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京都の王〜THE KING OF THE CAPITAL〜  作者: 宇井九衛門之丞
第3章 庶那(泉義角、四葉夏加編)
25/62

#25 薬売〜THE RIGHT-HAND MAN OF THE SHADOW QUEEN〜

「頼暁様! 静氏の追討軍は、駿河国に入った模様!」

「うむ……そうか。」


 鎌倉にて。

 報せを受けた頼暁は、考えを巡らせ始める。


 水上兄弟と影の中宮一派の戦いより、十日余り後。

 維栄率いる、官軍の大義名分を賜った静氏軍は。


 頼暁を討つべく、その足を進めていた。


 しかし水上兄弟と半兵衛の戦の後。

 それによる乱れや、また総大将たる維栄と次将との諍いにより。


 この静氏軍が京を発つ日は遅れてしまい、その間に頼暁の安房での再挙と兵を整えての鎌倉入りを許してしまったのである。


 更には甲斐や木曽でも、泉氏の蜂起が進む中。

 頼暁の弟・九郎義角も兄に合したいと思い進軍した矢先に妖の群れに遭い、戦っていた。


 そして当の兄・頼暁は。


「……直ちに兵を集めよ、静氏の奴らに目に物見せてくれるわ!」

「はっ!」


 立ち上がり、戦いの意を表明し。

 家臣の実衡らも、これに応じる。


 ◆◇


「こ、維栄様! い、一大事にございます!」

「何事か!」


 翻って、駿河の維栄率いる静氏軍である。

 頼暁の再びの挙兵より、一日経ち。

 陣にいた維栄の下へ、従者が青い顔にて馳せ参じる。


「か、甲斐泉氏より使いが……こ、この果たし状を携えて来まして……」

「何!? 果たし状だと!」


 維栄は従者の言葉に、驚き立ち上がる。


 ◆◇


『静氏の将よ、かねてよりお目にかかりたいと存じていた。幸い宣旨の使者として来られた故こちらから参上したく候。が、路が遠く険しいのでここはお互い浮島ヶ原で待ち合わせること請い願う。よいお返事をお待ち申し上げる。』


「ほほう……私たちを煽っているのか!」


 果たし状を読んだ静氏の次将・氏原貞清はひどく立腹する。


 そのまま彼の目は、前の地に直に座る二人の使いへと憎々しげに注がれる。


「……もはや、せめてもの腹いせである! この者たちを叩き斬れ!」

「! は、し、しかし……兵法では使いの者らは、斬るものでは」

「ふん……それは、この戦が私合戦であればこそよ!」


 渋る従者を、貞清は促す。


「我らは官軍の栄誉を帝より! ……そして静氏一門が総大将・清栄様より賜りし身! 故に……この賊軍の使い共を、斬り捨てよ!」

「……はっ。」

「ひ……ひいい!」


 貞清の命を受け従者は、泉氏の使い二人に目を向ける。


 使い二人は、震え上がる。


「……悪く思うな。全ては不遜にも我らが将を嘲りし、そなたらが将の無礼さが故よ!」

「ひいい!」


 従者は、使い二人に刃を振り下ろす――


 ◆◇


「はは、ご苦労さんやったなあ弘人殿や!」

「ああ……思いしよりも、楽しめる戦であったな。」


 泡麿の言葉に天狗面――弘人は、素気無く答える。

 義角の軍へと攻め入り、半兵衛への憎しみを彼らに植えつける策を弄してすぐ後である。


「よおし……後は、それがしがやったらなな!」


 泡麿はちらりと自らの袖をまくり、にんまりとする。


「ふうむ……しかし、誠にそなたなどにできるのか? 如何にも、武の心得があるとは思えぬが?」

「ふふふ……はー、ははは! まあ、そう思われても致し方ないなあ……」

「? な、何だこやつらは?」


 弘人の言葉に、泡麿が微笑む。

 すると、周りより何やら妙なものを感じ。


 弘人が周りを見回せば、そこには。


 義角との戦で使われた送り狼に、布でできた龍神のごとき妖・白溶裔(しろうねり)


 更に虎柄の妖・水虎(すいこ)と。

 妖が、うじゃうじゃと。


「ははは、何を今更驚いてはるんや? ……妖に決まっとるやないか、なあ?」


 泡麿は弘人をやや嘲るがごとく笑う。


「いや、そんなことは無論分かっておるが……何をするつもりかと聞いておるのだ。」


 弘人も泡麿のその態度には、やや腹を立てる。


「おやおや、まあそんなに怒らんと……ま、そうやな。百聞は一見に如かずって奴や……さあ、妖共お!」


 泡麿は弘人を宥めつつ。

 周りの妖に命じる。


 たちまち妖たちは、泡麿を睨む。


「こ、これはどうするのだ?」

「ほほほ! まあ見とれや……さあ妖共お! それがしを……喰うんや!」

「! な、何!?」


 弘人は、天狗面の下で驚きを浮かべる。

 すると、妖は。


 泡麿の命の通り、彼を睨み。

 そのまま勢いよく、彼めがけて飛び上がり――


 ◆◇


「さあて……どうだい、頼常さん?」

「ううむ……いや、未だ見つからぬな。」


 翻って、半兵衛たちは。

 駿河ではない山の中にいた。


 いかんせん、刃坂麿が妖が出るであろうと予見した所がここだったためである。


「はざさんも……猿も木から落ちるって奴かな?」

「いや、そこは弘法も筆の誤りというべきでは?」

「いやあるいは……河童の川流れとか?」

「……いやいや!」


 刃坂麿にも間違いはあるのだなという言葉を巡り、思いつく限りの言葉を上げて行く半兵衛と頼常だが。


 事もあろうに『河童』と、妖の名を挙げて来た半兵衛に頼常は苦言を呈する。


「半兵衛殿、妖喰い使いがそれを言っては」

「あはは、戯れだって! なんだ頼常さん、堅物かと思えば洒落も通じる奴じゃねえか!」

「そ、そうか……? そ、それほどでも……いや、堅物とは心外な!」


 半兵衛の宥めの言葉に、頼常はやや顔を赤らめるが。

 すぐに半兵衛の言葉に引っかかりを覚え食ってかかる。


 と、その時である。


「!? ……頼常さん。」

「ああ、半兵衛殿……これは。」


 半兵衛と頼常は、にわかに妖の気をそれぞれの妖喰いを通し感じ取る。


 たちまち二人は、背中を預け合う。


「……頼常さん、矢を番えとけ! まあ案ずるなよ、実庵さんよりは下手かもしれねえが……矢を番える時ぐれえは稼いでやるからよ!」


 半兵衛は背中越しに、頼常に言う。


「ああ……半兵衛殿! ……精々、私の手を煩わせぬよう!」

「ああ、無論だ……いや、何い? そいつは心外だな!」


 半兵衛と頼常は、軽口を叩くが。


「……来たか!」

「うむ……はあっ!」


 妖気がいよいよ、近くに来たことを感じ。

 半兵衛は殺気の刃を伸ばし、頼常は番えていた殺気の矢を飛ばし。


 それぞれ自らの、前に放つ。


「ははは……どこを狙ってるんや、間抜けな妖喰い共があ!」

「! 上か!」

「くっ!」


 しかし、妖気の主は彼らの周りではなく。

 今まさに彼らが背中合わせにて立つ、その真上より迫っていた。


「はっ!」

「くっ!」

「ぶほっと! ……ははは、お初にお目にかかるなあ妖喰い使いらよ!」

「な……人か?」


 半兵衛と頼常はただちに分かれ、今自らがいた所を睨むが。


 上より落ちて来て土煙を今巻き上げている妖気の主。

 その姿を見て、更にその声を聞いて驚く。


 土煙の中に見える影は、確かに人の形をしている。

 ならば鬼かとも思ったがさにあらず。


 放たれた声は、確かに人の言葉である。

 ならば、影の中宮や翁面・尉面のごとき妖使いかと思えば。


 これも、さにあらず。

 その、姿は。


「あ、妖が……」

「ひ、人の手足に……?」

「くくく……あーっ、ははは!」


 それは、蛙面(かわずめん)を被った顔に。

 白溶裔が蠢く右腕。


 更に、水虎の爪が生えた左腕に。

 送り狼がついた、両の足。


 何とも、ちぐはぐした姿である。

 更に、その妖らは。


 いずれも牙を剥き出し、蛙面の手足に喰らいつく形で付いている。


 妖らを手足にくっつけているのはその手足にそれぞれ生える、獣の下顎のごときものである。


「あんた、見ねえ顔だが……あんたも、影の中宮さんとやらのお仲間かい?」

「ふふふ……はははは! 見ん顔も何も、元から顔なんか見てないやないかい!」


 半兵衛の言葉に蛙面――泡麿は、左腕の水虎の爪にて面で覆われた自らの顔を指差して言う。


「おいおい、戯れは止めてくれや!」


 半兵衛はふざける泡麿に、苦言を呈する。


「まあそうやな……ああ、その通り! 此度は……泉氏の命であんたらと戯れに来たわ!」


 泡麿は半兵衛の言葉に、答えを返す。


「そうか……ならいいや、頼常さん!」

「ああ……心得た!」

「何やて? ……うおっと!」


 半兵衛が、頼常に叫ぶや。

 泡麿が戯れる隙に翡翠に番えられていた殺気の矢を、頼常が放つ。


 たちまち矢は数多に増え、泡麿を襲う。


「おやおや……しゃあないなあ!」

「! 何!」


 が、泡麿もそこまでは揺らがず。

 何と自らの右腕と左腕より妖を切り離し、自らは未だ両の足に取り付かせている送り狼を使い走り出す。


「なるほど……いざとなれば、いつでも付いたり離したりできるか!」

「ああ、そや! ……そして。」

「くっ!」


 頼常は言いつつ。

 自らに向かい来る、白溶裔を狙うが。


 動きが早く、すぐに間合を詰められる。

 いや、白溶裔のみならず。


「頼常さん!」

「くっ……後ろからもか!」


 半兵衛の声に、頼常が振り返れば。

 後ろからは、水虎が襲いかかる。


「くっ……しかし私は侍! 弓矢のみが武ではない!」


 が、頼常は。

 すぐ様刀を抜き。


 そこへ緑の殺気を纏わせ。

 左の翡翠、右の刃にてそれぞれ。


 水虎、白溶裔を受け止める。


「よし、頼常さん!」

「ほほ……人のことばっか案じとる場合かいな!」

「おっと……来たかい!」


 が、半兵衛には。

 泡麿自ら、襲いかかる。


 泡麿は両の足の送り狼の爪にて、斬りかかる。

 半兵衛はすんでの所で、その爪を紫丸にて受け止める。


「ほほう……あの水上の兄なんて防ぎ役と分かれれば終わりや思うとったが、思いの外やるやないか!」

「ああ……あんた、前の戦も見てたか!」


 泡麿の攻めを防ぎつつ半兵衛は、その言葉にはっとする。


 どうやらこの男は、水上兄弟と翁面・尉面との戦も見ていたのかと。


「ああ……それのみやない! 知っとるでえ一国半兵衛……あんたが、あの以人王を見殺しにしよったこともなあ!」


 泡麿は――妖使いではあるが――鬼の首を取ったが如く、嘲笑いつつ言う。


「ほう……中々、痛てえ所突いて来るじゃねえか!」


 半兵衛はその煽りにより、少しばかり怒りを覚え。

 そのまま泡麿の爪を受け止めている紫丸に、力を籠める。


「ほほほ……煽られりゃあ怒るやなんて、子供やなあ!」

「ああ……言ってくれるな!」


 半兵衛は泡麿の言葉に。

 更に怒り心頭に発し、より紫丸に力を籠める。


 ◆◇


「皆、急げ!」

「は、義角様!」


 翻って、義角の軍は。

 彼に率いられ、尚も頼暁の下を目指していた。


「庶那……傷に響くのでは?」


 夏加は義角の身を案じる。


「いや、大事ない! 心配は要り申さぬよ!」

「そうか……」


 義角は夏加に、笑顔で答える。

 と、その時である。


「そうであるな……それしきの傷でくたばるなどと、早すぎる!」

「な……そなたは!」


 にわかに響いた声に、義角らが上を見れば。

 高い木の上には。


「一国、半兵衛!」


 暗き紫の刃を携えた、天狗面の姿が。



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