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美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!《コミカライズ完結!》  作者: 紅葉ももな
『悪役令嬢ってもしかしてこれのこといってます!?』

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86閑話 アランとリシャーナの出逢い『過去』

 本作をお読みいただいている皆様。いつもありがとうございます。

 いただきましたご感想の中にリシャーナとアランが初めて出逢った時の話が読みたいですとのご要望がありましたので、今回閑話とさせていただきました。

 またご報告ですが、現在本作品の加筆改稿工事を実施中です。作品のストーリーに大きな変更はない予定です。

 現在一話の工事が終了しました。ご迷惑をお掛け致します。

 俺の名前はアラン・ゾライヤ、ゾライヤ帝国の皇帝の第四皇子だ。


 我が国ゾライヤ帝国とフレアルージュ王国と国境を接するローズウェル王国の伯爵家から第一夫人として皇帝に輿入れしてきたのが俺の母オーレリアだ。


 立場的にはローズウェル王国で言うところの正妃と同じ第一夫人と言うことになってはいるが、実情は全く違う。


 輿入れの際には既に国内から娶った寵姫達がいて、世継ぎの皇子を含めて三人も皇子がいた。


 これ以上妃を迎える必要性を感じないにも関わらず母上が娶られたのは完全に政略といって良い。


 好戦的な隣国に半ば生け贄同然に嫁がされ、既に世継ぎもいる為、新たに子供を望まれることもない。


 妃としての実権や政はゾライヤ帝国の高位貴族の令嬢でこの国の宰相を父にもつ第三夫人のアーニャ様が掌握しているため、ゾライヤ帝国での母上は名ばかりのお飾りも良いところで、日がな一日後宮に与えられた自室で過ごす女だった。


 アーニャ様が産み落とした第一皇子アルファド兄上は俺が物心つく前に皇太子に立たれており、良く異国から嫁いできた母上を気づかうアーニャ様と共に良く遊びに来てくれた。


 兄上の話はとても興味深く、母親に似た優しい性格は優しさゆえに時に残酷な判断を強いらざるを得ない皇族として不安になるほどだった。


 イゼリア様はアーニャ様と同じく高位貴族の令嬢だ。


 イゼリア様の生家はゾライヤ帝国でも有数の軍事力を誇る名家だ。そして軍用費を握る宰相と、イゼリア様の父親は決定的に馬が合わなかった。


 イゼリア様の産んだ第二皇子イーサンは祖父の苛烈で好戦的な性格を如実に受け継ぎ、誰から教わったのか、お飾りとはいえ自分達の母親より高位の妃になった母上に嫌がらせを出来ない分、俺を見つければ第三皇子イヴァンと共にしょうもない嫌がらせをしてくる。


 そのくせ自分では手を出さず、同じく軍閥の下級の子息や使用人をつかって仕掛けてくる辺り小者感はぬぐえない。


 そんな俺でも帝位継承権は持っているため、頼んでもいないのに社交の場に顔を出せば年の近い娘が送り込まれてきた。


 強面のイーサン兄上や言い方は悪いが肉団子みたいな肥えたイヴァン兄上とは違い、母上に似た中性的な容姿はさぞ女たちに魅力的に見えるのだろう。


 俺の顔と皇子の肩書きにすり寄ってくる女に辟易しながらも、将来皇帝となったアルファド兄上を支えるべく、宰相が用意した教師の扱きにたえた。


 俺は学問や武術などの覚えも早かった事が禍し、気が付けばいつの間にかイーサン兄上を上回ってしまっていたらしい。


 そんなある日、母上が亡くなった。


 死因は表向き病死とされた。


 いつも通り後宮の庭園で一緒にお茶を飲んでいた俺の目の前で、突然口を抑えて嘔吐しそのまま……


 病死の訳がなかった、あんなに元気でその日も俺の他愛ない話を笑顔で聞いてくれて居たのだから。


 俺は咄嗟に胸元からハンカチーフを取り出して、母上が飲んだ紅茶を入れた茶器から、茶葉を取り出した。


 いつのまに混ぜられてしまったのかわからないが、そのままにしていたらきっと茶器は、証拠隠滅のために処分されてしまうだろうから。


 案の定、茶器は母上が倒れたと騒ぎを聞き付け集まった誰かの手によって、現場から消えていた。


 母上の葬儀の後、アーニャ様の庇護下に入ったあの日母が飲んだ茶葉を調べた。


 茶葉の中に強い毒性をもつ毒花を発見した。


 俺は茶葉の出所を必死に探ったが、いくら皇子の肩書きがあろうとも子供の自分に出来ることは限られている。


 父上である皇帝陛下に直訴したものの母上の死因は“病死”としてローズウェル王国の母上の生家に正式に伝えられてしまった。


 母上を目の前で失い頼みの綱だった父上、皇帝陛下は動かなかった。


 もしかしたら両国間での遺憾を作らない意図があったのかもしれないが、俺には関係がなかった。


 大切な母上を喪い皇帝陛下に裏切られたのだから。 その後暫くの間、俺は正直なにもやる気がおきなくなっていた。


 ただ無気力に過ごす日々、心配したアルファド兄上が忙しい中様子を見に来てくれることもあったが俺は一人になりたかった。


 一人になりたくても、常に人が俺に纏わり付いて離れない。


 自暴自棄になりかけた時、皇帝陛下から呼び出しを受けた。 なんでも母上の祖国からお客様が来たらしい。


 なんでもローズウェル王国の公爵様が俺と同じ年の令嬢とアルファド兄上と同じ年の子息を連れてきたと言っていた。


 面倒だ、俺の婚約者にでもするつもりなのかもしれないが、相手にするつもりはなかった。


 どうせ俺の顔や欲しくもない皇子の肩書きにすり寄ってくるに違いないのだから。


 どうやら遊び相手として陛下に呼び出されたのは俺とアルファド兄上だけだったらしい。


 イーサン兄上とイヴァン兄上は先日城内の壺を割ったらしく、自室での謹慎を言い渡されていてまだ処分が明けていなかった。


 アルファド兄上と共に挨拶し、陛下に紹介された人物は三人。


 陛下と年格好が同じ位の紳士と、青年と少年の間くらいの目鼻立ちの整った令息。そして俺が滞在中の遊び相手をするように勅命を受けた女は……丸かった。


 俺の周りに集まる娘は皆細身で吹けば飛んでいくのではないかと思うほどに身体の細さを競う。


 しかし目の前の少女は真逆を行っていた。


 ふっくら過ぎる頬と顎を引けばもうひとつ顎が増える。


 ニコニコと笑顔を向けてくるが、いったい目は何処だ?


 陛下の手前邪険にするわけにもいかず笑顔を張り付けて対応する。


「私たちはこれから話がある。 アラン、リシャーナ嬢を頼んだぞ」


 陛下はそう俺に言葉を残して部屋を出ていった。


 アルファド兄上も令息を連れて出ていったのだが、出ていく前に令息は丸い女を抱き締めると、そのままこちらに視線を上げ、なぜか睨まれた。  


 なんで睨まれなければならないんだと苛立ち、俺はリシャーナ嬢の手首を掴むとアルファド兄上を追い越して部屋を出た。

 

 どれくらい走っただろうか。 それまでヒイヒィ言っていたリシャーナ嬢が両足を踏ん張るようにして急に立ち止まった。


 怪訝な視線を向けると、自分の腕をつかんでいた俺の手を外すと、ペイっ! っと振り払った。


「はぁ、私自分で歩けますので」


 そう言って俺を置いてさっさとまた歩き始めた。 他所の国の皇城でこの令嬢は一体どこに行こうと言うのか。


「どこか見たいところはありますか?」

 

「どこでも……何があるのかわからないのでお任せします」


 今どこでも良いって言いかけなかったか? 暫く考えた後皇城の裏側にある庭園を思い出した。 時期的に薔薇が見頃かもしれない。


「そうですね……では庭園などいかがですか?」


「はい。 お願いいたします」


 肉でうもれた顔でわかりにくいが、笑顔で答えたように見えて、ひきつっていたのを俺は見逃さなかった。

 

 それからしばらくリシャーナ嬢を案内して回ったがどうもこの女、他の令嬢と勝手が違う。


 アバヤを着ない未婚の娘が珍しかったのもあるが、他の令嬢にするように誉めようのない容姿をなんとか誉めれば、凄い嫌そうに礼を言う。


 なぜだろう。 全身で避けられてる気がするのは。


「アラン様~!」


 そうしているうちに王宮に出入りしている黒尽くめの令嬢が数人駆け寄ってきた。


 あっと言う間にリシャーナ嬢を俺の側から引き離す。


「ごきげんよう!」


 取り囲まれて動けない俺に今日見た一番の笑顔を浮かべると、上機嫌で俺を置いて颯爽と歩き出した。


 ささやかな晩餐の席で、用意された食事を黙々と幸せそうな笑みを浮かべて食べるリシャーナ嬢の口許を兄であろう令息が世話を焼いてナプキンで拭いている。


 仲がいいのは結構だが、こちらの視線に気がついた彼女の兄が俺に自慢げな視線を寄越す意味がわからない。  


 自室に戻るなり侍女によって整えられたベッドから枕を掴みとると、苛立ちをぶつけるように絨毯が敷き詰められた床へ叩きつけた。


「なんなんだ! あの娘はー!?」


「ふふふっ、随分とリシャーナ嬢に振り回されているみたいだね」


 力の限り叫ぶと、一体いつからそこにいたのかアルファド兄上が壁に寄りかかるようにして立っていた。


「兄上! あの娘はおかしいです!」


 四六時中付きまとわれるのは嫌いだが、あんな扱いはもっと腹が立つ! 絶対に笑わせて見せてやる!


「ふふっ、ソレイユ殿が言っていたのだが、リシャーナ嬢は美形が嫌いだそうだよ?」


「はぁ!?」


 今だかつて俺の容姿について駄目だしされたことはなかったぞ! そうか、あの兄はソレイユと言う名前なのか。


「まぁ、毛色の変わったご令嬢ではあるかな。 ソレイユ殿がそれはもう溺愛されておられるしね」


「俺は妹姫に近付く害虫扱いですか」


「多分ね」


 そうか、だから初対面の時に牽制されたわけだ。 無駄なことを、しかし初対面の人間を牽制するくらい心配な妹君なら俺もきちんと遊び相手を勤めてやろうじゃないか。


 その翌日から俺はリシャーナ嬢を連れて城内を散策するようになったわけだが、まず部屋から誘い出すのが一苦労だった。押しても引いても手応えがない、この娘……手強い。

 

「どんくさいなぁ? このアラン様が直々に相手してやってるんだ。 もう少し楽しそうにして見せろ。 デブス姫?」


 苛立ちのままについ挑発した自分の幼さに辟易しながらも、つい悪態をついてしまった。


 くそぅ、こいつ相手に下手に出たら色々と負ける気がする、他の令嬢となら笑顔と世辞ですむのに、こいつには一切通じない。


「こんなデブスを相手にされるよりもアラン様の周囲にはさぞ美しい女性がおりましょう。 ほらあちらのご令嬢方がアラン様と仲良くなさりたいようですよ?私のことは気にせずにどうぞどうぞ」


 むしろ遠巻きに群れる令嬢達を示して、にっこりそんなことを告げながら、すぐに俺を他の令嬢に押し付けようとする始末。


 本当に失礼な娘だ! そうはさせてたまるか!


「……行くぞ」


 フニフニと柔らかな二の腕を掴んで嫌そうなリシャーナ嬢をぐいぐいと引っ張り、他の令嬢に邪魔される前に場所を変える。


 そんなことを暫く繰り返すうちにどうやらリシャーナ嬢が帰国する予定の前日を迎えてしまった。


 結局最後までこの女を振り向かせる事ができなかった……


 ぼんやりとしながら城の回廊をリシャーナ嬢の先導で歩かせていると彼女は突然しゃがみこみ、口許に手を当てて考えたそぶりを見せたあと、おもむろに壁の煉瓦を押した。


 ガゴンっ! と音がしたあとそこには大人一人がギリギリ通れそうな通路が出現していた。


「なっ!?」


 隠し通路! そんなものがこの城にあったなんて!


「あっ、やっぱり。 なんかおかしいと思っていましたの。 ここを通る度に足元がすうすうするんですもの」


 隙間に身体を滑り込ませるようにして止めるまもなく通路へと入り込んでしまった。


「こら! 待てって! 危険だろうが!」


「え~、大丈夫ですわよ。 それにこう言うのワクワクしませんこと?」


 ニヤリと笑うリシャーナ嬢の笑顔が印象的だった。 相変わらず肉に埋もれて目はないが。


 隠し通路を探索するのはとても心踊る時間だった。


 そうか、この娘と一緒だと“皇子様”をせずにそのままのアランになれるんだと気が付いた。


 別れ際、リシャーナ嬢は晴れ晴れとした顔でいるため、まるで俺だけが別れを惜しんでいるようで悔しい。


「またくるなら俺が直々に相手をしてやろう。 ありがたく思え」


 ついつい悪態をついたのは仕方がないよな。



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