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剣鬼と呼ばれた戦闘狂、病魔に蝕まれた最弱令息に転生する ~気が高ぶるとすぐ血を吐くけれど、それでも戦いはやめられない~  作者: としぞう


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第12話 アルマの意地

 感動で涙が溢れ出しそうだった。

 それだけ前世の俺にとって、剣とは特別な存在だった。

 そして、アルマにとっては遠い憧れで、一体何度、それを振るう自分の姿を夢に見たことか――

 

 ……いや、感傷に浸るのは後だ。


 こうして剣さえ手にしてしまえば、力の差など些細な問題だ。

 身体能力や種族の違い……すべて剣一本で覆してきたんだ。

 そんな過去の実績が、今の俺に希望をくれる。


(イスカは丸腰。これでどうにもなりませんでした、なんてなったら一生笑い者だな)


 俺は自信を漲らせつつ、手にしたばかりの剣を、あの頃のように構え——


——カラン……


「ん?」

「…………」


 何かが地面に落ちる音がした。

 イスカもぽかんと口を開けつつ、俺の足元を見ている。

 というか、なんだか違和感が……?


「って、落としてる!?」


 思わず叫んでしまった。

 イスカから奪った剣。それを利き手である右手で握り込み、構えた瞬間!

 俺の手からするりと滑り落ちてしまっていたのだ!!


 理由は簡単。


(俺の手、剣を構えるほどの握力さえ無いのかよ!?)


 アルマの握力では、剣の重さに耐えきれないのだ!

 考えたこともなかったが、ただ持つだけならともかく剣を振るとなるとそれ以上の負荷が掛かってくる。


 イスカの剣は片手で持つことを想定された、所謂片手剣。

 前世の記憶では、駆け出しレベルの女子供でも普通に持っていた、極一般的なサイズ、重さだ。

 それすらまともに操れないのは——これは笑い者確定か。


「ガフッ!」


 いけない。動揺が肺に来た。


 うっかり吐いてしまった血を拭いつつ、落とした剣を拾う。

 まったく持てない訳じゃない。呼吸で体も強くなっているんだ。

 おそらく握力まではまだ力が行き届いていないってだけだろう。


 意識的に握れば落としはしない筈……けれど、剣を振るう時に握力に集中するバカもいない。


(となれば、多少不格好だが……)


 俺は細身の片手剣を、両手で握る。

 取り回しの良さは無くなったし不格好だけれど、安定感は出る。


「う……!」


 そんな俺の姿を見て、イスカが怯んだように呻き声を上げた。

 こうして目の前で必死な姿を見せつけられれば嫌でも解ってしまう――自分の弟の限界が。


 そして彼女は我慢できず、直視できないとばかりに目を逸らした。

 大きな隙――いや、彼女のその感情を読み取った瞬間、俺は衝動的に地面を蹴っていた。

 

「哀れんだか! イスカ・クレセンドっ!」


 怒りを原動力に俺は容赦なく、剣を振りかぶる――が、


(くそッ! 体が引っ張られる!)


 走る勢いを合わせれば、想定以上に制御が効かない。

 重心が定まらず、体が開く。間抜けな大振りで、剣閃は乱れ、速度も出ず――


「く……」


 あれほど動揺していたにもかかわらず、イスカにはあっさり躱されてしまった。

 いや、こればかりはただただ俺が悪い。


(剣を持って浮ついたか。体を動かすのに必死すぎて、剣を持ったときのギャップを想定できていなかった)


 先ほどの蹴りはイメージ通り上手くいった。

 しかし、それと同じように剣も扱えるというほど、この体は器用じゃないらしい。


 元々体力も無ければ、常時湧き出てくる痛みはどんどんと増していっているんだ。

 時間を掛かれば掛かるほど、集中しづらくなり、無意識の動きは雑になってしまう。


(問題は山積みだな。けれど、絶望するほどじゃない)


「……何を笑っている。もはや満身創痍だろう」

「そんなの、足を止める理由にはなりませんよ」


 満身創痍って意味じゃ、こうして立って歩くだけでその域に達している。

 限界なんてものはいつ振り切ったか分からない。


「本当の絶望は、全て最初から諦めさせられることだ。そしてそれを何も知らないフリして受け入れることだ……!」

「諦めさせるなんて……私達は、お前を思って……」

「全てを諦め、死を待つよりも……たとえ苦しくても、今の方がずっと、生きている!」


 何度も、何度も、剣を振るう。

 それでもイスカには届かない。


「戦いなんだ! 立つのも、自分の足で歩くのも……俺にとっては、全て!」

「っ……! お前がそんなことをする必要は無い! 誰もお前に求めていない! 生きてくれているだけで、もう十分なんだ……」

「十分なんてそんなこと、勝手に決めるな! もう人に諦めさせない……俺の人生は、自分で歩む!!」


 たとえ不格好でも、醜くても、俺は何度だって剣を振った。

 決してイスカを捉えられない、越えられないと分かっていても、諦められない。


 それこそが……生きるということ。

 この世に生まれたからこそ、命がけでも張るべき意地ってやつだ!


「ガハッ!?」

「アルマっ!」

「くそ……ちょっと動いただけでこれだ。でも、俺は生きている……! まだ、倒れちゃいないッ!」

「ぐ……!?」


 イスカの動揺が一層大きくなる。

 ベッドに寝かせ、部屋に閉じ込め、見ようとしなかった現実。

 クレセンドの面汚しと陰口を叩かれ、事実家名に泥を塗りながら、諦めて笑うことしかできなかった弟。


 それが今、お前の目の前で、必死に、愚直に、全力で足掻いているんだ。


「その俺が、俺の足掻きが悪霊の仕業かどうか……その目で見極めてみろ、イスカぁッ!!」


 血を吐きながら、俺は叫んだ。


――楽しい。

 

 そんな感情が湧いたのは、生を捨ててまで闘争に生きたリバールとしての記憶によるものだけじゃない。

 アルマ・クレセンドにとって、今が初めて、全力で生きていると実感できる瞬間だった。


 こんなに体を動かしたのは初めてだ。こんなに何かを欲したのは初めてだ。

 こんなに、自分という存在が在って良かったと思える時が来るなんて!


「うおおおおおおおおっ!!」

「ぐうっ!!」


 そして――とうとう、意地だけで振るっていた剣先が、イスカの肌に届いた。

 ほんの僅か、腕を裂いただけ。微量な血を滲ます程度のかすり傷ではあるが。

 それでも……!


「っ……!」


 イスカは咄嗟に数歩距離を取り、腕についた傷に触れる。


「そうか……これが、私の弟の……」


 そして、手の平についた僅かな血を見て――戦いの場にはそぐわない、美しい微笑みを浮かべた。


 


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