地球に送り返すと決定したのはマイオリスに宗教に関する情報が伝播する少し前のことらしい。幸司は何度もその部分を読み返して、心の中で両手を合わせた。


 幸司が次に読み始めたのはマイオリスとミノリタスの成り立ちについてだ。元は同じ惑星の同じ住民だった彼らがどうして分断してしまったのか。絶交しているわけではないが、自由な往来は出来なさそうで、そこには法律というよりは掟や良識と言った精神的要因による高い壁があるように幸司には感じられる。

 意気込んで本を探し、どうやらそれらしい記述のある箇所を見つけた幸司ではあったが、脳改造を受けている彼にとってもその内容はかなり難解だった。


「解像度が高すぎる上に人名が多すぎてわからん……AI様お願いします」


幸司がAIエージェントの助けを呼ぶアイコンをタップすると、たちどころに要約された文章が表示された。


《移民船団史: 第2巻 p.234 - p.238 のAIによる要約》

 400年ほど前に惑星ビリディスは大規模な小惑星群の衝突にあい、住むのに適さない環境になりました。事前にそれを予測できたビリディス人たちは、数億人という巨大移民船団を構築して脱出に成功しました。

 最初のうちは母星を失った状況を悲しみながらも前向きに生きようという空気が移民船団内にあったのですが、そのうち限られた船内資源の分配方法に不平不満が蔓延し出しました。特に、世代を経て、自分たちがどうして移民船団で暮らしているのかを知らない住民の数が多くなると、この傾向は顕著になりました。


 当初、ミノリタスの移民船団の中では母星にいた時と同じような社会体制が敷かれていましたが、資源的な制約が多い中で、民衆のストレスは大きくなり、指導者層や知識階層が持つと言われた、ありもしない特権への反発が大きくなりました。ある時期にこのヒステリーが集団爆発し、知識階級は全て、特定の移民船に隔離されることになりました。以後、知識階級が乗る船の乗員をミノリタス、それ以外の民をマイオリスと呼ぶようになります。

 マイオリスはミノリタスが作成した完璧に公平で安全な人工知能によって統制されており、マイオリスの人々の不平不満は起きたとしても怒りの矛先はどこにも向けようがありません。また、この人工知能は努力による成果以外での貧富の差をほとんど無くすことに成功し、その結果、貧しさに起因した犯罪や反社会的組織はほぼなくなりました。


 マイオリスの中から新たに発生した突然変異的な優秀個体は、本人の希望でミノリタス船団への移住が可能となりますが、これを「船送り」と呼びます。この制度はミノリタスの遺伝的な多様性を維持するという側面を持ちます。逆にミノリタスの急速な科学技術の進歩や競争環境に疲れた人たちはマイオリスへと「降りる」ことも可能です。


 数世代も経つとマイオリスの中では何の社会構造の変化も、イノベーションも起こらなくなりました。新たな発明や娯楽はミノリタスから供給され、マイオリスはその代償として工業原料や農作物、嗜好品などの一次生産品をミノリタスに供給しています。結果としてミノリタスは科学文明が強力に加速しましたが、マイオリスを「支配」や「指導」しようとするようなこともなく、両者は良いパートナーシップを保ちつつ移民船団を構成しています。

(要約おわり)


「……なるほど。2:8の法則みたいなのがあって、民主主義で力を持つ8側が世代を超えて2を駆逐し続けたたってことか。でもそうなると、8側は当初の質を維持できるんだろうか?」


 幸司は等比級数を思い出し、数式を起そうとしたが止めてしまった。なんだか、マイオリスの人たちに酷く侮辱的な行為に思えたからだ。


(続く)

この「AIによる要約」をさらにChatGPT-4oに要約させると以下のようになりました。


移民船団史: 簡易要約

400年前、小惑星群の衝突で母星を失ったビリディス人は、巨大な移民船団で宇宙へ脱出した。当初は協力的だったが、世代を重ねるにつれ資源分配の不満が高まり、知識階級を隔離した結果、船団は知識と競争を重視する「ミノリタス」と、統制された平等を重視する「マイオリス」に分断された。

ミノリタスは技術を進化させ、マイオリスに娯楽や新技術を提供する代わりに一次生産物を得る関係が続いている。突然変異で優秀な個体が現れると「船送り」でミノリタスに合流する制度があるが、双方の社会は基本的に独立している。


あはは。やるもんですね。AI。

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