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京都の王〜THE KING OF THE CAPITAL〜  作者: 宇井九衛門之丞
第4章 影侍(氏原弘人編)
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#43 亀裂〜THE RIFT BETWEEN THE EATER AND THE QUEEN〜

「今のは、どういう意だ……?」

「(これは……中宮様、だよな?)」


 物陰より出て来た氏式部――を装った中宮聴子の姿に、半兵衛らは驚く。


「ほう……? 中宮様の侍女殿が、何の御用かな?」


 弘人は笑いを滲ませつつ、聴子を見る。


 富士川にて静氏・甲斐泉氏、そして頼暁らが対峙した戦の後。


 黄瀬川駅での頼暁・義角の兄弟二人の涙の再会より更に後。


 頼暁はそのまま、静氏を追撃すべく京へ攻め込まんとするが。


 上総氏や千場氏の進言により、まずは東国の平定に専念することとする。


 しかし、その間にも。

 泉氏は各地で蜂起を続けていた。


 そうして美濃に続き、山元義恒率いる近江泉氏まで蜂起するが。


 盛り返した静氏により、どうにか鎮められる。

 と、このように静氏には気の抜けぬ有様が続いていたのだが。


 そのような時に、帝より。

 法皇による再びの院政が始められることが告げられた。


 清栄はそれに対し。

 少しでも法皇の力を削がんとして、南都の寺社に焼討を行う。


 しかし、そんな中。

 にわかに静氏の屋敷に、姿は獅子に似て恙虫なる妖の群れを数多生み出せる妖・恙が現れた。


 半兵衛と遅れてやって来た水上兄弟により、からくも妖は屠られるが。


 それから間もなく清栄は、謎の熱病に罹り亡くなったのだった。


 しかし、新たに静氏が棟梁となった宗栄は。

 静氏の威容を示すべく、今墨俣川に兵を送り込んだのである。


 そうして墨俣川では、泉氏方の雪家自らしくじったこともあり戦勝を上げたのであるが。


 続けて信濃に、越後の壌を攻め込ませて見たが。

 壌鋤職は信濃の木曽義永に大敗したばかりか、離反者が多く出たことにより所領である信濃からも追い出されてしまった。


 そうして北陸の静氏の力は、大きくそがれてしまったが。

 帝がさような時に、思わぬことを口にしたのである。


 ——半兵衛ら妖喰い使いを、北陸へと送り込まんと思う。


 これには半兵衛らも、驚きを隠せなかったが。

 それでも帝の命とあらば拒むこともできず、水上兄弟らが北陸へ出兵する静氏へ同行し。


 半兵衛が、留守を守ることになっていたのだ。

 が、北陸攻めの静氏軍が都を発ったその夜。


 偽帝――楽士であり、影の中宮らの仲間であった氏原弘人は、捕らえていた帝を斬らんとしていた。


 そこへ半兵衛と、出兵への同行を断っていた水上兄弟が守りに入るが。


 弘人はそこで、とんでもないことを口走っていた。


 ――かつて静氏屋敷を襲いしあの妖の群れを囮として、そなたらがそれに気を取られている間に! 屋敷の内に密かに送り込みし妖に清栄を刺し、熱の病にして死に至らしめたのだ!


 それを聞いた半兵衛と水上兄弟は大いに揺らぐが。

 聞いていたは、彼らのみではなかった。


「左様なことはどうでもよいでしょう? ……今そなたが申したことはどういう意かと尋ねているのですが!」


 今は偽氏式部たる聴子は、弘人の問いに返す。

 先ほどの弘人の問いには、答えぬ形で。


「ふふふ……はははは! 言葉通りの意ですがね。そなたの主人たる中宮様のお父君――静清栄様は()()にも!」

「いや、もうよいですわ……あなたの御託など!」

「ま、待てち……いや氏式部さん!」


 半兵衛は危うく中宮様と、口にしかけるが何とか堪えつつ聴子を宥めんとするが。


 聴子は聞こうともせず、尚も弘人に食ってかかる。


「ふふふ……ははは!」

「何が……何がおかしいんですの!」


 弘人の煽らんばかりの笑いに、聴子は更に怒る。

 と、弘人は。


「……ふん!」

「な……おい、逃げるのか!」


 半兵衛らが驚いたことに、にわかに近くの襖を開け。

 そのまま、襖の向こうへと行ってしまう。


「くっ!」

「お待ちなさい! 半兵衛……殿。今の、あの弘人の言葉は如何なる意か。」

「! し、氏式部さん……」


 後を追わんとする半兵衛らだが、聴子に止められる。

 半兵衛は、氏式部の目を見る。


 先ほどの話を全て聞いていたことは、疑う由もない。

 その目は明らかに、何が何でも問いたださんとする目である。


「その……氏式部殿、申し開きの次第もない!」

「! よ、頼常さん……」


 が、そこで聴子に謝ったは頼常の方であった。


「ほう? そう言えばそなた、北陸攻めの前にわた……いや、中宮様に何か告げんとなさっていたようですがそれは?」


 聴子も心が激しく揺らいでいるためか、危うく中宮が自らであると言ってしまいそうになるが。


 何とか取り繕い尋ねる。


「はっ、それは……」


 頼常は話し始める。

 弘人が先ほどの話をするより前に、彼は薄々勘付いていたことを。


 件の恙虫らを屠った時、その恙虫らを引き寄せた時に一つ違う方より飛んで来たものがあったことからそう考えていたことを。


「なるほど……そなたらも、つまるところ私……いや、中宮様を騙していたということか!」

「も、申し訳ない!」

「(中宮様……)」


 またも私と言いかけてしまうほどに、氏式部を装っていることを忘れてしまうほどに聴子は、激しく捲し立てる。


「ま、待ってくれ氏式部さん! それは……その、面目ない……」

「半兵衛……そうだ、そなたも! 何をしていたのだ!」


 見兼ねて話に入った半兵衛をも、聴子は責める。


 ―― そなたらがこの前、我らが屋敷を襲いし妖らを屠ってくれた時。父上は大層お喜びであったぞ。


 父・清栄の葬儀の時。

 そのような訳を露知らず、聴子自らが半兵衛や水上兄弟にかけた言葉である。


 あの時の自らは、何を言っていたのか。

 今の自らからすればあの時の自らなど、笑い者より他の何者でもない。


 聴子は、自らを恥じ入る。


「私は……そなたらを信じていた! しかし、そなたらは間抜けにも影の中宮とやらの策に嵌められ、父上を救えなかったと……? ああ、私も私であるが、そなたらもそなたらであるな!」

「し、氏式部さん!」


 聴子はそう言うや、目の前の襖を開けてその向こうへと行ってしまう。


「……半兵衛殿。」

「……行こう、氏式部さんを迎えに!」

「う、うむ……」


 頼常からかけられた言葉に、半兵衛は気丈な言葉を返す。


 が、その時である。


「あ、兄者! 半兵衛殿! み、帝が……いらっしゃらぬ!」

「何!? くっ、どこへ」

「は、半兵衛殿! 恐らく、あの弘人めが!」

「くっ、なるほどなあ……」


 実庵が上げた声に、半兵衛は歯軋りする。


 ◆◇


「くっ、氏式部さん!」

「氏式部殿、帝!」

「何卒、お答えを!」


 半兵衛と水上兄弟は、襖を次々と開けながら氏式部と帝を探して行った。


 半兵衛も水上兄弟も、内裏の中をそこまで歩き回ったこともない。


 故にその間取りについて詳しく知る由もないのだが、少なくともかように、まるで永遠(とわ)に続くかのような間取りは見たこともない。


「は、半兵衛殿、まさかここは」

「ああ、こりゃ……何か術の類いが使われていそうだな。おそらくはあの、弘人さんが。」

「くう、我らをどうするつもりか!」


 半兵衛と水上兄弟が永遠に続くかのごとき襖を訝しんでいた、その時である。


「ははは、お困りのようであるな! 妖喰い使いらよ!」

「な、この声は」

「ああ……氏原弘人さん! あんた、どこにいるんだ?」


 にわかに響き渡ったその声は疑うべくもない、弘人のものであった。


 が、弘人は。


「ふふふ……ここにて一興と洒落込もうではないか。」

「い、一興?」


 半兵衛は弘人の声に戸惑うが。

 やがて目の前の襖が、徐にひとりでに開く。


「!? な!」

「み、帝……いや! 氏原弘人か!」

「し、しかしこれは……どちらなのだ?」


 半兵衛や水上兄弟が、更に驚いたことに。

 目の前の部屋には、何やら杭に後ろ手に括りつけられた帝が二人。


「は、半兵衛らか! た、助けてくれ!」

「わ、私を助けてくれ!」


 帝は二人共、自らを助けるよう懇願している。


「こ、これは」

「ははは! さあ、妖喰い使い共。」

「!? な、二人の帝のお口が共に!」


 実庵が驚いたことに。

 二人の帝の口から、時同じくして帝に似た弘人の声が出てきたのである。


「ここにいる帝、どちらかは偽物でありどちらかは真の帝じゃ! どちらかを選べ。」

「! 何!」


 更にそこに、またも二人の帝の口から弘人の声が響く。


 この二人の帝、どちらかが偽物?

 つまりどちらかが真の帝で、どちらかは弘人ということか。


 しかし、確かに帝は気がかりであるが。

 帝と同じく気がかりであるのは。


「待て、その前に! 氏式部さんはどこにいる?」


 半兵衛は先ほど一人で奥へと行ってしまった氏式部――聴子の行方を尋ねる。


「ははは、案ずるな! そなたらがこの問いに正しき答えを出せれば……氏式部殿もお返ししよう!」

「……分かった、真だな?」

「ああ、無論。」


 半兵衛は尚も聞こえていた弘人の声に問い、返って来た答えにひとまずは納得する。


 そうして今一度、目の前の二人の帝を見る。

 が、その時。


「いや、待て……捕らえられたままではつまらぬな。ここは……こうするとしよう!」

「なっ!?」


 またも弘人の声が二人の帝の口より響き、次の刹那。

 二人の帝は時同じくして、後ろ手の縄が解かれ立ち上がる。


 その動きからして、一糸乱れぬ揃った動きであった。

 まるで動きでは、どちらが真の帝が分からぬようにするためのごとく――


「……さあ、妖喰い使いらよ。どちらが真か分からぬ帝と斬り合えるか?」

「くっ……!」

「こ、これは!」

「な、何だこれは!」


 半兵衛と水上兄弟が、更に驚いたことに。

 立ち上がった二人の帝は揃って天狗面を付け。


 さらに揃って、刃を抜く。

 その刃には、やはりと言うべきか暗き紫の殺気が。


 ◆◇


「ん……? ん! んんん」


 そして、その時。

 二人の帝が刃を構えた部屋の、隣の部屋に囚われていた聴子は目を覚ます。


 口も身体も縛られつつも、その襖の隙間から見えたのは。


 二人の帝と半兵衛らが、相対する有様であった。

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