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美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!《コミカライズ完結!》  作者: 紅葉ももな
『悪役令嬢ってもしかしてこれのこといってます!?』

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65『強制ブートキャンプ』

 強制ブートキャンプで陣内に沢山の知り合いができ、兵士さん方は皆さん良い方ばかりで一月ばかりたった今、私はすっかり軍に馴染みました。


 初めこそどこからともなくアラン王子が連れてきた得体の知れない不審者の私にアラン王子の側近達はそろって怪訝な顔をしましたけど。


 側近達がいくら苦言を呈しても断固として側から離さないため諦められた模様です。


 これまで人を寄せなかった王子に危険性を説いても問題ないの一言で、私を自分の天幕の中に引きずり込む為、どうせ監視が必要なら纏めてしまえと言うことで、アラン王子の天幕の隣に棲みかを与えられました。


 不用心ですよね、私が暗殺者だったらどうするのよ。


 アラン王子は昔から女性を寄せ付けないらしく、一部では男色家なのではとの噂もあるようで、突然なんの脈略もなく側仕えに上がり、王子が側から離さないため私は軍の中ではすっかりアラン王子の男妾扱いです。


 これってさ、天幕隣なのは監視目的だけじゃないわよね? いつでも行き来が出来るようによね? まぁアラン王子は男色家らしいし、私は男じゃないから安全だからいいけど。


 フレアルージュ王国との小競り合いは続いているものの、大きな戦いには発展せず膠着状態のため正直安堵してたりします。


 いつでも全軍がフレアルージュ王国へ向かって進軍可能な状態だったのだけれど、走り込んできた伝令にムキムキマッチョの第二王子様が出陣に待ったをかけた。


「フレアルージュ王国がローズウェル王国と手を組んだようだ。 全く小賢しい小国が手を組むなど無駄なことをする」


 自分の天幕に戻り忌々しそうに報告書を読みながらアラン王子を一瞥しながらも、常に女性は傍らから放すつもりはないようです。


 天幕には三人の王子様と側女達……側近じゃないよ?側女……


 側近は人払いされてます……


 まぁ、いっか、他国だし。 どうやらルーベンスは無事にフレアルージュ王国との同盟を結ぶことが出来たようで内心安堵した。


 ソレイユ兄様が同行している為、大丈夫だろうとは予測していたけど、私が行方不明になったと知れたら正直厳しいかも知れないと心配していたのだ。


 天幕は人払い……王子達の側女は除く、がなされて居るため、王子達の側近により警護されています。


 天幕の外で警護を言いつかり周囲を警戒しつつ、側近は私を監視しながら漏れ聞こえる情報に聞き耳をたててます。


「なに、所詮は雑魚の集まりですよ兄上。 蹴散らして仕舞えばいいではありませんか」


 ガサガサと音をたてて菓子を食べているだろう第三王子様。


 くそぅ、その菓子を寄越せー! 甘味が欲しい……こちとら味のしない野菜スープともそもそパン、たまに兵士さんらが自給した鹿肉や猪の切れはしがでるだけなのよ!


 アラン王子は兵に混じって同じものを食べているから、第二・第三王子様方が食べているような豪華な食事はまず出ない。


「小国とは言え二国を相手にするのは現在の兵力では危ういと思っております。 出来れば情報を集め、機を伺うことを進言致します」 


 アラン王子の進言も虚しく勢いのままに進軍した第二王子様が率いる軍は進軍を予測して罠を張って待ち構えていたフレアルージュ王国とローズウェル王国混合軍に呆気なく敗走、すぐに舞い戻ってきました。


 まあ妥当でしょうね。 


 ルーベンスは戦力外としても、ローズウェル王国の守護神グラスト閣下がついてますし、それにソレイユ兄様がいるからね。


 そんなわけで負傷兵士の看護のために陣内を駆けずり回り、迷子になってはアラン王子の側へ連行されを繰り返した結果、陣内に受け入れて貰え、私が迷う前に陣内の皆さんが声をかけて行き先である目的地に無事に着けるよう修正してくれるため大変ありがたいと同時に脱出不可能になりました。


 アラン王子の言い付けで下女さん達が纏まった区域に軍で必要となる食料や雑貨等の備品で補充が必要な物をリストアップしてもらうため、居住区へ向かう途中で自分を呼ぶ声に振り向くと熊がいました。


 違うな、熊のように立派な体躯に延び放題の髭を蓄えた壮年の男性が酒の瓶を片手に手招きしてます。


「おーい、ダーナ! ちょっと待て、これをアラン殿下に届けてくれ!」


「はーい! ゾロさん、あんまり飲み過ぎると使い物にならなくなるんだから程ほどに……ってこれは軍備に関係無いでしょ! 却下! しかもそのお酒は医療用です! 飲んじゃ駄目」


 ダーナとは私の偽名だったりする。ダスティアからダと、リシャーナからーナでダーナと命名なんだーなー……はい。


 昼間から非番だと言って酒瓶片手にアラン王子宛の書類を寄越した人は、ゾロさんと言ってこんなんでもこの軍を纏める隊長さんの一人だ。


 気の良いおじ様で初日からアラン王子から私の訓練を頼まれているらしい。


 使い潰す勢いで馬車馬のように、アラン王子の側近として事務仕事や雑用としてこきつかわれ、休憩といってブートキャンプ。


 一つ言いたい、それ休憩と違うからね。


 初日はちょっとしたランニングで倒れましたよ。


 筋肉痛と格闘した日々が懐かしい……


 全身筋肉痛と戦いながら羽根を利用した筆を持つ腕をプルプル痙攣させながら、休憩と称してアラン王子の前に山のように重ねられた書類と格闘するのがすっかり日常になった今日この頃。


 お陰ですっかり身体が軽くなりましたとも。姿見の大きな鏡が無いので見えないのが残念だけどもね。


 軍備予算で落とすようにとゾロさんから渡された書類に書かれていたのは高価なワインなどの酒や煙草などの嗜好品、娼婦たちへ貢ぐためのドレスやら宝石やらって、ここは一応最前線ですよね?


 ゾロさんに書類を押し返せば、焦ったように押し付けてきた。


「一回受け取ったもんを返して寄越すな!」


 返すわ! こんなものアラン王子の所に持っていったら殺されかねん!


 朝から晩まで強制的に走り込みから、筋肉トレーニング、剣の素振りをさせられて、溜まりまくったアラン王子の鬱憤を晴らすために、剣術の相手をさせられる私の身にもなってよ。


 まず、これから自分達が攻め入ろうとする国の宰相娘に機密書類ポイポイ寄越すの可笑しくない?


 軍の配置図やら補給の配置、軍備予算の計上やらなにやら、これって普通に生命線だよね?


 今押し付けられようとしている物もだが、はっきりいって見たくない!


「却下すんな! 元はと言えばこれは王子様方の経費なんだ。 お前が持ってけ、な?」


「な? じゃありません! なんで私がアラン王子の機嫌が悪くなる未来しか無いものを持っていかなきゃならないんですか! これはゾロさんが頼まれたんでしょう?」


「そう堅いこと言うなって! お前は殿下のお気に入りなんだから大丈夫だって! ほらご褒美に飴をやろう!」


 ぎりぎりと力比べをしながら押し付けあう私達の様子をまるで余興のように遠巻きに観戦するように外野が集まりだした。


 陣内で甘味なんて出るはずもなく、一瞬ぐらりと飴の誘惑に負けかける。


「ありがとう……って飴なんて一体何処から……ちょっと、もしかして!?」


 第三王子様の私物に、娼婦達へ渡すために先日押し付けられた書類の項目を思いだし、目の前のゾロさんに詰め寄った。


 物資が圧倒的に足りず衛生面に不足が生じやすいため、清潔を保つために短く切り揃えた黒髪……まず髭を剃りなさい!と同じく黒石のような眼が私から逸らされる。


「ゾロさん!」


「それじゃぁ頼んだからなぁ~!」


 さっさと飴と書類を押し付けて脱兎の如く離脱したゾロさんを次回顔を合わせたら絶対に持っている飴を全部没収する決意を固めて仕方なくアラン王子の元へ歩き出した。


 いつも王子が政務をとっている自室兼執務室になっている天幕には人がおらず首を傾げていると、後ろから声を掛けられた。


「ダーナ、殿下なら天幕には居られないぞ?」


「アラン殿下はどちらへ?」


 すっかり顔馴染みとかした兵士に問い掛ける。


「あぁ、第二王子殿下に呼ばれて中央へ向かわれたよ」

 

「了解、行ってみるよ」


 それだけ告げて私は天幕の近くにやって来ると、アラン王子が居る筈の天幕から 抑えられない艶やかな女性の嬌声が聞こえ、足を止めた。


「アラン殿下! 書類をお持ちしました~!」


 天幕の外から声を掛けるとピタリと嬌声が止んだ。


「あぁはいれ」


「失礼します!」


 天幕の中から入室の許可を貰い中へ入れば、仕切られた狭い空間の中央にポツンと置かれた机に山と積まれた書類が目に入った。


 机の向こうで揺れる銀色の頭頂部でアラン王子がそこにいるのがわかる。


「言われていた書類です。 確認願います!」


 圧し殺した嬌声が次第に大きくなるのと、書類に走るアラン王子の顔付きが比例するように険しくなっていく。


 職場環境酷すぎる。パワハラだよ! 労働基準監督署はどこですか!?


「ダーナ……」


「はい! なんでしょう」 


 地の底を這うような低い声に反射的に逃げる私に良い笑顔を向けてきた!


 それはもう、年齢など関係なくご婦人方を次々と魅了するであろう美しい御尊顔に怖気立つ。


 野生の勘が全力で私に逃げろと告げてくる。


 私は知っているのよ! アラン王子がこの神々しい笑顔を出してきた時ほどろくなことがないと言うことを!


「さて、遊ぼうか?」


 いやー!

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