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京都の王〜THE KING OF THE CAPITAL〜  作者: 宇井九衛門之丞
第3章 庶那(泉義角、四葉夏加編)
32/62

#32 落所〜THE DROPPING PLACE OF THE EATERS 〜

「おいおい……その人たちは人質のつもりかい?」


 半兵衛は、目の前の薬売り・泡麿に声をかける。


「はーっ、ははは! 案ずるなや、一国半兵衛と水上の兄や! ……あんたらには、こいつらに遠慮することなんてないはずやろ?」


 手足に妖をつけた悍ましい姿の泡麿は、今手先の妖・送り狼の群れに囲ませている義角の軍勢を盾にしている。


 水上兄弟と影の中宮一派の戦いより、十日余り後。

 維栄率いる、官軍の大義名分を賜った静氏軍は。


 頼暁を討つべく、その足を進めていた。


 しかし水上兄弟と半兵衛の戦の後。

 それによる乱れや、また総大将たる維栄と次将との諍いにより。


 この静氏軍が京を発つ日は遅れてしまい、その間に頼暁の安房での再挙と兵を整えての鎌倉入りを許してしまったのである。


 更には甲斐や木曽でも、泉氏の蜂起が進む中。

 頼暁の弟・九郎義角も兄に合したいと思い進軍した矢先に妖の群れに遭い、戦っていた。


 しかし、その行手を阻んだのは半兵衛を装った天狗面――帝に仕える楽士でもある、氏原弘人だった。


 戦いの後天狗面は、義角に手傷を負わせてひとまずはその場を後にする。


 が、またも義角の軍勢の前に現れ。

 夏加と戦った後、彼らを誘い出すべく逃げる。


 その天狗面が、誘い出した先が。

 先ほどまで泡麿と、半兵衛・頼常が戦っていた所だったのである。


 そのまま出会ってしまった半兵衛・頼常と、義角・盤慶・夏加――言うなれば、泉静の妖喰い使いは。


 自ずと、今戦い合っている。

 しかし、夏加は。


 半兵衛と戦っていた所に、義角より夏加を守るため盤慶が送り込まれ。


 そのことについて、義角に自らは侮られたと考えてしまい。


 侮るなとばかり、義角と頼常の間に割って入る。

 しかしそこにて、よりにもよって義角から侮りの言葉をかけられた夏加は悲しみ。


 その心の隙を泡麿に突かれ、件の"暗い紫の妖喰い"の殺気により操られた夏加は殺気を吹き出し暴れ回る。


 他方、頼常から夏加を止めるため結託しようという話を持ちかけられるも義角は。


 半兵衛と頼常が信じられないため、その話を断る。


 しかし半兵衛はそんな義角になど構っていられぬとばかり、駆け出し。


 殺気を今尚吹き出し続ける夏加に、紫丸にて斬りかかり。


 話を試み、義角や頼常、盤慶もそれに加わったことにより夏加をどうにか解き放つ。


 しかし、そこに現れたのは泡麿であった。


「……そうであるな。さあ一国半兵衛らよ、そなたらは早く下がれ! ……ここは、我らが!」


 義角は半兵衛らを押し除け、泡麿に向き直る。

 夏加、盤慶も泡麿を睨むが。


「……くっ!」

「! 夏加!」


 先ほど暴れたことによってか、夏加は立ちくらみしてしまう。


「おやおや……? どうやら潰し合わせるまではいかんかったようやが、化け物娘一人くらいは弱らせられたかいな!」


 泡麿は夏加を嫌味な目で見つめ、嘲笑う。


「夏加を……侮辱したな?」

「……はえ?」

「はい、義角様……拙僧も腑が煮えくり返る思いにございます!」


 が、左様な泡麿には。

 義角も盤慶も、厳しい目を向ける。


「ああ……そうだな、苛つくよなあ頼常さん?」

「うむ、半兵衛殿。私も同じく。」


 そして先ほど義角により押し除けられながらも。

 半兵衛・頼常も前に出る。


「ううむ……我らを先ほど襲っておきながら、なんと白々しい!」

「おいおい……だから」

「いや、盤慶。……どうやらその者は、我らを襲った者ではないようだ。」

「な!」


 半兵衛を尚も仇と思い責める盤慶だが。

 義角のこの言葉に、驚く。


「奴の妖喰いは紫ではない……蒼じゃ。」

「!」

「ああ……ま、妖の血い吸った時には紫になるんだがな!」


 義角の言葉に、半兵衛は紫丸の刃を見せる。


「し、しかし……」

「いずれにせよ……今、こやつらと我らの仇は同じになったと見える! 早くあの蛙面を倒し……兄上の軍に加わらねば!」


 義角は、尚渋る盤慶を諭す。


「いいこと言うねえ……さあて! そうと決まれば」

「うむ……いざ、行こうぞ!」


 半兵衛・頼常も、改めて身構える。


「ふふふふ……はははは! それがしを倒す? ……ふん、それが必ず出来るや思うとることが腹立たしいなあ!」


 泡麿は再び高笑いをした後。

 次には怒りを声に滲ませ、今人質に取る継真らの軍に顔を向ける。


「止めよ! その者らに……手出しはするな!」


 義角は、叫ぶ。


 ◆◇


「くっ……私は……」


 夏加は返す言葉もない。

 自らのせいで、義角や盤慶にも面倒をかけ。


 あろうことか仇であるはずの半兵衛や頼常にまでも――


「……そんな顔をするな、夏加。」

「! 庶那……」


 が、そんな夏加の心の内を見透かしたがごとく。

 義角は夏加に、声をかける。


「し、しかし私は……前にそなたが言いしように足手まとい――荷物に」

「それは……もう、根に持たないでくれるか?」

「……え?」


 照れ隠しのように言う義角に、夏加は驚き彼の顔を見る。


 義角は、恥ずかしげに顔を赤くしていた。


「夏加殿。もはや先ほどの言葉は……義角様にとりても、余り触れられたくなきことなのだ。」


 盤慶も、義角に助け舟を出す。


「いやいや、坊主さん? それ、追い討ちにしかなってないんじゃ?」

「な! そ、そうなのですか義角様?」

「……うむ、盤慶も一度黙っていてはくれぬか?」


 義角は、更に顔を恥ずかしさに赤らめていた。


「も、申し訳ございませぬ義角様!」

「まあよい……盤慶、すまぬが夏加を頼む。」

「……はっ!」


 義角は尚も顔を赤らめつつも、気を取り直し。

 改めて、泡麿を睨む。


「癪ではあるが……行くぞ、一国半兵衛! 水上太郎頼常よ!」

「ああ!」

「元より、承知!」


 義角・半兵衛・頼常は。

 そのまま、泡麿に向かって行く。


「庶那……」


 夏加は。

 つまるところ、盤慶に守られて戦をただ見ているしかない自らに、もどかしさを覚えていた。


 ◆◇


「へえ……この人質が見えんのかいな、妖喰い使い共お!」


 泡麿は、継真らを尚も人質に取りつつ。

 自らに迫る半兵衛らに、叫ぶ。


「義角様……我らにはお構いなく!」

「ふん、ただの人質が口聞くなや!」

「ぐっ!」


 義角に向かい叫ぶ継真に。

 泡麿は怒りを見せ、迫る。


「止めよ! ……早風の法!」

「うおっと! ……おやおや、足早いなああんた!」


 そこへ、義角は。

 大日の法を使い、いち早く駆けつける。


「ああ……塩山(えんざん)の法!」

「おや!?」

「! よ、義角様!」


 義角は、続け様に。

 継真らの軍の周りを塩の山にて囲み、守る。


 たちまち、軍を取り囲んでいた送り狼の群れと泡麿は弾き出される。


「さあて…… nyxaris()umugwufu()、ywxobu ywxobu……tirihyxaru()uxo()、ywxobu ywxobu……isirxakuu(龍神)、ywxobu ywxobu! uxai(我らを) sikxon(救い) ixe(たまえ)!」


 義角は、腰に挿したる虎杖丸に触れ。

 そこに封じられた蝦夷の神々を、全て呼び出す。


「ほう……こりゃあ凄まじいなあ!」


 泡麿は、尚もゆとりを湛えて笑う。


「ああ……さあ、これで心置きなく戦い合えるというもの!」


 義角は、薙刀を振るい。

 蝦夷の神々に継真らを任せ、自らは泡麿に向かって行く。


「ほほ……さあ、来るんや!」

「はあっ!」

「ふん!」

「おや? ……くうっ、白溶裔!」


 が、泡麿の横からは。

 半兵衛が伸ばした紫丸の刃と、頼常の放った翡翠の矢が迫り。


 泡麿は慌てて、自らの右腕に取り憑かせている白溶裔を動かし防がせる。


「俺たちを忘れてもらっちゃ困るぜ!」

「その通り!」

「ほほう……こらあ、ますます面白いなあ!」


 半兵衛と頼常の攻めは、何とか右腕の白溶裔に防がせ。


 次には、白溶裔を彼らに攻めさせる。

 そうして自らは、目の前の義角目掛け。


 左腕に合わさっている水虎の爪を、振り下ろす。


「おうりゃ! ……頼常さん! 今の内に二の矢番えときな!」

「うむ、半兵衛殿!」


 白溶裔の攻めを、半兵衛は紫丸にて防ぎ。

 その陰で頼常は、翡翠に新たな矢を番える。


「ふん! ……蛙面、そなたの腕はこれしきか!」

「くう! ……ほお、やるやないか!」


 水虎の爪を、義角は薙刀にて受け止める。

 刃は妖の血を求めんばかりに、黄色く光る。


「よし、半兵衛殿!」

「ああ!」

「はっ!」

「くう!」


 そして、頼常も。

 矢を番え終え、半兵衛の陰より出て。


 白溶裔、ひいては泡麿目がけて殺気の矢を数多放つ。

 白溶裔は、防ぎきれず。


 泡麿の身体に、幾らか当たってしまう。


「ははは! そなたも多勢に無勢という所か?」

「ああ……そやな!」

「ん? ……くっ!」


 しかし、泡麿は少し怯みつつも別段意に介さず。

 再び、義角を攻める手を強める。


「くう! あの薬売の奴、殺気がそこまで効かねえってことはまさか人なのか?」


 新たな白溶裔の攻めをまた防ぎつつ、半兵衛が言う。


「ああ、それはあり得る! あの男は恐らく……そこまで高くはなき妖気を、ああやって妖を身体に取り憑かせることにより高めているのだ!」


 再び半兵衛の陰で殺気の矢を翡翠に番えつつ、頼常が彼に答える。


「なるほど……そりゃあ、厄介だな!」


 半兵衛は薄ら笑いを浮かべつつ。

 歯を食いしばり、白溶裔の攻めを尚も受け止め続ける。


「なるほど……これは見物であるな薬売りよ!」


 戦場から少し離れた木の上の弘人も。

 戦場の有様を高みより見物し、よい余興であるとばかり微笑む。


 ◆◇


「くう……半兵衛らは、どこに行ったのだ?」


 その頃。

 空を式神にて飛びつつ、水で戻した乾飯(かれいい)(乾かした飯)を椀から食う物が。


 何を思ったか、京から密かに半兵衛らの()()となり付いて来た中宮・聴子である。



 ◆◇


「頼暁様……黄瀬川が見えて参りました!」

「うむ……皆の者、あそこに陣取るぞ!」

「応!!」


 しかし、義角が泡麿と歯を食いしばり戦っているその時。


 その義角が合せんとしていた兄・頼暁は既に。

 静氏方・維栄軍と甲斐泉氏が既に睨み合う戦場・富士川の近く、黄瀬川に差し掛かっていたのである。

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