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京都の王〜THE KING OF THE CAPITAL〜  作者: 宇井九衛門之丞
第4章 影侍(氏原弘人編)
46/62

#46 仕返〜THE WARRIOR BEING HITTED BACK〜

「くっ……こ、これは!」

「おやおや……何なんだいその姿はよお?」


 殺気に包まれ苦しむ弘人に。

 半兵衛も水上兄弟も、ただただ首を傾げるばかりである。


 富士川にて静氏・甲斐泉氏、そして頼暁らが対峙した戦の後。


 黄瀬川駅での頼暁・義角の兄弟二人の涙の再会より更に後。


 頼暁はそのまま、静氏を追撃すべく京へ攻め込まんとするが。


 上総氏や千場氏の進言により、まずは東国の平定に専念することとする。


 しかし、その間にも。

 泉氏は各地で蜂起を続けていた。


 そうして美濃に続き、山元義恒率いる近江泉氏まで蜂起するが。


 盛り返した静氏により、どうにか鎮められる。

 と、このように静氏には気の抜けぬ有様が続いていたのだが。


 そのような時に、帝より。

 法皇による再びの院政が始められることが告げられた。


 清栄はそれに対し。

 少しでも法皇の力を削がんとして、南都の寺社に焼討を行う。


 しかし、そんな中。

 にわかに静氏の屋敷に、姿は獅子に似て恙虫なる妖の群れを数多生み出せる妖・恙が現れた。


 半兵衛と遅れてやって来た水上兄弟により、からくも妖は屠られるが。


 それから間もなく清栄は、謎の熱病に罹り亡くなったのだった。


 しかし、新たに静氏が棟梁となった宗栄は。

 静氏の威容を示すべく、今墨俣川に兵を送り込んだのである。


 そうして墨俣川では、泉氏方の雪家自らしくじったこともあり戦勝を上げたのであるが。


 続けて信濃に、越後の壌を攻め込ませて見たが。

 壌鋤職は信濃の木曽義永に大敗したばかりか、離反者が多く出たことにより所領である信濃からも追い出されてしまった。


 そうして北陸の静氏の力は、大きくそがれてしまったが。

 帝がさような時に、思わぬことを口にしたのである。


 ——半兵衛ら妖喰い使いを、北陸へと送り込まんと思う。


 これには半兵衛らも、驚きを隠せなかったが。

 それでも帝の命とあらば拒むこともできず、水上兄弟らが北陸へ出兵する静氏へ同行し。


 半兵衛が、留守を守ることになっていたのだ。

 が、北陸攻めの静氏軍が都を発ったその夜。


 偽帝――楽士であり、影の中宮らの仲間であった氏原弘人は、捕らえていた帝を斬らんとしていた。


 そこへ半兵衛と、出兵への同行を断っていた水上兄弟が守りに入るが。


 弘人はそこで、とんでもないことを口走っていた。


 ――かつて静氏屋敷を襲いしあの妖の群れを囮として、そなたらがそれに気を取られている間に! 屋敷の内に密かに送り込みし妖に清栄を刺し、熱の病にして死に至らしめたのだ!


 それを聞いた半兵衛と水上兄弟は大いに揺らぐが。

 聞いていたは、彼らのみではなかった。


 ―― 私は……そなたらを信じていた! しかし、そなたらは間抜けにも影の中宮とやらの策に嵌められ、父上を救えなかったと……? ああ、私も私であるが、そなたらもそなたらであるな!


 そう言い残し、傷心の聴子はそのまま襖の向こうへと行ってしまい。


 後を追った半兵衛と水上兄弟らであったが、そこに立ちはだかったのは二人の帝。


 どちらかが真の帝であり、どちらかが偽の帝――氏原弘人である。


 しかし、どちらも天狗面をつけており。

 言葉もまったく同じ時に二人の帝より出て来るものであり見分けがつかなかった。


 が、半兵衛の問いにより見分けはついた。

 その、問いとは。


 ―― あんたが初めて、皆に真の姿晒した時だ。あんたを清涼殿から俺が追い出す前、あんたの右にいたのは誰だったか覚えているか?


 弘人に向かい、こう問うたのである。


 それに対しての答えを聞いて半兵衛は、ようやく帝を見抜き。


 今偽の帝であった弘人との、鍔迫り合いとなっていたのであるが。


「ぐうう!」

「お、おい……その姿じゃまるでよお。」


 半兵衛は、にわかに殺気に包まれた弘人の姿を見てため息を漏らす。


 その姿は。


「まるで、鬼が取り憑いたみてえだな!」


 弘人を蝕む、その闇色の殺気はもはや鬼としか思えぬ形をしていた。


「くっ、離れよ!」

「ぐうう……があああ!」


 弘人の近くにいる氏式部を装っている聴子は、暴れ出さん有様である彼をどうにか遠ざけんとしている。


「氏式部さん! ……おい、鬼さんこちらだ! 手の鳴る方へえ!」


 半兵衛もそれを見て、弘人を聴子より引き剥がさんと煽る。


 すると。


「うう……許、さぬ! 許さぬぞ、半兵衛ええ!!」

「そうかい……奇しくも、俺もさ!」


 果たして怨嗟を漏らしつつ弘人は、半兵衛を睨み。

 斬りかかって来る。


 半兵衛もまた構え直し、これに応える。


「半兵衛殿!!」

「頼常さん、実庵! ち……いや、氏式部さんのことを頼む! なあに案ずるなよ……止めくらいはささせてやるからさ!」


 半兵衛は弘人に向かって行きつつ、水上兄弟に言う。


「……承知した!!」

「は、半兵衛!」


 水上兄弟はその言葉に頷きを返し、聴子は半兵衛へ憂いの言葉をかける。


「ふん……侮るな一国半兵衛ええ! そなたごとき、この手でえ!」

「俺ごとき、か……あんたこそ、侮ってんじゃねえよ!」


 弘人は怒りを更に高めつつ、半兵衛へと向かって行く。


「ぬぐぐぐ! ……所詮は私を解さぬ者共お、そなたらごときに我が行く道を阻まれてたまるか!」


 弘人は尚も闇色の殺気に蝕まれつつも、怨嗟を漏らす。


「言ったろ……水上兄弟のお父上を殺して、義角さんに手傷負わせた仇! 俺たちにとってあんたは、所詮その位でしかないんだって!」


 半兵衛も負けじと、弘人を見つめ。

 紫丸を振るい、鬼のごとき殺気を纏う弘人に抗う。


「ふふふ……ははは! そうであったな……私にとりてもそなたらは、所詮邪魔立てする者たちでしかない! ならば……直々に葬ってくれるのみよ!」


 弘人は半兵衛の言葉に笑いを返し。

 その闇色の殺気纏う刃を、力強く振るう。


「おっと! ……なんてな、おりゃ!」

「くっ! またも鍔迫り合いか……ならば!」

「ぐっ……くう! こ、こりゃあ……」

「半兵衛殿!!」

「半兵衛!」


 水上兄弟や聴子は、半兵衛を憂う。

 再び鍔迫り合いとなったこの機を、好機と捉えた弘人は。


 そのまま半兵衛を、自らを蝕む闇色の殺気へと共に呑み込み始めたのである。 


「くっ……頼常殿! 早く、その妖喰いの弓を引き半兵衛を」

「待たれよ、氏式部殿! 今兄者が翡翠を放てば、半兵衛殿にも当たってしまう。」

「なっ……そうか……」


 聴子は水上兄弟を促すが、実庵の言葉に口を噤む。


「今は……半兵衛殿に任せよ! 必ずや、半兵衛殿ならば……」

「……うむ……」


 聴子は頼常の言葉に、半兵衛を見つめる。


「ははは! ああ、どうだ半兵衛え! ……これぞ、我が屈辱、恥辱! そこより来る怒りの味であるぞ……」

「怒りの味……ねえ……」


 弘人の殺気に呑まれつつある半兵衛は痛みを堪えつつ、正気を保つ。


 と、そこへ。


「(……ん?)」


 半兵衛はふと、首を傾げる。

 それは。


 どこかの屋敷の中と思しき景色と、何やらこちらの顔を覗き込む女の顔。


 そして何故か、赤子の泣き声。


 ――すみませぬ……あなたを、私が育てることはできない……


「(この人は……母親か? ん? 待てよ、これってまさか!?)」


 半兵衛は目の前に浮かぶ景色の数々をぼんやりと見流していたが。


 やがて、一つの答えにたどり着く。

 そう、今はあの闇色の殺気に呑まれているさなか。


 そして、自らには見覚えのない景色。

 これは。


「(夏加ちゃん……夏ちゃんの時と同じ。これはこの弘人の……昔か?)」


 そう、夏加の荒ぶる殺気に呑まれかけた時。

 夏加の思い出を、見た時と同じである。


「そっか、弘人さんあんた……母親に捨てられたのか。」

「!? なっ……そなたまさか! ……そなたごときが、見るなあ!」

「くう! ……いんや、そうはいかねえよ! こうして俺を喰おうとしてるってことは、覗き見られる腹を決めてからにしろや!」

「ふっ……ならば、見る前に喰らい尽くしてやろう!」

「くっ! ああ……こりゃあ、競り勝たねえとなあ!」


 半兵衛は弘人の、より強くなった殺気に呑まれかけるが。


 より気を確かに持ち、却って弘人に立ち向かう。


「くっ! ……ああ、見えるよ弘人さんよお!」


 そのまま新たに、殺気の果てに見えたものは。

 赤ん坊の頃より、幾年か経ち。


 長じてからと、思しき景色。


 ――そなたは誠であれば、帝になっていた男よ。


 目の前にいるは、鬼面の男。


 ――そなたは憎くないか? 自らをかような目に遭わせるこの世が。ならば……壊せばよい!


 鬼面の男は、弘人を焚きつける。


「ああ、そうであるな……ならば私が帝となり! この世を思うがままに! (ふん。私はこの鬼面の男共や影の中宮を使い……その望み、果たしてくれる!)」

「(! これは……)」


 半兵衛がその次に聞いた言葉は。

 他ならぬ、その時の弘人の言葉であり心である。


「なるほど……自分(てめえ)が使おうとした影の中宮さん方に却っていい具合に使われちまうんじゃ、世話ねえなあ!」

「くっ……黙れ黙れえ! そなたごときに、何が」

「ああ、言ったろ分かんねえって! ……けど、今は少しだけだが分かりたくなったぜ!」

「……何?」


 次々と自らの心を覗き見られ、弘人は怒りを強める。

 が、半兵衛のこの言葉には拍子抜けする。


「なるほどな……悪かったよ、あんたもあんたで色々あったんだな!」

「ふん、知ったかのごとき口を……利くなあ!」

「くっ! ああ、知らねえさ、だけどだからこそ! ……知りてえんだよ。」

「……くうう!」


 尚も怒りを激しくしていく弘人により強まる殺気に呑まれつつ、半兵衛も更に気を確かに持ち。


 尚も弘人の心と、向き合わんとする。


 そして。


 ――……私が、これより水上の主を殺しに行く。そなたはその後、水上の主殺しを名乗り水上兄弟と相対するきっかけとせよ!


「心得た……鬼神(きじん)殿よ。」


 鬼面の男の言葉に弘人は、頷く。


「何だよ……あんたつくづく、大嘘つきじゃねえか!」

「くっ……見たか、ならばもはやそなたを喰らい尽くさぬ訳には行かぬ!」

「ぐっ……ああ、だったら俺も喰らい尽くされる訳にゃ行かねえ! 早くこの大嘘を、頼常さんたちに話さねえとなあ!」

「ははは……ならばやって見せよ、できるならばなあ!」


 半兵衛が更に自らの心を見たことに、弘人は更に怒りを激しくし。


 これまでになきほどに闇色の殺気を、強める。

 半兵衛もそれに抗わんばかりに。


 蒼き殺気を、強める。


「はああ!」

「うおお!」


 闇色と蒼き殺気が、強く抗い合う。


 ◆◇


「ふふふ……あわよくば、そのまま共に喰らい合えば良いですわ! さあ」


 内裏の屋根上にて影の中宮はこの有様を見て、悦に入る。


 が、その時であった。


「破呪……急急如律令!」

「!? ふっ!」


 にわかにまじないが響き、それと共に空より放たれた幾つかの光を影の中宮は、すんでの所にて避ける。


「そなたが……影の中宮か!」

「ん……あなたは、阿江の陰陽師! 我らが鬼面と戦っていたのでは?」


 影の中宮も、さすがに驚いたことに。

 同じく屋根上に降り立ったのは、刃坂麿であった。


「私が、そなたらの策ごときに乗せられるとでも? まあ、これまでは乗せられし振りをしていたが……その猿芝居も、今や無為に帰したりというもの!」


 刃坂麿は鼻を鳴らし、影の中宮に言って除ける。


「なるほど……やはり、あの氏原弘人の策を逆手に取りし策など容易く見破られましたか!」


 影の中宮は刃を抜きつつ、刃坂麿に言葉を返す。


 ◆◇


 時は、少し前に遡る。


「ふふふ……どうした、陰陽師! 左様に怯えて!」

「くっ……破呪、急急如律令!」

「ふん……ぬるい!」


 都の片隅で何やら鬼面をつけた男と睨み合っている、刃坂麿である。


 刃坂麿がまじないを唱えつつ、投げた札は。

 そのまま刃のごとき形となり、鬼面の男へと向かうが。


 鬼面の男はそれらを、事も無げに刃を振るい全て跳ね除ける。


 その刃にはやはり、弘人の刃と同じく闇色の殺気が纏わりついていた。


「いつまで逃げ回るのか、陰陽師! さあ……こちらへ来い!」

「くっ……いや、私は行けぬ!」

「ほう? 臆病風に吹かれたか!」


 鬼面の男は刃坂麿を笑う。


「……来い、鬼面! もはや万策は尽きた、さあ!」

「ふふふ……よかろう、望みとあらば!」


 鬼面の男は刃を構え直し、そのまま刃坂麿へと向かって行く。


「……結界封呪!」

「ふふふ……せめてもの抗いか!」


 鬼面の下で男は微笑む。

 結界などでこの闇色の妖喰いは、防げはせぬ。


 このまま――

 が、次の刹那。


 刃坂麿は、鬼面の男にとって思わぬ動きを見せる。


「くっ!」

「!? ほう、結界も張らぬとはな!」


 なんと刃坂麿は、結界を張りせめてもの抗いを見せるかと思えばさにあらず。


 そのまま何の抗いも見せず、斬られてしまったのである。


「くっ……」

「ふん……まったく呆気なき有様! つまらぬなあ!」


 鬼面の男は、真っ二つとなり倒れた刃坂麿を足蹴にする。


 少しは、楽しめるかに思えたのだが。

 が、その時。


「!? こ、これは!」


 鬼面の男が、驚いたことに。

 なんと斬られた刃坂麿の身体は、そのまま紙と化したのである。


「くっ、式神を身代わりとしたのか!? いや、これは……初めより、私を欺いてか陰陽師!」


 鬼面の男は腹を立てる。

 彼と対峙していた刃坂麿は、初めから式神を使った偽物だったのである。


「ふふふ……はははは! この私を欺こうなどと笑止千万! ……の、はずであるが。……おのれえ、陰陽師め!」


 鬼面の男は苛立ち、先ほどまで刃坂麿の身代わりを成していた紙を叩き斬る。


「陰陽師……この借り、必ずや!」


 鬼面の男は、咆哮にも似た叫びを上げる。


 ◆◇


「は、半兵衛殿!!」

「半兵衛!」


 再び、内裏の中では。

 水上兄弟と聴子が、叫びを上げる。


 闇色と蒼き殺気が、にわかに晴れたのである。

 半兵衛と弘人は、互いに倒れ込んでいる。


「くっ……」

「ぐっ……」


 が、互いに息はあり身体も少しではあるが動いている。


 さしづめ、引き分けといった所か。


「半兵衛!」

「実庵、氏式部殿を頼む! ……半兵衛殿、かたじけない。そなたの仰せのままに、我らが仇に止めを!」


 この様を見た頼常が、翡翠に殺気の矢を番え弘人を狙う。


 仇たる弘人は今、あまりにも隙だらけである。

 この好機、活かさでおくべきか――


「や、止めろ頼常さ……」


 半兵衛はそれを見て叫ぶが、声にならない。

 このままでは――


 が、その時。


「!? くっ!」

「ぐっ!」

「! み、水上兄弟! 半兵衛!」

「くっ……ぐああ!」


 皆、それぞれに驚いたことに。

 水上兄弟も半兵衛も弘人も、にわかにその妖喰いの殺気が荒ぶり。


 それにより自らが蝕まれ、倒れ込む。


「……ここか。」

「! な……?」


 そして聴子は、更に驚いたことに。

 目の前には何やら巫女の装いをし、左半分のみ青白い肌をした女子が。


「くっ、嬢ちゃんよ……あんた、誰だ?」

綾路(あやじ)。それが()()()()の、名だ。」

「この、死神……?」


 半兵衛もまた、女子を訝り問いをぶつけるが。

 返ってきた答えに、更に戸惑うのみであった。

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