96『デブが怖くてはスイーツが食べられませんわ!』
落ちかけた意識をなんとか繋ぎ止め、再会の感動で危うく私を抱き殺しかけた後悔で落ち着かないクリスティーナ様を引き連れて、学院内に併設されているカフェテリアへ移動した。
移動の最中も私に張り付いて離れないクリスティーナ様……それだけで心配をかけてしまったんだろう。
毎日これでは身が持たないけれど、今日くらいは良いかなぁと妥協することにした。
本来なら今頃、学院内で一番大きなホールで今年の新しく王立学院へ入学する生徒の入学の式典が行われていることだろう。
私と同じく長期の休学を取っていたルーベンス殿下が学院へ復学するため、今頃式典で祝いの言葉でも述べているだろう。
本来なら全生徒参加のため、カフェテリアにいるばすのない私達に、カフェテリアの店員は何かを言うこともなく、にこやかに注文を取りに来てくれた。
「えっと、イチゴタルトとオレンジムース、生クリームチーズケーキとわっ、この季節のケーキ美味しそうですわね。 この新作も! あとミルクティーのホットで! ……いただけますかしら?」
メニュー表に並んだデザートの数々に片っ端から注文をかけていく。
しばらく貴族的な生活を放棄していた影響か、令嬢らしくない注文の仕方になりかけて取り繕った。
ふぅ……危ない危ない。 兄様達も久し振りに再会した父様も、なぜかゾライア帝国軍から戻って以来、私が令嬢言葉を使って居なくても怒らずニコニコしているため、つい出てしまう。
「私はレモンティーとオランジュショコラのケーキを……」
私に続いてクリスティーナ様が注文したのはレモンティーとケーキ。
オランジュショコラとはどんなケーキなんだろう……
他に客も居ないためすぐにケーキや紅茶が運ばれてきて、カフェテリアのおしゃれなテーブルの上は可愛くデコレーションされたお菓子で埋め尽くされた。
くぅー、美味しそう!
目を輝かせながらケーキ達を見詰める私にクリスティーナ様は食べながらお話ししようと提案してくれたので遠慮なく大好きなイチゴのタルトをフォークで崩して頬張った。
ほろほろと崩れるタルトの土台と、間に挟まった濃厚なクリームがイチゴの酸味で引き立ち、私は口のなかが幸せです。
「リシャーナ様があまりにお美しくなられていらっしゃって私驚きました」
「そうですか?」
「えぇ、お痩せになる前のリシャーナ様もおかわいかったのですが、どちらも甲乙つけられません」
ニコニコと告げるクリスティーナ様の声色に嘘はないように思える。
「前は完全に全身ふにふにでしたからね」
パクッっと生クリームがたっぷり乗せられたチーズケーキを口に含む。
うーんこれも美味!
クリスティーナ様も優雅にケーキを崩して食べている。 所作も綺麗……いつまでも乱雑癖をつけたままではいけませんね。
私はダスティア公爵家の娘! クリスティーナ様がリシャと呼んでくれなくなったのは悲しいけれど、ここは孤児院ではなく学院ですもの。
気持ちを切り替えていらっしゃるクリスティーナ様を見習って家族の恥となるような行動は控えなければ!
「うふふっ、リシャーナ様口許にクリームが……」
「へっ?」
正面に座ったクリスティーナ様が手に持ったハンカチで私の口許を撫でるようにしてクリームを拭き取ってくれた。
「はい、もう大丈夫ですわ」
「あっ、ありがとう御座います」
お礼を言えばにっこりと綺麗な笑顔が。あわわ、口を拭いてもらうなんて完全に子供だわ私……。
恥ずかしさに内心身悶えながらいると、クリスティーナ様の視線が季節のフルーツがふんだんに乗ったケーキを見ている。
もしかして食べたいのかな……?
「美味しそうですわよね、季節のフルーツケーキ」
「えぇ、とっても! でも既にケーキを注文してしまいましたし、もう一つ注文しても私食べきれるかどうか……」
そうだよね……、クリスティーナ様細いもの。 う~ん。
「よろしければ半分いかがですか?」
貴族的にはマナー違反かも知れないけど、他に人は居ないし良いよね?
「よろしいんですか! あっ、でもそれでも食べきれないかも……」
ぱっと花が咲いたような笑顔が直ぐにくもってしまった。
う~ん、甘いものは別腹な私とは違って少食なのかも知れないなぁ。 孤児院に滞在していた時も良く他の子供におかずあげちゃってたし。
う~ん、クリスティーナ様の前にはほぼ手付かずのオランジュショコラのケーキが……
「ショコラケーキも美味しそうですね……」
「あっ、あの! リシャーナ様がよろしければ半分いかがですか?食べかけで申し訳ありませんが、こちらは手付かずですし……」
「いただきますわ!」
自分で言っていて恥ずかしくなったのか尻すぼみになってしまったクリスティーナ様の申し出にちゃっかり便乗する事にした。
もっと小振りのケーキなら色んな種類の物を食べられると思うんだけどな……一口サイズ位のやつ。
半分こした二つのケーキ。 ついでだから他のも半分にしてクリスティーナ様に分けちゃおうかな。
三つ目のケーキを半分にして乗せたら焦ったクリスティーナ様に止められた。
「まぁ! うふふっ、リシャーナ様、私そんなに食べきれませんわ」
クスクスと笑うクリスティーナ様。二人で分けあったケーキを頬張る。
クリスティーナ様にいただいたケーキが美味しい。
「リシャーナ様……私、実は不安でしたの。 ドラクロアから出てしまえばリシャーナ様は公爵令嬢、もう友人として接していただけないんじゃないんじゃないかと……」
「えっ!? そんなことありえませんわ! 私ももっと仲良くしたいですし!クリス、ティーナ様がリシャと呼んでくれなくてちょっと凹みましたけど……」
凹みましたよ、だって愛称で呼んでほしいじゃないですか。せっかく仲良くなったのに。
「リシャとお呼びしてもいいんですか!?」
「もちろん。 私もクリスと呼んでもよろしいですか?」
「もちろんですわリシャ!」
互いに笑い合う。 あぁなんだか更にケーキの美味しさが倍増ししたなぁ。
「はぁ、本来なら在校生が全員参加を義務付けられている式典で姿が見えないと思えばこんなところで油を売っていたんですか」
背後から聞こえてきた声に振り替えれば、呆れたようすでこちらへやって来る美しい生き物が一人。
このローズウェル王国の第二王子カイザー・ローズウェル殿下だ。
どうやら今学年からカイザール・クラリアス伯爵子息としてでなく、第二王子のカイザー殿下として通うことにしたらしい。
一体なんのつもりなのか、伯爵子息をしていた方が楽だろうに。
どうやら私がゾライヤ帝国の軍に居たときも、第二王子として立派に政務をとっていたとうちのダスティア公爵で宰相のロベルト父様が言っていた。
これまで決して表に出ようとしなかったカイザー殿下が、なんでいきなりやる気になったのやら、父様いわく「察してあげなさい」とのこと。
なにを察しろと? 仕事しろ王子! 第一になぜ第二王子で今一番の玉の輿物件の貴方がここにいるのよ。
美形で優秀で、決まった婚約者が居ないため学院内の婚約者が居ないご令嬢や、その保護者様がたは、カイザー殿下の婚約者になるべく色めき立っているのだ。
国内外から数多の美姫の絵姿がじゃんじゃんと王城に押し寄せているらしい。
いやぁ、凄いねぇ。 頑張って。
「体調が優れずクリスティーナ様と休んでおりましたの」
「ほう? その割には素晴らしい食欲のようですが?」
テーブルの上の空になった皿をみで方眉をあげてみせる。
「おほほほほっ、とっても美味しゅうございました」
ケーキをグサッとフォークで刺して口へ運ぶ。
ちゃっかり自分の分の飲み物を店員さんへ注文したカイザー様は近くのテーブルから椅子を拝借して自分もくつろぎ始めた。
「ところでカイザー様はなぜこちらに座られていらっしゃるのでしょうか?」
「式典は義務だが、そのあとの歓迎会に王族は二人も要らないだろう」
紅茶を啜りながら常識だと言わんばかりに宣った。
「まぁルーベンス殿下がいらっしゃればそれなりには大丈夫ですかねっ、はむ」
もぐもぐと咀嚼しつつクリスティーナ様と分けっこしたオランジュショコラケーキをフォークですくう。
「美味そうだな……」
「美味しいですよ?」
口に運ぶ手をカイザー様に捕らわれて、強制的にカイザー様の口許へケーキを運ばれてしまった。
あー! 私のケーキが! こんにゃろう、そんなにケーキが食べたかったならさっき自分で頼めばよかったじゃないの。
恨めしげに睨めば、満面の笑みを浮かべたカイザー様と視線が交差する。
ちくしょう!
「店員さーん! ショコラケーキとシフォンケーキとプリン追加で! あと紅茶! も、くださいますかしら」
「それだけ食べてまだ食べるのかよ!?」
えーえー食べますとも!
「太るぞ……」
「デブが怖くてはスイーツが食べられませんわ!」
手元に残っていたケーキを食べる。 うん美味しい……あっ、ケーキの刺さったフォーク……がカイザー様の口に消えていった……
「カイザー様……もう少し自重は必要かと思いますわ。 リシャのフォークからケーキを強奪するなんてズルいです! 私でさえまだ半分こにしていただけるレベルですのに! 強引な殿方は嫌われますわよ?」
「君がそれをいうのか……」
「えぇ、リシャに近付く悪い虫を排除するのも友人の特権ですから」
二人でなにかボソボソ話していたけれど私は新たに運ばれてきたプリンに夢中で聞いていなかった。
「クリス! このプリンも美味しいですわよ! 食べます?」
「まぁ、いただきますわ!」
自分から菓子を薦める私とクリスティーナ様の親密な雰囲気に悔しそうな雰囲気を醸し出すカイザー様。
対称的にクリスティーナ様は上機嫌でカイザー様に得意気な笑顔を浮かべている。
はっ! もしかしてクリスティーナ様とカイザー様って仲良し? もしかしてルーベンス殿下とよりも親密じゃない?
それなら父様に相談してみようかな……
さすがに食べ過ぎたのか、胸元がモヤモヤするのでフォークを持つ手を止めた。
「ん? なんだもう食べないのか? 残っているようだが……」
「う~ん、少々調子に乗って食べ過ぎてしまいました。 カイザー様、よければいかがですか?」
まだ手付かずのシフォンケーキを薦めてみた。
「では折角ですからいただこうか」
そうしてカイザー様が手に取ったのはなぜか食べ掛けのショコラケーキ……、ショコラ好きだなおい!
美味しそうにショコラケーキを頬張るカイザー様に、うってかわってクリスティーナ様から殺気が……
平和で不穏な三人のお茶会は新たにやって来た邪魔者二人の参戦まで続くのだった。
ある日のクリスティーナの夢の中……リシャーナとお茶を楽しむクリスティーナにささやく悪魔(読者)の囁き……
『クリスティーナ? もし貴女がルーベンスと結ばれ、カイザーがリシャーナを娶ることが叶えば、貴女はリシャーナと姉妹ね?』
ガバッ! っと起き上がれば、外はまだ暗くまだ夜中であることがわかった。
傍らには愛用しているフカフカの蛙を模した抱き枕を抱き締める。
寝ぼけた頭にもハッキリと残る声……あれは、私の望む夢? それとも天啓?
「私とリシャが姉妹……?うふっ、うふふっ……」




